5話
入ってきたのは筋骨隆々の大男だった。
大柄な体躯にタンクトップという格好はその筋肉も相まって暑苦しいことこの上ない。
「で、博士新入りってどいつだ。」
「タブラ、先に言っておくがこいつはお前と戦うには色々と不足している。お前は赤子と戦って楽しいのか?」
「おいおい博士、オレをなんだと思ってるんだ。新入りがいるっつーから顔を見に来ただけだぜ。人をバーサーカーみたいに言わないでくれ。」
「敵に向かって一直線に突っ込んでいくやつが何を言う…、まあいい。紹介が遅れたな、奴はタブラ。幹部の一人ではあるが戦闘以外では役に立たん」
「ギャハハハハ、ひでぇな博士。オレを勧誘したのも改造したのもあんたじゃねぇか。ま、もとより戦闘にしか興味はなかったがなぁ」
やっぱり狂戦士じゃないかという言葉は飲み込んだ。
「で、こっちのモヤシみてぇなのが新入りで、このガスマスク共は何だ?」
「その新入りの能力で出したものだな。性能は悪くない。なにより魔力炉を内蔵していて…」
タブラと呼ばれた男は目頭を押さえながら手で博士の話を遮った。
「待った待った。難しい話は分からねぇっていつも言ってるだろ。要はエリックのとこの雑兵よりは使えるんだな?」
「そうなるな」
エリックというとさっきのSF西洋鎧のことだろうからあれの周りにいた奴らよりかはマイヤーたちのほうが上と。
あっちは戦隊モノに出てくる下級戦闘員みたいななりだったしなぁ。
「なら問題はねぇ。それにあんたが見つけて連れてきた奴が外れってこたぁねえだろ。で、その新入りの名前はなんなんだ?」
「彼の名前は…」
「待ってくれ博士」
俺の本名を出そうとした博士を慌てて止める。
「折角の新しい人生だ。前の名前のままじゃ具合が悪い。」
「わかるぜ新入り。オレもそうだった。新しい人生、新たな肉体、新たな力、だってのに名前だけ古いままじゃ気分が乗らねぇ。だからオレは博士に名前も付けてもらった。由来とかそういうのは忘れちまったが、博士につけてもらえば間違いはねぇぞ」
経緯を忘れたくせに何をもって間違いないというのか……。
とはいえ、自分でつけると恥ずかしいことになりそうだし、ここは博士に任せてしまおう。
「推薦もあることなんで、お願いしてもいいですかね博士。」
「…いいだろう。」
あっさりと承諾した博士は少しばかり考える素振りを見せる。
「……コルテス。コルテスというのはどうだ。」
コルテス
元いた世界の有名なコンキスタドールの一人にそんな名前のやつがいた気がする。
確かアステカを征服した男だったはずだ。
「そういう役割を期待していると受け取っていいんですかね?」
「コンキスタドールはスペインに莫大な富をもたらした。征服した先住民族からの搾取という方法ではあったが確かに莫大な富がスペインには流れ込んだ。同様に私に楽園への道を示してくれればそれでいい」
「仰せのままに」
仰々しくお辞儀までしたのだが、そういう態度が気に入らないらしい博士はフンと鼻を鳴らすだけだった。
「文句がねぇなら決まりだな、コルテス。お前が死なずにいたらそのうち手合わせを頼むぜ」
「気が向いたらな。」
素っ気なく答えたつもりだったのだが、
戦闘狂には前向きな答えに聞こえたらしい。
楽しみだと笑う声がだだっ広い空間に響いていた。
なんにせよ新しい人生が始まるのは間違いない。
退屈で億劫な人生から脱却できるなら、
くだらない倫理観なんぞかなぐり捨てて悪党にだってなって見せよう。