38話
予想通りMG42じゃ足止めはできてもこれだけで削っていくのは少し時間がかかる。
そこで用意したのが『パンツァーファウスト』。
見た目は直径5cm長さ1mほどの発射筒である鉄パイプに弾頭と照準器と発射機を付けただけの簡易なもの。
本来なら発射筒に詰まった黒色火薬で折り畳み式の安定翼がついた弾頭を飛ばし、
モンロー効果だかノイマン効果だかの力で戦車や装甲車の装甲をぶち抜いて撃破するための代物だ。
発射に黒色火薬を使っていることからも分かるように低速で山なり弾道なため射程距離も改良型でせいぜい60m程度だったはず。
もちろんそんなロートルのまま現代戦で使う意味はないので改造したものを『INVADER』達には持たせている。
能力の練習もかねて思いっきり改造させてもらった。
電波の様な直接視認できないものは厳しいがこの手のモノなら見た目と機能面は自由自在だ。
高速で飛翔できるように弾体自体に推進力を持たせ、弾頭は対人用に加害範囲の広い榴弾仕様へ。
ここまでするなら3のほうとかRPG-7でよかったのではと思わなくもないが、この組み合わせで使いたかったので仕方ない。
それに発見もあった。
本体である俺自身は魔力の続く限り自由に物質の創造が行えるのに対し『INVADER』達にはその種類に制限があったのだ。
『INVADER』は創造を使うときに俺が望むものを読み取って自らの記憶領域に登録して使用する。
登録して置けるリソースには限りがあり、複雑で重いものほど使用するリソースが多いようだ。
現状であれば、機関銃(MG42)、拳銃、サーベル、手榴弾(スモークとフラッシュバンも含む)、パンツァーファウストあたりで容量が限界らしい。
さらに、一度登録をすると削除や他のモノとの入れ替えが自力ではできず、一度俺のもとへ戻る必要がある。
分かっていれば大した手間じゃないが、実戦で判明していたら大惨事待ったなしだ。
事前準備の重要性を再認識したところでパンツァーファウストを前衛の『INVADER』5体に用意させる。
「実地テストだ。派手に吹き飛んでくれよ。ヒーロモドキども」
雨の様に降り注ぐ銃弾によって地面に縫い付けられている連中に止める余裕なんてない。
撃発装置を押すと同時に発射筒の火薬の爆発によって弾頭を発射。
弾頭の安定翼が展開後、今度は弾頭の推進剤に点火して加速。
加速して突っ込む先は当然フォースレンジャーども。
威力マシマシの炸薬によって凄まじい爆風が発生し周辺の建物の窓ガラスが砕け散っていく。
直撃こそしなかったようだがそれでも至近弾、戦果はどうだ?
「ハハハハハ、流石に頑丈だな」
立ち込める煙の中でよろよろと立ち上がろうとするのは赤と青の二人。
「せ、正義は絶対に屈しない。勝つまで戦うんだ、」
「まだだ、まだ俺は立ち上がれる。」
「ヒュー、活がいいねぇ。だが、お仲間はそうじゃないみたいだぞ。」
レッドたちの後ろで芋虫の様に転がってる連中を指さす。
「レッドぉ流石にやべぇよ殺されるよ。」
「痛い、痛いよぉ」
ぱっと見の外傷はなさそうだが、精神的に参っているようだ。
たいした覚悟もせずに来ているのだから心が折れるのも当たり前といえば当たり前だが。
「俺は悪い奴だからさ、お前らがまだ戦うというならそこで転がってる連中から狙わせてもらうぞ」
「卑怯だぞ、悪党めッ」
「今更何言ってんだ。悪党が卑怯なのは当然だろ。」
俺が指を鳴らすだけで銃声が鳴り響き、レッドはその身を挺して倒れた仲間を庇って見せる。
全ては庇えないにしろ多くの弾丸がレッドへ直撃していく。
「やめろレッド、いくらお前でも持たないぞ。」
「ダメだ、仲間は見捨てられない。」
「なら一度みんなで引こう。対策を考え作戦を練るんだ。」
「それもダメだ。正義は逃げてはいけない。正義は常に勝たなくちゃいけないんだ。」
「だが、仲間を守りながらでは勝てない。このままじゃ力の使い過ぎでお前だって……」
「それは違う。守ってるんじゃない、俺は待ってるんだ。みんなが立ち上がってくれるのを……」
「……何を言って」
「どんなに強い敵が相手だって、俺一人じゃ勝てなくたって、みんなと一緒ならどんな相手とだって戦える。どんな相手にだって勝つことができる。」
おめでたい奴だ。
そんな高尚な連中じゃないからそこで絶望して這いつくばってるというのに。
まるで分ってない。
まるで分かろうとしていない。
やっぱりお前のことは大嫌いだよレッド。
「そうかそうか、じゃあ仲間が立ち上がるのを死ぬまで待ってるといい。」
俺が再び合図を送ると一発のパンツァーファウストが放たれる。
しかも今度は直撃コースだ。
たっぷりの炸薬が生み出す力の奔流に押し流されろ。
「レッド、避けろおおおおおお」
悲痛なブルーの叫びにもレッドは微動だにせず、パンツァーファウストは直撃。
再び爆炎が上がり、レッドの姿は一瞬で見えなくなる。