平等性のためローテーションが導入されているようです
「ごめんなさい。私の思慮が足りませんでした」
アーロンの自室で私は改めて頭を下げた。結局、夫人達へお祝いの言葉を述べた直後にラルフが合流し、三人で式典に参加することとなった。ヘレナの心配していた通りアーロンは、まるで従者のようにラルフと私の後を歩かせることになってしまったのだ。
「あのような場所は慣れないので逆に助かった」
本当に『助かる』わけなどなかった。アーロンのご両親からは無視され、シャルルは再び涙を見せた。全てが裏目に出たといっても過言ではない。
「本当にごめんなさい。次の機会を用意しますので……」
そう言って退室しようとするとアーロンは私の手を引き、再びソファに座らせた。
「次より……もっと普通に話して欲しい」
「普通……?」
「リリィは二人だけの時はエドガーやリアムに軽口を叩くより、もっと自由だったから」
確かに何となく年上ということで、アーロンやラルフには敬語を使っていた。ゲーム内でもヒロインは早々にアーロンのことを呼び捨てにし、周囲をハラハラさせていた気もする。
「分かりました!……じゃなくて、分かったわ」
若干、目元に力を入れてそう言うと、アーロンさんは顔を崩して微笑んだ。普段は仏頂面のアーロンさんもこんな笑顔になるんだ……と驚いていると、そのまま抱きしめられ唇を重ねられた。それは軽く触れるようなキスだったが、アーロンとのスキンシップが短期間のうちにバージョンアップしているような気がして、新たな問題の発生を感じた。
これまでの話を総合すると、おそらく離宮にいる五人とリリィさんは肉体関係にあるに違いない。
そこで問題が生じる。
私は彼らと一線を越えてしまっていいのか…という問題だ。平凡な女子大生時代でも、彼氏はいたこともあり(すこぶるイケメンというわけではないが)全く経験がないわけではない。さらに離宮にいるメンバーに触られても不快感はないし、それ以上の行為についても時間が経てば受け入れることもできそうだ。
ただ問題はリリィさんの許可を得ていないということだ。何度か自分の中にいるかもしれないリリィさんに呼びかけてみるも、当たり前だがリリィさんからの反応はない。もし私がヒロインだったならば、あまり悩まないのだが、いかんせんゲームには悪役として出ていたリリィさんだ。何を考えているのか全く分からない。
「聞いておられますか?」
ヘレナの声に我に返る。あれやこれや考えているうちに、すっかり夜がふけてしまっていた。
「あの…すみません。聞いていませんでした」
正直にそう明かすと、ヘレナは静かにため息をつき再び私の髪をとかしだした。
「何時もならば、今日はラルフ様の日ですが、どうされますか?とお尋ね致しました」
「ラルフ様の日?!」
「離宮には五人の婚約者様がいらっしゃりますので2日に1回、順に婚約者様の元で夜をお過ごしでした」
「二日に一回?!!」
「夜を過ごす?!」
突然のパワーワードに思わずヘレナを振り返ろうとしたが、素早く手で制止されてしまう。時間が経てば…と呑気なことを考えていたが、意外にも問題は早急に解決する必要がありそうだ。
「うーん、それであんたはどうしたい?」
『ラルフ様の日』
について相談するため私はリアムさんに救いを求めた。何だかんだとリリィさんの本当の意志を知っているのは彼のような気がしたし、私がリリィさんではないことを知っているのも彼だけだ。
「どうしたい…と言われても」
話題が話題だけに思わず口ごもるとリアムさんは、大した問題ではないという風に笑った。
「無理強いはしないが、別にリリィはあんだが誰と寝ようが気にしやしないと思うけどな」
「ええっ!?」
「流石に他の婚約者との情事なんて詳しく聞いたことはないが、リリィにとっては全てが王になるための手段だったからな…」
確かにアーロンとのやり取りを見ていると、言葉よりも身体の関係の方が大いに役立ちそうな気もする。
『悪役令嬢になって女王になる』
と先日覚悟したばかりだが、リリィさんとの覚悟の違いを見せつけられたような気がした。今の私にはよく知りもしない男性と関係を持つなど、それが女王になるためでもできなかった。ただ今できる最善は尽くしたかった。
「と、とりあえず、するかしないかは別として、ラルフが待っていると思うので行ってきます」
私は重い足取りと共にラルフの部屋へ向かうことにした。