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INVADERS  作者: 心人
幻想と現実の狭間で
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36話

自身の後方には焼け焦げた地面と千切れた左足。


撃たれたのか……。


意外と痛みは感じない。


いや、そんなことより早く移動しないと。


足がつかえないのなら6本もある腕に力を込めて這いずるように前へと進む。


無様だろうとなんだろうと少しでも距離を…………。


「往生際が悪いんだな」


「本当に虫並のしぶとさね。」


怪人の腕力のおかげかある程度の速さは出るが、2本の足でが走っていた時とは比べ物にならない。


コルテスの待ち伏せポイントまではまだ距離がある。


このペースでは間違いなく…………。


「グリーン、市街地での射撃は禁止されているのを忘れたのかッ」


「お固いなぁブルーは、こういうのは結果を残したらセーフなんだよ、セーフ。なぁレッドもそう思うだろ?」


今はまだ言い争いをしているが、終わるのは時間の問題。


終われば追いつかれて殺される。


どうにかして打開策を…………。


何ができる?


俺には何ができる?


「ルールを破るのは褒められたことではないけど、怪人を逃がさないために、正義のために必要だったと僕は思う。」


「…………」


「ブルーの言いたいこともわかる。だけど……怪人はまだ生きてる。話は正義を為してからにしよう。」


「……そうだな」


リオールならどうする、コルテスなら…………。


俺はここまでなのか?


『どうかな、お前たちも、フォースレンジャーも、そして俺自身も発展途上だ。能力の進化、発展、変質、何が起こるかわからない』


発展途上…………か。


日々の変化に怯えて、そんなこと考えたこともなかったがまだ先があるのなら……。


今ここでその先を見てみるとしよう。


簡単なことだ。


俺は今まで肉体の変化を拒んきた。


否定して、拒絶して、そして抗った。


その成果として怪人化はゆっくりと進んできた。


だから受け入れるだけでいい。


「急に止まったぞこいつ」


「手間かけさせやがって」


「待て、様子がおかしい…………」


雄叫びと共に今まで堰き止められていた力の奔流が全身を駆け巡る。


メキメキと身体が内側から作り替えられていく奇妙な感覚。


背中は盛り上がり、左足は失った場所を埋めるようにボコボコと傷口から肉が飛び出してくる。


それと同時に万能感と多幸感がないまぜになったものが精神を蝕もうとするのがわかる。


()()にのまれるわけにはいかないが、かといって拒めば怪人化が止まる可能性がある。


だから自我を強く持ってただただ耐えるしかない。


『ヤット、ヤットダ』


頭の中に響く声は明らかに自分のものではない。


『チカラヲ、チカラヲフルエ』


渇望する怨嗟の声。


『トビラヲヒラケ』


その言葉の意味を考える余裕はなく。


嵐が過ぎ去るのを待つように必死に耐えているだけ。


『ウラギリモノヲコロセ』


「クソッ…………ナンナンダコノコエハ」


「へへ、びっくりさせやがって。イエロー、こいつが蹲ってる間にさっさと殺しちまおう。」


『ハイボクシャヲコロセ』


うるさいうるさいうるさい。


「そうだな、ぶつくさ言ってて気持ち悪いし。」


『シメイヲハタセ』


黙れ黙れ黙れ黙れ。


「グリーン、イエロー、少し待った方がいい。嫌な予感が………」


「らしくないなレッド、ブルーの持病がうつったのか?」


『ワレラノシュクガンヲ…………』


「ハハハ、じゃあ今回の手柄はいただきだな…………ん?」


「黙レェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


乱雑に振るった腕は、油断していた二人の男を簡単にとらえて吹き飛ばす。


「ぐぁッ」


「うごぉッ」


何が作用したのかわからないが()()()は聞こえない


精神的に嫌な感じのしこりが残ってはいるが、幸い体はもう動く。


それにしても恐ろしいパワーだ。


今ならコルテスとも力で張り合えるかもしれない。


もしくはそれ以上か?


