43話
さくっと腕を復活させた俺。
軽く腕を振って調子を確認するが、まぁ悪くない。
「随分と便利な力だな」
「これでも手探りでして。ない頭を相応に捻ってるんです」
何せ分からんことが多いからな、出来ること出来ないことを確認するだけでも一苦労なのだ。
「そうか、だが安心したよ。この後のことも考えて手加減してやろうかと悩んでいたが、その様子なら多少力加減を間違えてもでも問題なさそうだ」
おおっと?
なんだか背筋が寒くなってきだぞ?
少佐殿は駆動鎧で顔が見えないのに蛇にでも睨まれている気分だ。
「お、お手柔らかにお願いします」
「そう遠慮するな、部下を教育してくれた分はキッチリ返してやる」
そちらは遠慮したい。
俺は自主性を重んじるタイプなので是非ともその借りは本人達に自力で返済させることをオススメしたい。
どちらもこの場にいることだし。
「せめて先手は譲ってやろう」
「そう言うことなら胸を借りるつもりで行きますんで」
適度に離れつつ後ろに手を突き出せばMG42が渡される。
「お前らは下がってろ。絶対に手は出すなよ?それと少佐殿の動きをよく見ておけ。いい経験になる」
こいつらに経験の蓄積があるのかはわからないが、こう言っておいた方がそれっぽい。
「それで、開始の合図とかはあります?」
「好きに始めろ、こちらは準備出来ている」
少佐殿はそう言うが特に構えをとっているようにも見えない。
まぁ、いいと言ってるんだから始めていいのだろう。
「そう言うことならお言葉に甘えまして」
MG42を構え、照準を少佐殿に合わせて引き金を引く。
独特な唸り声のような発砲音が鳴り響くがその時には少佐殿の姿はすでに照準の先から消えていた。
真面目ちゃん同様脚部のタイヤを使って動くのかと思えばそんなことはなく、どう見ても動きにくそうな駆動鎧で駆けてくる。
しかも速い。
フォースレンジャーでは一番動きの速かったブルーの数段上の速さだ。
当然俺もそれに対し薙ぎ払うように照準を追いかけさせるのだが、これがなかなか当たらない。
狙いを絞らせないようにジグザグな軌道ではあるのだが、それだけならほぼ無限の連射力でゴリ押せばまだ当てられる。
ところが少佐殿は被弾しそうになると、時には最小限の動きで、時に翻弄するように派手に動いてそれらを掻い潜る。
音速を超える弾丸の弾道を見切っているのは確定的だ。
それに加え動きは素早くしなやかでネコ科動物を彷彿とさせ、駆動鎧を着用してこれだけ動けるのは彼女の実力の高さを物語っている。
俺との距離が着実に縮まり10mをきる。
それまで回避に専念していた動きが切り替わりヒョウが獲物に飛び掛かるような勢いで斬り掛かってくる。
得物は腰元に収まっていたカトラス。
真面目ちゃんが装備していたマチェットのような高周波ブレードとは違いケーブルが繋がれていないためおそらく普通のものだ。
落ち着いてMG42で受け止めるが速くて重い一撃は俺を一歩二歩と下がらせる。
やはりスピードはパワーだ。
速い攻撃はそれだけ重い。
速くなくても重い一撃を繰り出してくるレッドは例外だとしても、これはこれでどうやってこれだけの力を引き出しているのか非常に気になる。
とは言え今はどう対処するかが優先だ。
MG42を捨ててサーベルとルガーへと持ち替える。
牽制は左手に持ったルガーに任せ、右手のサーベルは防御に徹して隙を窺う。
華麗な足捌きで正面からと見せかけて左側面に回り込んでから放たれた突きを上体を反らせて間一髪躱すと、不安定な姿勢から無理やりサーベルで薙ぎ払うが少佐殿は素早く飛び退いて回避する。
なんとかそれっぽく戦えてるんじゃないだろうか?
