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INVADERS  作者: 心人
幻想と現実の狭間で
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45話

レッドの瞼がゆっくりと持ち上がる。


先程まで頭部を失い確実に死んでいたはずだが、そこには間違いなく命の脈動があった。

血が通い脈を打ち、呼吸に合わせて体がわずかに揺れ動く。

どれほどの人がこの光景を信じるだろうか。


死者蘇生


しかも、人間を構成する上でもっとも重要でもっとも繊細かつ複雑であろう頭部を破壊された状態からでだ。

入手した情報から推察されるピンクのスペックでそんなことできるはずがない。


なれば、予想できる可能性の候補はそう多くない。

最も有力なのはレッドからの力の奪取。


本来なら力の差がある両者の間でそのようなことは成立しないだろう。

隙があるとすれば、レッドが力を譲渡しようとしたその瞬間。


そう、レッドが精神的に参った3人に力を注ぎ、強制的に立ち直らせたあの瞬間だ。

あの時ピンクは自身の力か、レッドに渡された力を呼び水にレッドから大量に力を引き抜いた。


確証はないがそれくらいでないと現状の説明がつかない。


「……こ、ここは、どうなって?ピンク?」


目を覚ましたレッドがピンクを見上げる。


「あなたは勝ったのよ、レッド。でも、疲れて倒れてしまったの。」


「……そうか、情けないな。すまない。」


「そんなことないわ。あなたがいたおかげで勝てたんだもの。もっと自信を持って私のヒーロー。」


「ありがとう、ところでブルーたちは?」


「みんな無事よ、激戦だったから周りの捜索をしてるの」


事実の歪曲が酷い。

そこまで捻じ曲げたらもはや別の世界線だ。

精神が磨耗するまでタイムリープを連打しなければその世界線には辿り着けまい。


もっと酷いのはこの茶番を終わらせるべく雨のように降り注ぐ銃弾の雨がバリアに阻まれ、その尽くが弾かれていることだ。


謎パワーで弾道を捻じ曲げられるよりはマシだが、

そんなものは突きつけられた銃口がライフルなのか拳銃なのか程度の差でしかない。


それならば火力を注ぐしかないと各隊の切り札が投入される。


『INVADER』のパンツァーファウスト、

歩兵中隊の対怪人用ライフルと無反動砲、

戦闘ヘリからは有線式ミサイルと大量のロケット弾、

極め付けに砲兵隊からは155mm砲の対怪獣用特殊徹甲弾。


広域避難が完了していたとしても、建物に与える被害から市街地での使用に難のある兵器の数々。


それらを惜しげもなく叩き込む。


並の怪獣をミンチにするなら十分以上の火力だ。

本来なら今日は怪獣のハンバーグだと、浮かれる余裕すらあるだろう。


しかし、煙と爆炎によって視界が限定される中、

確認された戦果は実に乏しいもの。


溢れ出さんばかりの触手を穿ち、千切り、

その数を残減させることはできても滅するには至らず。


肝心のシールドは健在で、中では今だに茶番劇が展開中。


銃撃と砲撃と爆撃の中、考えを巡らすが名案は浮かばい。


次から次へと生えてくる触手ととんでもなく硬いシールドの耐久力が無尽蔵でないことを祈るしかないのだろうか?


チラリと少佐殿を見やれば、

彼女は部下の救援で忙しそうで、

今も一個分隊を叩き潰そうとした触手を切り飛ばしたところだった。


その刃渡りでどうやってと言うのは愚問なのだろう。


手詰まりか?


そう頭を抱えかけた時、渦中の中心でも動きがあった。



「…どう…して……ピンク…やめ…やめて」


狂気を感じさせるほどの恍惚とした表情を浮かべながらピンクはレッドの胸元にナイフをゆっくりと突き立てた。


恐怖に染まるその顔を、驚愕に見開いたその瞳を、絶望に打ちひしがれるその心を、

味わうように時間をかけてゆっくりと。


「愛してるわレッド、私のヒーロー。私だけの愛しい人。」


この場にいた全員が唖然とする。


狂気、圧倒的な狂気。


今まさに命が潰えんとするレッドの口、

もはや言葉を紡ぐことすら出来ないその唇にピンクは自らの唇を這わせる。


その瞳は狂気に見開き瞬きすらせず、余すことなくその終わりを脳裏に焼き付けようとしている。


レッドという存在を最後の一滴まで味わい尽くし、

レッドに最後まで自らを刻み込む。


fuckin'crazy


ホテルに帰ってシャワー浴びて一杯引っ掛けてから

明日の昼まで寝たい気分だ。


憐れなレッドの瞳から輝きが消え失せる。


嫌いなやつだったがここまでくると憐憫を感じずにはいられない。


レッドの体に覆い被さるように倒れ込んだピンクの輪郭が一瞬で消失。

粘度の高い白い泥のようなナニカとなって彼を覆い尽くしていく。


レッドがカケラも見えなくなると、今度は泡立ちなが膨張。

直径10mほどの卵型へと体積を増していく。


てっぺんから等分するように複数の亀裂が入り、捻れるようにすぼめば、それは巨大な蕾だった。


レッドを養分にしてクレイジーピンクが咲かせる花だ。

墓前に手向ける花をいじらしく用意するような性格ならレッドはそもそも養分にならずに済んだ。


絶対に碌なもんは咲かない。

俺の第二の人生を賭けてもいい。

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