30話
「フォースレンジャーを殺す?」
「研究所の壊滅?」
唖然とする面々の中で一人だけがひどく取り乱す男が一人。
「そ、それは無理だ。君が強いのはわかった。だがそれでも彼らには敵わない」
酷い慌てようだ。
まぁ一度戦った身としてはフォースレンジャーを知っているのであれば当然といえば当然の反応と思える。
「随分な物言いだなぁ。だが気持ちはわかるぞ、確かにあいつらは強い。怪人顔負けの馬鹿力にバカみたいな硬さだ。あれともう一度正面からぶつかるのは避けたいくらいさ」
だが、強いからこそ倒しがいがあるというもの。
その上俺が散々やってたゲームの様にコンティニューはできない超ハードモード。
強い敵と戦う興奮と後がないというスリル、
怪人になる前の俺ならクソゲ―と匙を投げるに違いないが、
今の俺にはそれを楽しむ余裕がある。
まるで別人、というか実際肉体はほとんど別人なわけだが……。
「ならなぜ?……待ってくれ一度戦ったのか?」
「そうだとも、一度戦った。その上で言ってる。あいつらを殺す。その為に、ささやかながら策も用意してる。そのためにちょっと人手が必要な訳なんだ。わかるか?」
「ショウキカ?」
俺の発言に理解が追い付いた面々は言葉で語る以上に顔に『無理だ』という表情が張り付いている。
無口で小柄なサイは頭を抱えて蹲ってしまうほどだ。
「勝算は?」
男どもが動揺する中、凶暴女だけはやけに冷静に問いかけてくる。
意外ではあるが面白い。
「勝算はあるのかってて聞いてるの。ドクほどあいつらのこと知ってるわけじゃないけど、アタシ達だってあいつらの戦闘を見たことがあるから分かる。あんたも強いけど、あいつらはもっと強い。そんなことはあんたも分かってるんでしょ?」
堅気ではないとのことだったがこの集まりの中では一番肝が据わっているのかもしれない。
「どうしたのよう急に黙って、答えなさいよ」
「……冷静な対応もできるんだなって」
「馬鹿にしてるでしょっ」
今にも掴みかかってきそうな勢いだが手を出さないだけ向こうも理解しているらしい。
「褒めてんだよ、……まぁ勝算はあるとも言い切れないがないとも言えない。五分五分だな。正直に言えばやってみなきゃわからん。」
確立で表せるのは数字にできるものだけだ。
この世が不確定要素で溢れている以上何が起こるかなんてわからない。
相手がチート能力を持っているならなおさらだ。
「作戦については乗るなら教えてやる。乗らないならここでさよならだ。あとはお前らだけで頑張るといい。俺も他を当たる。」
少し遊んでやろうと黙り込んでお互いの顔を見やる面々に対し畳みかけていく。
「確証がないと判断は下せないか?答えが出せないというならそれでもこの話は流す。慎重な吟味は大事かもしれないが、のんびり待つという気分でもないからな。」
「ぜ、全員の命がかかってる、すぐにとはいかない。」
人命を軽視していたであろう元マッドが人の命の大切さを語る。
滑稽にも程があるが、面白い。
絶賛更生中なのだろうが、だからこそ弄りがいがある。
「ドク、そういう気分じゃないって言ってるだろう。今、ここで決断してもらう。今ここでだ。」
「早急すぎる、こちらを騙そうとしてると受け取られてもいいのか?」
「理解が遅いようだな、……ハッキリ言っておくぞ、俺はお前たちを利用したいだけだ。騙す気はさらさらないが勘違いしてくれるなら大いに結構だと思ってる。」
「なっ……」
「なんだよ、今更驚くことか?さっきの今で俺が平和の使者にでも見えてたってんなら眼科か精神科お勧めするぜ?もっとも今のお前らが診察を頼める病院はないだろうがな。」
「あまりドクを虐めないでやってくれ、僕たちを利用したいというのならせめて利用し終わるまでは良好な関係を築いた方が君のためにもなると思うんだが……」
「それはお前の返答しだいだ。まとめ役なんだろう?リオール。お前がYESといえばこいつらはついてくる。」
こいつらとは今日会ったばかりで大雑把に説明されたあらましぐらいしか知らないがこれだけは確かだ。
リオールを精神的支柱にしてまとまっているこいつらは間違いなくリオールの決断に従う。
他人に自分の人生を預けるなんて俺ならまっぴらだが、まぁそれで精神が安定するならこいつらにとってはありなのかもしれない。
大きな決断というのは精神的に大きな負荷がかかる、強い心がなければそれだけで不安定になる代物だ。
それを他人に丸投げできるならさぞ楽だろう。
それでどうなってもいいのならだが……。
以前の俺はそれをやって後悔したし、前の世界では丸投げしたくせに責任まで押し付ける奴が多すぎた。
ああはなりたくない。
「それは買い被り過ぎだ。彼らには彼らの……生き方を決める権利がある」
「そう思ってるのはお前だけかもな、……なぁそうだろ?」
そういってリオールの背後に声をかければ意を決した声が返ってくる
「オレハオマエニシタガウ」
「私はのってもいいと思う、こいつ自体は嫌いだけど行き詰ってた私たちにとっては悪い話じゃない。……そうは言っても、あなたの決断には従うわ。あくまで私の意見ってだけよ」
「君に助けられた命だ、まだ君に恩も返せていない。君に任せるよ」
3人に同意するように喋れないサイが頷く。
4人の後押しを受けて暫く押し黙っていたリオールだったが、決心したように顔をあげる。
「わかった、僕が決めよう」
「それはよかった。……それで、どうするんだ?」
「コルテス、君の話を受けよう。君が僕たちを利用するというのなら僕たちも君を利用しよう。前々からわかってはいたんだ。研究所がある限り僕たちは表に出ていけないし、怪人化が始まった人間を元に戻す研究も進まない。どうにかしたかったんだけど、力が足りなくてね。だけど、これでやっと前に進める」
まっすぐこちらを見つめてくる瞳には迷いがない。
頼りない所もあると思っていたが要所ではしっかりとリーダーシップを発揮できるらしい。
だからこそ今まで生き延びてこれたんだろう。
「契約成立だな。よろしく頼むよリオール。」
ニヤリと笑う俺は手を差し出す。
「ああ、こちらこそ」
対してリオールは差し出した手をとって苦笑いを浮かべる。
未だに葛藤があるのかもしれない。
善人は大変だな守るものが多くて。
とにかくこれで駒は十分、少し順調すぎるがこれでリベンジが出来るだろう。
フォースレンジャーを殺して自分の価値を博士達だけじゃなくこの新しい世界にも示す。