6話
コンクリートの建物
アスファルトで舗装された道路
その上を走る車も歩道を歩く人々も元居た世界と変わりない。
ここが異世界だって言われてもなかなか納得できないだろう。
遠くに見えるバカでかい壁を視界に入れなければだが…
この世界は多くの世界と隣接していてその恩恵を受けてきたらしいのだが、
同時に多くの被害を受けてきた歴史がある。
隣接した異世界の影響による災害、異世界生物の流入、異世界の住人による侵略などなど挙げればきりがない。
それらの被害は大小様々ではあったものの、
度々大国の首都が吹っ飛び無政府状態になんてことを繰り返した結果、
各国ともに地方分権が進んでいき最終的には殆どの国が消滅。
さらに国だったころの主要都市を中心に人口が密集し、
防衛を目的とした防壁や結界など独自の防衛機構で囲い込んだ都市国家のような状態になっているところが殆どらしい。
長い歴史の中で異世界の脅威と戦ってきたのは伊達ではないらしく、
都市規模とはいえその戦力は侮りがたいうえに隣接した異世界の数が多すぎて候補地が無数にあり博士も苦戦しているらしい。
(ちなみに俺のいた世界の候補地は片手で数えられる程度でその確保もあっさりと終ったらしい)
今俺が偵察と称して散歩しているのもそうした都市国家の一つという訳だ。
都市が壁で囲われている風景もこの世界では当たり前。
この都市と同様に多くの都市では防壁に囲われているものの壁の外が危険かというとそうでもなく、
一部地域を除いて基本的には安全らしい。(実際壁の外にも人が住んでいるのは確認した。)
もちろん防壁は有事の際の防衛ラインとして機能させるものなので、
災害の大きさにもよるだろうが防壁の外側は切り捨てられる。
とはいえ、それ以外は元居た世界と変わらない代わり映えのない景色でいまいちやる気が出ない。
そういう意図であのSF西洋鎧がこの都市を選ぶとは思えないが、
逆に俺のいた世界の都市に近い都市をチョイスをしてくれるとも思えない。
要は偶然なのだが、
新たな人生をスタートしても巡り合わせの悪さは変わらないというのはさらにやる気を削いでくる。
だからといって折角の初仕事なのだから気合を入れていきたいところではある。
今回の標的は街の中心部にある研究施設。
表向きには異世界についての研究を行っていて、異世界への接続方法を模索しているとのこと。
実際はすでに異世界への接続に成功し、その活用法の研究をしているんだとか。
もうこの時点で怪しい臭いというか、きな臭さ満載だがこの世界ではこの程度珍しくもないらしい。
でもってその研究施設に押し入るにあたって障害になるのが研究施設所属の防衛部隊で、
フォースレンジャーとかいう戦隊シリーズものを彷彿とさせる5人組。
その見た目も戦隊ヒーローのスーツそのもので防御力なんて期待できそうにない、
できそうにないのだが野良の怪人や自然発生した怪獣との戦闘実績もあり油断できない。
が、如何せんデータが少ない
SF鎧からは見た目の画像データを見せてもらったり、
概要みたいな話は聞いたが、
実際に戦闘を見たわけでもないし、
行動パターンが判明しているわけでもない。
その辺は自分で情報収集しろということなのか、
そのあたりの能力も見ようとしているのかはわからないが、
諜報活動なんて経験もないのだからできるわけがないのだ。
専門家を使えればいいがツテもなければ金もない。
やはり地道なところから始めるしかないということで、
この都市の情勢を把握するためにも雑誌やら新聞やらを読んではみた。
読んではみたのだが今現在この都市は平和そのもので、
火種になりそうな案件や都市の暗部が垣間見えそうな話が一切なかった。
ついでにフォースレンジャーとやらの記事もあったにはあったが、
どの記事もべた褒めのしすぎが気持ち悪くて吐きそうになったぐらいだ。
ただし成果が無かったわけではなく、
フォースレンジャーの役割の様なものがわかったのだ。
フォースレンジャーは研究施設の防衛部隊なのだが,
警察および軍との協力関係にあり警察や軍だけでは対処が難しい案件には出張ってくる。
通りで研究所所属のくせに怪人怪獣との戦闘経験があるわけだ。
しかも研究所の広告塔としても機能しているらしく、
何をしているかわかりずらい研究所の成果(正確には研究の副産物らしいが)として、
募金やスポンサー集めと世間に対するイメージアップを行っているようだ。
警察や軍に協力することである種の特権も得ているようだし、
他にもこの都市の権力機構との癒着的なものがあるかもしれない。
だが、素人である俺が調べて分かるのはここまでが限界だ。
となればあとは実地で調べていくしかあるまい。
まずはフォースレンジャーからだ。