31話
「そんな作戦で大丈夫なの?」
凶暴女リアから疑問の声が上がる。
協力関係になったのでフォースレンジャーを殺す作戦を説明していたのだがこの反応だ。
俺とて初めての経験だが、しっかりと検討したうえでの考えだというのに……。
「いいか凶暴女、作戦てのはシンプルが一番だ。小難しいことを増やせば失敗する危険が増える。わかるか?」
俺から提示したのは待ち伏せ作戦。
囮が待機場所まで誘導し、そこで迎え撃つという単純な作戦だ。
「作戦てのは効果的でかつ成功率が高いほうがいい。こちらが仕掛ける側で選択肢が多いなら下手にリスクを負う必要はない。そうだろ?」
「わかったから、その凶暴女って呼び方やめてくれない?」
成功すれば確実に殺せるがそのために針の穴を通すような行動が必要な作戦なんて、下策もいいところなのだ。
まぁあの戦闘力を見た後ではどうやっても確殺できる気がしない訳だが……。
「ショウサイハキカセテモラエルノカ?」
「もちろんだ、この地図を見てくれ」
この都市のある区画を示した一枚の地図を広げる。
その一点を指し示す。
「10階建てくらいのマンションが隣接したそこそこ広い公園、ここを待ち伏せのポイントにする」
「何故ここに?」
「簡易ではあるが3次元的に展開するためだ。フォースレンジャーどもはびっくりするくらいの馬鹿力にアホみたいな防御力。その上、感情で力を増幅させるチート能力だ。同数じゃ絶対に勝てないから数で押す必要がある。」
特にレッドは叫んだだけであのパワーアップ、土壇場でどこまで化けるか想像ができないから恐ろしい。
「数で押すのに2次元、つまり平面に展開しただけじゃ数を生かしきれない。近接戦闘は向こうが圧倒的に強い以上こちらは銃火器メインで立ち回る必要があるんだが、それが平面だけだと射線管理が大変なうえに接近されて乱戦になればだいぶ苦しくなる。だから前衛を公園、後衛をマンションに配置して完全な乱戦を避けつつ、数の優位を生かす。」
「意外と考えてるのね。でも、ねぇこれ私たち必要なの?……あんたとその配下だけでも十分できそうじゃない?」
「実際、俺とこいつらだけでも実行はできるんだがお前らを利用する利点がある。まずは囮だが、俺らがやるより油断を誘える。猿並み知能のフォースレンジャーだがブルーだけは機転が利く、感づかれて対策されても厄介だからな。」
「ナットクダ、ソノオトリハオレガヤレバイインダナ」
「ああ、一番危険なポジションだが頼む。そのカッコいい見た目でダサいスーツ共を釣り出してきてくれ」
「セジハヨセ」
「お世辞のつもりはなかったんだがまぁいい。囮はいいとして、次はマンションの各階に『INVADER』を事前展開する時に騒ぎになったりしないようある程度制圧する必要があるんだが、これをサイとドクに手伝ってもらう。」
「サイにやらせたいことはわかる。音を消せる彼なら騒ぎを最小限にできるだろう。だが私は何をすればいいんだ?」
「外部と連絡が取れない様に電波妨害装置を作ってくれ。今どき有線の電話使ってるやつのほうが少ないからな。必要になる。」
「……専門外のものを作るのは骨が折れるんだけどね。だけど、研究所を出てからはいろんな分野に手を出しているからね。何とかできるはずだよ。」
「そいつは上々だな。俺も能力で作ってはみたんだが、まったくもって上手くいかない。」
「君もドクと同じ創造系の能力なのかい?」
「まぁ一応な。」
正直いまだに自身の能力の全容は把握しきれていない。
能力を鍛えるついでに日々いろいろと試してはいるが、さっぱりな部分が多い。
現状ではある程度の構造のモノまでならつくれるが、タブレット端末なんかの電子系のパーツが多分に含まれるモノは形は作れても上手く機能しないことが大半だ。
ここで謎なのが人型で自立行動ができる『INVADER』。
こいつらでさえ、なぜ自立行動ができるかさっぱりなのだ。
「協力関係なわけだし見せた方が早いな」
拳銃を一丁生成して机の上に置く。
全員が興味深そうにのぞき込むように観察する中、ドクが手をあげる。
「ちょっと手に取って詳しく見てもいいかね?」
「ああ、構わないぜ」
しばらく手に取ってカチャカチャといじりながら観察していたドクだったが、
訝しげな顔で拳銃を机に戻した。
「その……一つ伺いたいんだが、これは本当に撃てるのかな?」
「使ってるからな、間違いない。ここで撃つわけにもいかないから見せてはやれないが……」
いくら人気がない場所とはいえ銃声は遠くまでよく響く。
騒ぎになるのは間違いない。
「……そうか。」
「なんだよ、釈然としないなぁ、言いたい事があるなら言ってくれていいんだぞ」
「……非常に言いにくいんだが、私の見た限りこの銃は撃てる構造になっていない。」
「「「は?」」」
「私もこの力で身を守るために銃については勉強したんだけどね。この銃は外見も中身もそれっぽく作られてるだけでライフルリングも適正なものじゃないし、マガジンキャッチもない。解除用のボタンはあるんだけどね」
「マジか……」
じゃあなんで今まで撃ててたんだ?