少佐殿も本気は出していないだろうが手応えは感じる。
「フッ、反応速度は悪くないようだな」
「もっと褒めてくれてもいいんですよ。俺は美人に褒められると伸びるタイプなんで」
「なら、もう少し厳しくしてやろう」
さらにスピードアップした少佐殿のカトラスを姿勢を低くすることでやり過ごすが、カトラスを振った遠心力をそのままに今度は蹴りが飛んでくる。
咄嗟に腕でガードするものの想定以上の威力に吹き飛ばされ地面を転がっていく。
うーん手厳しい。
何とか反撃したいところだが………。
ヒットアンドアウェイを徹底してくる少佐殿相手に守勢にまわったままでは埒が明かない。
ならば道は一つ。
埒が明かないなら無理やりにでも埒を明けるのみ。
隙がなければ作ればいいのだ。
少佐殿の強みはそのスピードと技量。
お陰で防御を強いられ、数少ない攻撃手段であるの銃撃は見切られた上で巧みな体捌きによって全くもって当たらない。
対してこちらの強みは何か。
それは間違いなく怪人としての体の頑丈さ。
腕を切り落とされても勝手に止血して意外と元気だったぐらいだ。
これを生かさない手は無い。
であれば、案としてはシンプルだ。
防御を捨て相手の攻撃に合わせてこちらも攻撃を叩き込む。
覚悟を決めて体勢を立て直し顔を上げれば眼前にはすでに駆動鎧の姿が……。
や、やべぇ
だがこれはチャンスでもある。
実は殺す気なのではと思わせる鋭い突きに合わせてこちらもサーベルを突き出す。
少佐殿が咄嗟に攻撃を中断するがもう遅い。
今更回避も防御も間に合うまい。
これはもらったな。
俺の甘い予想とは裏腹に彼女の右肩に向かって伸びたサーベルの一撃は彼女の左手によって文字通り摘み取られる。
………………………うそーん
しかも押しても引いてもピクリとも動かない。
動揺で思考が散らかる中、声がかけられる。
「どうした?もう終わりか?」
クソッタレがッッ
サーベルから手を離しルガーでの反撃を試みるが払い除けるように振り抜かれたカトラスによって左手ごと両断される。
さらに、振り抜かれた先で半回転したカトラスを逆手に持つと今度は俺目がけて振り下ろしてくる。
もはや避けることも弾くこともできない俺は左腕で受け、腕を貫かれながらも捻ることでなんとかその刃の矛先を逸らすことに成功する。
だがここで終わるわけにはいかない。
手札を一枚切ることを決めた俺は堂々とルガーを生成。
流石に対応しきれない少佐殿に向けて引き金を引く。
しかし、満を辞して放たれた渾身の弾丸は駆動鎧にあっさりと弾かれた。
その際に響いたキーンという金属音が俺の心を一瞬でへし折ったのは言うまでもない。
……………………いやいやいや
真面目ちゃんの駆動鎧にこんな防御力は間違いなくなかった。
特別製?
否、どう見ても同型にしか見えない。
少佐殿も何かの能力者なのか?
分からないことはばかりだが、わかったことが一つある。
それはこれ以上やっても俺に勝ち目はないということだ。
うん、無理ゲー
フォースレンジャーより勝ち目を感じないこの絶望感。
かくいうレッドも正面から潰せた訳では無いが、奴と違って油断も隙もほとんどない時点で無理。
すっかり戦意喪失した俺の頭を鎧に包まれた左手が掴む。
そのまま俺の足が宙に浮くが、そんなことはもはやどうでもいい。
「……一ついいですか?」
「……なんだ?」
「採点するなら何点?」
「30点」
うーんテストなら赤点間違いなし。
「安心しろ、私の部下はその半分以下だ」
そう告げると少佐殿は俺の後頭部をそのまま地面へと叩きつけた。
目の奥で火花が飛び、一瞬だが意識も飛んだ気がする。
もはや逆らう気も起きないがこれだけは言わねばなるまい。
「……降参です」
いつか少佐殿を越えられる日が来るのだろうか?