本妻妊娠中の浮気…王宮でもあるあるのようです
「お祝いが5つ?」
その事実に私は思わず目を見開いた。
「王妃様が第一王子をご出産されたのを皮切りに王宮では同じ月に次から次に王子様が誕生されているので、お祝いの儀もまとめて行うことになっております」
ヘレナの解説に私はうーんと小さく唸る。妻の妊娠中に夫が浮気をする話はよく聞くが、王宮でも同じようなことが重なったのだろうか……。
「俺も行きたかったなー」
お祝いの品を確認している私達の横でエドガーがつまらなさそうにため息をつく。
「次は一緒に来てね」
そう慰めたが、内心はこの荷物量ならば荷物持ちに来てもらっても問題ないような気がしていた。ただヘレナは
「エドガー様やラルフ様がいらっしゃいましたら、アーロン様が荷物持ちにさせられてしまいます」
とガンとして譲らなかった。今回の祝賀会のエスコートはアーロンに頼んだのだ。せめてシャルルには、大切な婚約者として扱われているアーロンの姿を見せてあげたかった。二人の関係がもう元に戻すことができないならば、悪役令嬢として諦めがつくような状況を見せてあげるべきだろう。
「そう言えばラルフは?あいつ王妃様のお気に入りだから、絶対行くと思っていたんだけどな」
「お気に入りなの?」
「そうそう。離宮に来たのだって、王妃様からの推薦でさ…若干押し付けられたって、感じだけどね」
初耳の事実だったが、妙に納得してしまった。他の婚約者とは待遇や態度が明らかに違うのは、これが原因だったのか…。
「なんでも故郷のエルフの王国から亡命する際、王妃様が助力したらしくって、一時期は王妃様の元で生活していたこともあったらしいよ」
「それは男女の関係という意味で?」
「そうとも言われているし、そうでもないとも言われている。俺は絶対、ヒモだったと思うけどね」
珍しく下世話な笑みを浮かべ、そう語るエドガーの言葉は妙に説得力があった。
「ま、二人の関係はよく分からんが、王妃様にもラルフにも気をつけるべきだと俺は思うがね……」
そう言いながら部屋入ってきたのはリアムさんだった。
「ラルフは式典の準備で王宮に行っているから、安心してアーロンを連れて行ってやれ」
「次は俺の番だからな」
二人の笑顔が私の背中を押してくれたような気がした。
「お誕生日おめでとうございます。王子様の健やかなご成長を心よりお祈り申し上げます」
王妃様の部屋でそう挨拶すると王妃様は
「お忙しい中、王子のためにわざわざありがとう」
と形の整った笑顔を向ける。一歳児を抱える一般的な母親像とは乖離しており、さすが王宮……と感心させられた。ヘレナに持たされたお祝いの品を渡し、退室しようとすると「あら」と呼び止められた。
「ディースターヴェック家のアーロン様でしたのね。エドガー様はお元気?」
「生憎体調を壊しておりまして、離宮で休ませていただいております。後日、改めてお祝いに伺いたいと申しておりました」
用意していた言葉をスラスラと並べると、「それは大変」と王妃様は顔をしかめる。しかし少しするとパッと顔を明るくした。
「実はエドガー様がいらっしゃると思ってラルフはご一緒するのを遠慮していたみたいなの。もしお嫌でなければラルフもお連れいただけないかしら?」
そう言われ、自分の思慮の足りなさに気づかれた。そしてリアムさんとエドガーの言っていた言葉の意味をようやく理解した。
この人は私の……いや……私達の敵なのだということを。
アーロンに慌てて視線を向けると無言で小さく頷いた。ごめんなさい、そう心の中で謝りながら、私は精一杯の笑顔を王妃様に向けた。
「ラルフ様は本日の準備のためお忙しいのかと思っておりました」
「まぁ、こんな可愛い婚約者にちゃんと説明しないなんて、200年近く生きていてもまだまだね。式典までにはリリィ様の元へ伺うよう伝えておきますわ」
表面上は感謝の気持ちを伝えつつ笑顔で王妃様の部屋を退出したが、腸が煮えくり返りそうな程、怒りを覚えていた。