「グリーン、イエロー大丈夫かッ」


「あの程度なら大丈夫だ。それより行くぞレッド。」


「任せろッ」


20mほど転がっていく緑と黄色の人間に代わり赤と青の二人が駆け寄ってくる。


この二人とは絶対に戦うなとコルテスに言われている。


それにいつの間にか千切れた足が再生していたり、腕の本数が減っていたりと肉体の変化が著しい。


違和感のある体で戦闘はどのみち避けるべきだ。


「また逃げるのかッ」


それにしても身体が軽い。


逃走の最中でも様々な可能性が頭に思い浮かんでくる。


今までできなかったことが、コンクリートの地面を力強く蹴るこの肉体ならできる。


そんな確信が湧いてくる。


ものは試しだ。


先ほどとは比べ物にならない程の速さで迫ってくる()()()()から逃れるために両足に力を込めて大きく跳躍する。


いつの間にか腕を4本展開し、6本の腕と足で当たり前のようにビルの壁面に着地する自身に驚きを隠せないが、ここは()()()()の本能に任せるほかない。


建物の壁面をバッタの様な跳躍力で跳ね回りながら、再び追手との距離をあけていく。


「な、なんなんだよアイツ。」


「全然追いつけないじゃないッ」


「やりやがってあの野郎、もう一度吹っ飛ばしてやる」


「あの動きじゃ流石にもう当たらない。市街地でこれ以上撃つな。民間人に死傷者が出たらどうするつもりだ。」


「あああああああああ、……わかったよッ。クソクソクソッ」


これなら逃げ切れるか?


「任せろみんなッ。うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


ひと際気合の入った声に、空中で後ろを振り向いて絶句する。


()()()()が弾丸の様な速度で突っ込んできていた。


慌てて空中で身体をひねって必殺の一撃を何とか回避するが、それで諦めてくれるような奴ではない。


壁から壁へ飛び移る自分のまねでもするように、赤い人型の怪物は強引に壁を蹴ってこちらへと進路を変更してくる。


無茶苦茶だ。


こちらの命を刈り取ろうとする死神の鎌逃れること数回。


嫌なことにあの赤い怪物は昆虫のまねごとに慣れてきたらしい。


その上こちらがより避けにくいタイミングを狙ってこようとしている。


奴ほど(ことわり)から逸脱していないこちらは、次の壁に移るためには壁に張り付いた後にすこし力をためなければいけない。


幸いどういう理屈かはわからないが、こちらの手足は昆虫の様に壁に張り付くことができる。


上手くタイミングをずらしていたが、それもついに限界が来た。


急加速したやつはこちらが壁に張り付くその瞬間めがけて飛来する。


どうしようもなくすぐさま壁を離れるが、力をためられなかったせいで無力な状態で空中に放りだされてしまう。


とはいえ間一髪狙いすました一撃を回避することには成功した。


しかも、相手はこれでとどめを刺すつもりだったのか、壁に銃剣を突き立てて止まっている。


だが、これは本当に一瞬だ。


すでにこちらを見ている赤い怪物が、壁から銃剣を引き抜いて俺めがけて飛んでくるのは時間の問題。


どうする?


いや、分かっている、分かっているのだ。


俺は虫を模した姿しているのだから。


先ほどの肉体の変化によってこの状況を打破できるものを獲得してはいる。


流石に自信がなくていきなり試すことを躊躇っていた。


しかし相手の、特にあの赤いやつの適応力は話に聞いていた以上だ。


これでは躊躇ってる余裕などない。


試運転もなしだが試すしかない。


本能に従い怪人化の進行によって新たに得た背中の翅を解放する。


こんなもの()頭で考えたって使い方はわからない。


頭で分からなくたって怪人化が進んだこの肉体は動かし方を知っている。


俺がやることはイメージすることだけ。


ベースが虫故に優雅にとはいかないかもしれないが、確実に飛べるはずだ。


その為にこの翅はあるのだから。


「あ、あいつ……飛んだぞ」


「飛ぶなんて卑怯よ」


足の浮遊感が少し落ち着かないが確かに空を飛んでいる。


初めてだというのに、スピードのコントロールから軌道の変更までイメージ一つで自在に操ることができる。


先ほどまでは紙一重で対応していた赤い怪物の攻撃を急停止や急加速、軌道変更などで回避。


相手が足場を離れたのを確認してから回避ができるためだいぶ余裕もある。


その上、コルテスの待機する待ち伏せポイントも見えるところまで来ている。


一時は死も覚悟したがこれなら無事役目を果たせたといえる。


今も10時の方角の斜め下からこちらに向かってくるのを体を傾け進路をずらすことで対応。


俺の後方へと抜けていくのを目で追っていた。


追っていたのだが信じられないものをそこで見てしまう。


空中で体を体勢を変えた赤い怪物が、

足場も何もない空中をまるで透明な壁でもあるように蹴って反転してくる様を。


回避は間に合わない。


距離が近すぎたのだ。


スピードの乗った蹴りを喰らい、その凄まじい衝撃に一瞬意識が途切れる。


気が付いたときにはすでに地面にたたきつけられた後だった。


以前とは比べ物にならないくらい頑丈になったはずの外殻はボロボロで、羽のように軽かった身体は鉛の様に重く思うように動かない。


いや逆か、頑丈になったからこそ生きている。


それにしても一体一日に何度無様を俺は晒すのだろうか。


重い体を何とか起こそうとする俺の前に手が差し出される。


「だいぶこっぴどくやられたみたいだなぁ、シキ」


楽しげな声で俺を見下ろしているのはガスマスクをつけた男、コルテスだった。



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