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INVADERS  作者: 心人
幻想と現実の狭間で
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28話

怪人化の始まった人間。


予想はできていた。


というかもらった資料にはこの都市の怪人と『裂け目』の関係についての内容のものがいくつかあったのだ。


思いつかないほうがおかしい。


もっとも自我を保っているケースはほとんど確認されていなかったが……。


「怪人化ねぇ、そっちの甲虫男はわかるがお前らはどんな影響が出てるんだ?」


怪人化の定義は曖昧だ。


何らかの能力を持ってる人間がいる世界では人とそれ以外の境界が混じりあうのは仕方ない。


俺みたいに自ら名乗るやつがいない訳じゃない。


そんな中でよく定義として扱われやすいのは2つ。


ひとつは精神の異常性。


能力の影響もしくは能力を持ったことによる環境の変化が原因で極度に攻撃的で凶暴な性格になることがある。


特にこの都市の怪人はその傾向が顕著で自我すら崩壊していることも多い。


凶暴女の攻撃性はこれの初期症状だと思いたいが、たぶんあれは生来のものだ。


二つ目は人間としての形態を維持できているか。


正確には任意に人型に戻れるかどうからしいが、ぱっと見でアウトなのは甲虫男。


ほかの連中も何かしらあるのかもしれない。


「精神的にはみんな大丈夫なはずだ。明確な症状は出てないよ。ただ、肉体の方は各々症状が出てる。僕は少しずつ体温が上昇していってるし、シキはもう長いことこの見た目のまま。サイは声が出なくなってしまった。リアも手足の末端から透明化したまま戻らない範囲が徐々に増えてる。」


「それはご愁傷様だな。どおりでこんなところでこそこそせざるを得ない訳だ。とはいえ自我が残ってるだけでも随分とマシな分類だと思うがな」


いっそ自我がない方が変わりゆく自分への葛藤が無くて楽かもしれないが自我がなくなった時点で死んだも同じだ。


不幸中の幸いというべきだろう。


「ある程度この都市の事情は理解してるようだね。それで、何のために僕たちを探してたのかな。『INVADERS』、侵略者、この都市を侵略したいというのなら僕たちは君に協力することはできない。」


「はやるなよ優男、この都市自体に用はない。用があるのは研究所だけだ。」


「……研究所、あそこか、だがそれこそ僕たちにできることなんてほとんどないんじゃないか」


「なんだ、研究所の実態は知ってんのか、お前らあそこから逃げ出した被検体ってわけじゃないんだろ?」


ばっちりと情報統制されてる以上、一般人に研究所の内部情報を手に入れることなんてできないはずだが……。


「ああ、こんな状態になるまでは普通に暮らしてたさ。」


「フツウニクラシテタノハオマエダケダ、リオール。オレモホカノサンニンモカタギデハナカッタ」


その発言を受けて視線をこの場にいる他二人にやれば、凶暴女はそっぽを向き、小柄な男は恥ずかし気に頭を掻いている。


「そういうな、それでも一人の人間として生きてたんだ。そこに違いはないだろう?」


「……ドウダロウナ」


まっすぐな瞳に見つめられた甲虫男は目をそらす。


お世辞とか嘘ではなく本心からそう思ってる人間の目。


この目は日陰で生きてきた連中にはさぞまぶしいに違いない。


各人だけ見ればまとまれなさそうな連中が一所にいられるのはコイツのおかげだな。


「友情ごっこは結構だが研究所の内情はトップシークレットのはずだ。その情報は何処から手に入れてきた?カタギじゃなくたって簡単には手に入らないはずだぞ」


「研究所のことを教えてくれたのは彼らじゃない、僕らに真実を話してくれたのはドクなんだ。」


ドク、ねぇ。


さっきも挙げられていたがその名前がドクターから来ているだとすれば研究所の関係者か何かだろうか。


こういう時のお約束とすれば非人道的な実験に耐えられなくなって逃げ出してきた科学者といったところか。


何にせよ聞けばいい。


「ふーん、それでドクって奴は何者なんだ?」


「それは私が直接説明しよう」


俺の疑問に答えるように割り込んできた声。


声のした方を見ればカツカツという足音と共に一人のくたびれた感じの中年男が階段から降りてくるところだった。


「あんたがドクでいいんだな?」


「ああ。私で間違いない。」


「ドク、出てきてよかったのか?」


「私は匿ってもらってる身だからね、君らを抑えられてしまっては逃げるわけにもいかんし、時間の問題だったさ。それに彼は所長の駒という訳ではなさそうだ。」


「だが……。」


「勝手に盛り上がらないでくれるか?話を聞きたいのは俺なんだ、わかるか?」


この場を制圧し主導権を握っているのは俺であることをわかっていないのだろうか?


「話を遮ってすまない私の知っていることであればすべて話そう。だから彼らを見逃してはくれないか?」


「おいおいおい。人をなんだと思ってる。取って食う様にでも見えるってか?それとも使いつぶすとでも?」


「そ、それはないと思ってはいる。あの状況で君は誰も殺さなかったのだ。だが私たちはあまりに君のことを知らない。」


「お前たちが口約束で安心できるというならいくらでも約束はしてやるけど、だがお前の言葉を借りるなら俺が約束を守るやつかどうかもお前たちは知らないと思うだが、そこらへんはいいのか?」


「心の問題だ。何もないよりはまだ安心できる。」


「勝手に安心してくれるというならこちらとしては問題ないさ」


譲歩できるところは譲歩すればいい。


この手の仲間意識の強い連中相手なら、面倒になり過ぎないなら程度に相手の要求を呑んでおけば後でいろいろ要求しやすくなるはず。


悪い話ではないのだ。


それに虐めるのであればもう少し力も地位もあるやつじゃないとつまらない。


「そんじゃあ話を聞かせてもらおうか、もちろんお茶ぐらいは期待してもいいよな?」

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