拳銃がそうならきっと『INVADER』に持たせてるMG42もきっと構造上欠陥だらけだなはずだ。
実際に弾が出てたから気にしてなかったが銃火器の詳しい構造なんて知らないし、
その為のノウハウもない。
「私がこういうものを作るときは必ず設計図が必要になる。君はどうなんだい?」
「設計図?……使ったことないが」
ずっとなんとなくで作ってたからなぁ。
「そうなるとやはり魔力を利用して強引に撃ちだしてるとしか考えられないな」
「一応銃声とかなるんだが、発砲煙とかもでるし……」
「はっきりとしたことは言えないが疑似的に魔力を使って再現してるだけかもしれないな。」
つまり、その分魔力を無駄遣いしてるってことか……。
あのなりで銃声も無かったらそれはそれで悲しいが……。
「ま、まあ今問題が発生してないならいいんだ。君の能力を詳しく調べられたらいいんだけど手持ちの機材じゃそういうのは難しくてね」
確かに問題は発生していないのだが、流石にこのままというのは不味いだろう。
いずれ勉強してくいくしかない。
社会人はほぼ一生勉強していくものだが、まさか悪党になっても勉強からは逃れられないとはなぁ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。つまりコイツ、自分の能力もまともに把握してないってこと?」
「そうなるな。まあ最近活動を始めたばかりだから、鋭意解析中なんだよ。」
「そんなんであいつらに勝てると思ってるの?」
「それを踏まえて話してるんだから当たり前だろ。それに、勝てるかどうかはわからんとさっきも言っただろう。」
自分が未熟なのは理解している。
だが、その上での作戦なのだ。
「それに、お前らもフォースレンジャーも自分の能力をすべて把握できてないのは一緒だろ」
「私たちは自分の能力位把握してるわよ。」
「どうかな、お前たちも、フォースレンジャーも、そして俺自身も発展途上だ。能力の進化、発展、変質、何が起こるかわからない」
フォースレンジャーはそもそも能力を十全に使えていない節がある。
赤ん坊がすぐに自分の足で歩けない様に、人間は自分の手足でさえ自由に扱えるようになるまで時間がかかる。
異能の力とてそれは同じで、使えるようになったと使いこなせるというのは別なのだ。
今の俺はいうなれば生まれたばかりの赤ん坊の様なもの。
赤ん坊が自身を認識するためにペタペタと自らを触るように手探りで自分の能力というやつを調べていかないといけない。
怪人として改造された俺ですらそうなのだ。
さらに凶暴女を含めたこいつらに至っては怪人化の途中、
俺が赤ん坊ならこいつらは生まれてすらいない。
さらなる変質があったとしても不思議ではない。
なにせ人間の胎児ですら最初は人間とは似ても似つかない形をしているしな。
「だ、だからって……。」
「まあまあ落ち着いてよリア。協力するって決めたんだ。ここで喧嘩したっていいことなんてないよ。」
「……むぅ」
「疑うなら実践してもらった方が早そうだな。丁度いい役目をお前にくれてやろう。」
勝手なことをしそうだからリオールやドクと共に後方待機にしようかと思ったが、
リオールがいれば何とかなりそうだし。
使えるものは使っていこう。