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悪役令嬢に華麗に転生したようです

 目を開けたら、そこにはイケメンの顔がズラリと並んでいた。



 後頭部に鈍い痛みを感じ、ロッキングチェアから落ちたことをにわかに思い出す。家族が心配して救急車でも呼んだのだろうか…。身体を起こそうとすると左端にいた金髪イケメンがサッと支えてくれた。


「大丈夫か?」


 心から心配したような顔に、思わず顔がにやけそうになる。いやいや、これもこの人の仕事の一貫なのだから浮かれるな、浮かれるな…と自分に言い聞かせた。


 すると今度は右端の黒髪イケメンが私の手を取る。脈を取るにしては、えらく情熱的に両手で包まれ思わずドキマギしていると


「まだ痛むのか?」


と顔をのぞき込む。イケメンです……。


 金髪イケメンが典型的な王子というならば、この黒髪イケメンはワイルド系といったところだろうか。浅黒い地肌に彫りの深い顔立ちはエキゾチックな色気を放っている。


「ちょっと後頭部が…」


と言うと目の前にいた茶髪のメガネイケメンが金髪王子を押しやるようにして私の隣に座った。


「医師は軽い衝撃だから大丈夫と言っていましたが…」


 そう言って私の後頭部を優しく触る。まるで大切な壺かなにかを触るような恐る恐ると言った手つきで。


 医師という存在が彼らでないならば、この人達は誰なのだろう…という新たな疑問がふと浮かび上がった。救急隊員、看護師…何にしろ顔面偏差値の高さに驚かされる。ふと部屋を見渡すと豪華絢爛な造りのベッドに内装。


 あぁ、こりゃ、ベッドの差額とんでもないことになるぞ…と新たな悩みの種が出てきた途端、勢いよく部屋の扉が開けられた。


「大丈夫か?!!」


 勢いよく開けられた扉からは、少しくたびれた感じの中年男性が飛び込んできた。そのままの勢いで私のベッドに向かう彼をメガネイケメンが軽く睨みつける。


「お静かに…」


 しかし男はその小言を無視し、メガネイケメンを押しのけて私を抱きしめた。あまりの勢いに情熱的に握られていた黒髪イケメンの手が解けた程だ。


「あぁ…良かった」


 そう小さく呟いた男性は微かに震えており、大きな体からは小さな恐怖心が伝わってきた。


「お身体に触ります」


と怒りを帯びたメガネイケメンの声に、男性はハッとした様子で私から体を離し、すまんすまんなどとにわかに弁解を始めた。改めて間近で見るとこの男性も顔立ちは整っているのが分かる。だが、いかんせん見知らぬ人だ。おそらく混乱して大切な恋人か妻と私を勘違いしてしまったのだろう。


「あの…人違いじゃないでしょうか?」


 恐る恐るそう言うと、男は勢いよく私に振り返り驚愕の表情を浮かべた。


「リリィ…だよな…」


 いやいやいやいや、リリィってなんだよ、と笑いだしそうになったが、必死な彼を前に何とか堪え首を傾げるだけにとどめた。すると今度は金髪イケメンが泣きそうな表情を浮かべる。


「やっぱり呪いだったんだ…」


 金髪イケメンの話を総合するとこうだ。



 私は現国王の長女・リリィらしく、ここに集まった彼らはリリィさんが作ったハーレムに集まった(集められた)イケメンなのだそう。



 金髪イケメンは、幼なじみらしく公爵家の長男。名前はエドガー。昔なじみということでハーレム入り。


 黒髪イケメンは、アーロン。伯爵家の次男で夜会で知り合ったらしい。


 メガネイケメンは学者で、名前はシリル。貴族ではないがリリィさんに懇願されてハーレム入りを承諾したのだとか。



 そんな彼らと今日午後のお茶会を楽しんでいる最中、メイドが持ってきた手紙を開けた瞬間、リリィさんは気絶してしまったという。


 ここまで説明されて私は一つの重大な事実に気付いた。彼らは、私が先ほどまでプレイしていた『どきどきプリンセスッ!王宮の花』の登場人物であるということを。大学でできた友人・智子に「面白いから」と言って押し付けられたゲームで、「あの登場人物がカッコよかったよね~」という話に合わせるためにメインキャラクターの攻略のみをサラっとプレイしていたのだが……。


 何かのドッキリだろうか。

 

 一般人を騙すには手もお金もかかりすぎている。少なくともこのイケメン達に日本語を喋らせるだけで数百万円はかかるだろう。そんな壮大なドッキリを素人である私にしかける可能性はかなり低そうだ。


「医師はなんと?」


 エドガーの話を聞いて唸るようにして、そう言ったのはリアムさん。メインキャラクターではないのであまり知識がないが、男爵でありながら商人としても活躍しているセレブおじ様キャラだった気がする。


「倒れた時の衝撃で後頭部を打たれていますが、他には外傷はないとのことでした。だから安心していたのですが…」


 シリルの説明に他の二人もコクコクと頷く。確かに私が意識を取り戻したのはついさっきのことで、彼らが異変に彼らが気付けなかったのも仕方ないことだ。だが、リアムさんはそれに対して静かな怒りを感じているようだった。


「ラルフには見せたのか?」


 リアムさんにそう問われシリルは首を横に振る。


「この手の魔法には、エルフの方が詳しいからな…。俺にも知らせが届いたってことは、あいつにも伝えたんだよな?」


 その追求を躱すようにエドガーが立ち上がる。


「ほら、神殿が光った。もう来るんじゃないかな…」


 窓の外をみて話を逸らしたくなるほどリアムさんから静かな怒りがヒシヒシと伝わってくる。その息苦しい空気をかき消すように私もエドガーに質問した。


「ラルフさんもハーレムのメンバーなんですか?」


 その言葉にエドガーの顔はパッと明るくなる。


「ラルフはね、エルフの国の王子だったんだよ。でも内戦で国を追われて、ここの一員になったんだ。政治的にも君の夫に一番近い存在という人も多いよ」


 ハーレムの一員ということは、エドガーとリリィは肉体関係にあるのだろう…。それなのに別の男性との結婚について、あっけらかんと語られると逆に妙な気まずさを感じさせられる。


「姫様の幼なじみであるエドガー様から、そう言っていただけるとは光栄の極みでございます」


 フワリと花のような香りとともに耳元に届いたその声は非常に心地よく思わず頭の芯がポッーと温かくなる気がした。音もなくこの部屋に現れた銀髪の男性が、ラルフなのだということは説明してもらわなくても分かった。透き通るような白い肌に涼し気な目元、やや長い耳は私が知っているイケメンエルフそのものだからだ。

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