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悪役令嬢による『初ざまぁ』のようです

「それで、なんで俺とお前が王都デートしているんだ?」


 初めての王都散策にキョロキョロしていると、ねめつけるようにしてリアムさんがそう言った。


「肝心のラルフが早朝には『先に店に行く』って言って出て行っちゃったんだもん。でもラルフの店なんてどこにあるか知らないし……」


 当初は閑静な都内の一角に店があるのかと思っており、ヘレナに場所を聞くと「簡単にお答えできるような場所ではございません」と珍しく解答を拒否されてしまった。ゲームの中ではラルフの店に行くというコマンドがあり、それを実行することで簡単にお店に行けた。


 しかし現実はそんなに単純ではなかった。一つの大きな都市が城壁で囲まれており、その内部を“王都”と呼んでいるらしい。王や王妃様が住んでいる王宮はその王都内の中心に位置し、それを囲むようにして商店や娯楽施設がひしめき合っているのだとか。


 そんな無数の商店の中からラルフの店を案内するというのは、確かに難しそうだ。ならば一緒に来てほしいと頼んだが、やはり珍しく『午後の仕事がありますので』と断られてしまいリアムさんが一緒に行くことになった。


「まぁ、都内とはいえメイドとあんただけじゃ、危なっかしいからいいけどな……」


 決して乗り気ではない……という体を装っていたが、少なからず彼もまた王城散策を楽しんでいるのはその横顔から伝わってくる。


『意外に子供なんだな』


 リアムさんの新たな一面を発見したような気がしたが、口にすると怒られそうなので時々横顔を盗み見るだけにしておいた。王都内にある神殿から徒歩十分とそこそこの立地にラルフのショップはあった。重厚な門構えだが、ガラス張りのショーケースには色とりどりの小瓶が並べられており思わず歓声と共に駆け寄る。


「王都内ではクオリティ、値段共にお高いことで有名だ」


 そう言われて小瓶の下に張り出された『十ゴールド』という値段に思わず首をかしげる。


「十ゴールドってどのくらい?」


「ヘレナ達メイドの初任給は二十ゴールドで、庶民なら三十ゴールドもあれば四人家族が一ヶ月生活できるかな」


 だいたい一万円=一ゴールドということだろうか。改めて値札を見て私は目を見開く。


「この小瓶が十ゴールド?!!」


「もしよろしければ店内もご覧になってくださいね」


 私達の店頭での騒ぎを聞きつけたのか、店の中から白髪のエルフが顔をのぞかせた。ラルフ程ではないが整った顔立ちをしており、イケメン免疫がついている私でもポーッとしてしまう。


「ラルフ殿に用があるんだが」


 リアムがそう言うと、エルフは汚いものでも見るような目でリアムを見てため息をついた。


「これはこれはリアム様ではございませんか。その節は同胞が大変お世話になりました。ラルフ様でございますね。そこで少々お待ちください」


 慇懃無礼という言葉がピッタリな態度で、その場をエルフの店員は立ち去った。


「リアムさん……なにしたの?」


「あぁ~だから一緒に行きたくなかったんだよ」


 そう大きなため息をつくリアムさんは、やはり子供のようだった。



 エルフ店員に案内され店内に入ると、一番最初に出迎えてくれたのはラルフではなく、なんとシャルルさんだった。


「リリィ様……」


 青ざめたような顔で私をみるシャルルさんの手には何か紙が握られていた。


「これはシャルル嬢、奇遇ですな。デザインですか?」


 リアムさんは硬直しているシャルルさんの手元から紙を奪い取る。


「ラルフさんに見ていただこうと……」


 ゲーム内ではラルフの店に行くことで好感度を上げられるが、ただ店に通っているのではなくデザインを披露するという体だったことを思い出した。そのため『芸術』『ビジュアル』パラメーターが一定以上にする必要がある。


「あら、素敵なーー」


『素敵なデザインじゃない?』と言いかけて、思わず言葉を失う。センスのいいデザインではあるが、これは明らかにCHA〇ELやBVL〇ARIなどハイブランドの香水と同じデザインではないか。もしかしたらシャルルさんも異世界転生してきた人物かと思っていたが、その確信はさらに強くなった。


「シャルルさん……この番号の意味ご存知でして?」


「番号?」


 リアムさんの疑問に、私は『No5』とボトルに描かれたデザインを彼に渡す。


「有名なデザインですわよね。これ……」


 シャルルさんは勿論だが、無言のままだ。


「ご存じないようなら、教えて差し上げますわ。開発段階で二十四番まであった製品のうち、五番目のサンプルを商品化したことから『No5』と名付けられたんです」


 知っていたならば、意味のない五番など付けないはずだ。


「初めて合成香料の開発に成功した素晴らしい商品だと私は思っております。そのデザインを香水にあしらうのは元の商品に対してもですが、こちらのお店の商品に対する冒とくだと私は思いましてよ?」


 愛用できるような値段の商品でもなかったが、大学の『ブランド経済学』の授業でこのエピソードを聞いた時、社会人になったらぜひ手にしてみたい商品だと思っていた。(結局叶うことはなかったが……)そんな私の想いすらもこのパクリデザインは冒とくしているような気がした。

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