39話
直撃した、間違いなく。
だが、これでやれると楽観視できるほど甘く見てはいない。
立ち込める煙の向こうにユラユラと立ち上がる影が一つ。
もちろんレッドだ。
ここからが本番、何発耐えられるか実験といこう。
状況は既に一方的なのだ。
1発、2発、3発と次々に撃ち込まれるパンツァーファウスト。
撃ち込まれるたび、何度でも立ち上がる。
その様をニヤニヤと眺めているわけだが実験はまだ始まったばかりだ。
気長にいこう。
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俺はレッドに対する評価を改めるべきなのかもしれない。
何発のパンツァーファウストを叩き込んだかわからない。
だが、奴は未だに起き上がる。
もはや倒れたら起き上がるようにプログラミングされた機械人形の様だ。
そもそもここまで頑丈な人形は存在しないだろう。
「……レッド、無理をするな。いくらお前だって、このままじゃホントに……」
ブルーは相変わらずだ。
発破をかけて少しは気合が入ったかと思ったが、まだ駄目みたいだな。
まぁそういうところが弄りがいがあって楽しいんだが。
それにしてもレッドは卑怯だ。
改造したパンツァーファウストの威力は絶大で、一発でも直撃すれば怪人である俺ですら危うい。
2発目以降に至っては命の保証すらないレベル。
それをああも何発も受けて未だにぱっと見は無傷というのは酷いパワーバランスだと抗議せざるおえない。
「…………いい加減くたばれよな」
クソッタレの神様はやはり前髪を掴んで引きずり倒すくらいしないといけないのだろうか?
「増員だ。敵の胃袋は底なし。倍の数で馳走してやれ。それなら少しは腹も膨れるだろう」
倍増したパンツァーファウストがレッドに向けて殺到する。
しかし、そのどれもが弾かれるかのように軌道を逸らされ空中で有り余る力を解き放つ。
それだけじゃなく雨の様に降り注ぐ弾丸さえも雨の日に傘でもさしたかのようにその弾道を変えていく。
「…………ない」
ゆらりとレッドが立ち上がる。
ヘルメット越しではその表情を窺い知ることはできない。
「………負けない」
だが、不気味な威圧感を纏っているのは分かる。
脳内アラートが鳴り響く。
ああ、これはまずい。
「……は負けない」
一旦引くか?
いや、ここまで来て引くなんてことはできない。
ここで退却して、立て直すのはリスク管理の面からは正しいようにも思える。
だが、それ以上に相手に成長のチャンスを与えるのは不味い。
相手だって馬鹿じゃない。
ここでの成長はあいつらを強くする、間違いなく。
現状どこにも基盤のない俺にとってはそれは致命的。
手を組んだ連中との信用問題もある。
「正義は負けない…絶対にだ」
ふらふらしていたレッドが力強く駆け出す。
くそっ、考えをまとめる時間すらない。
兎に角、ここでこいつを殺すしかない。
「行くぞ、みんなッ」
さっきまでならその声に続く奴はこの場にはいなかった。
だが、今は違う。
「俺たちならやれる」
「レッドと一緒なら」
「何にだってなれる」
レッドの掛け声に呼応し3つの影がレッド後に続いて駆けてくる。
普通ならリーダーであるレッドの奮起に仲間が鼓舞され勇気を取り戻す涙ぐましい胸が熱くなるようなシーンだろう。
しかし、俺とおそらくブルーの目にはそうは映らなかった。
心が折れかけ這いつくばった無様な姿勢からばね仕掛けの玩具の様な不自然な挙動で跳ね起き、
直前まで泣き言を漏らしていた口がなんの前触れも予兆もなく過程をすっ飛ばしていきなりレッドに同調する様は不気味でしかない。
ハッキリ言ってドン引きだ。
ブルーに至っては唖然とし戸惑っているのが動きで分かる。
最早洗脳、マインドコントロール、そう呼ばれる類だ。
「銃では埒が明かない。前衛は抜刀せよ」
流れはよくないが、思惑通りではある。
手を尽くしてここを切り抜ける。