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INVADERS  作者: 心人
幻想と現実の狭間で
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21話

研究所へと向かう車の中で私は悩まされていた。


特殊な研究を行う研究所において研究成果兼施設の防衛用の部隊として生み出されたフォースレンジャー。


その軍事指導という名目で私が同盟軍より派遣されてからそれなりの時が過ぎた。


ある程度の実践を経てこの素人だらけの部隊も発足当初の頃よりはだいぶましな戦いができるようになってきた。


その実感を最近は噛みしめていたのだが改めて自分たちの未熟さを思い知らされたのだ。


統率のとれた敵、今まで理性のかけらもない本能のままに暴れる怪人ばかり相手にしてきた自分たちにとっては思わぬ強敵。


倒せそうな手ごたえ自体はあったのだがいいようにあしらわれてしまった上で取り逃がすというミス。


しかも対処にあたろうとした同盟軍に割り込みをかけてわざわざ引かせたうえでの失態だ。


いくら研究所がこの都市の同盟軍上層部と根強いパイプを持っているとはいえペナルティーは避けられないかもしれない。


今回の件は同盟軍、いやあの少佐殿であれば苦戦こそすれ取り逃がすなんてことにはならなかったはずなのだ。


それだけでも気落ちするには十分なのだがさらに加速させているのが同乗者たちの会話。


「へっ、あんだけでかい口たたいておいて逃げ出すなんて大したことない連中だぜ」


「そうだな、次出てきたらもう少し痛めつけてやらないとな」


「次こそは必ず正義の名のもとに裁いてやる、必ずだ」


「流石レッドね、かっこいいわ」


自覚がないにもほどがある。


確かに勝てそうな相手ではあった。


だが同盟軍ですら一筋縄ではいかない相手。


そんな凶悪な怪人の一団がこの都市で野放しなのだ。


しかも自分たちが取り逃がしたせいでだ。


そのうえ相手には考える頭がある。


もしかしたら次は正面から戦うなんてことをせず絡め手に走る可能性すらある。


そうなれば経験と覚悟の足りない未熟なこの部隊だけでは対処できないのは間違いない。


なにせ全員、実験への適正値だけで選ばれているのだ。


レッドは正義のヒーローに憧れる青年。


女性関係でよく問題を起こすグリーン。


ギャンブルで借金まみれなイエロー。


レッドにべったりなピンク。


世間じゃこの都市を守るヒーローとして喧伝されているが、実情はこの有様。


敵のリーダー格に言われた通りのヒーローモドキ。


所詮自分たちはヒーローのまねごとをしているにすぎないのだ。


「レッド、今回の敵は強かった。次回があっても一筋縄じゃいかないのは間違いない」


「まったくブルーは心配性ね」


「強いって言ったって今までの敵に比べてだろ?。オレたちの能力が破られたわけじゃないんだし気にしすぎだぜ。」


「まったくだ。だから女にもてないんだよお前は。」


「まあまあ、みんなブルーの言うことはもっともだよ。実際取り逃がしてしまったじゃないか。」


「そうれもそうね」


「確かにそうだけどよ…」


「けど、俺たちが力を合わせれば不可能がないのもまた事実だ。あいつらに次はない。そうだろみんな」


「もちろんだぜ」


「私たちは最強だもの」


「へへへ、また武勇伝が増えちまうな」


「……」


心配するなと肩をたたかれたところで内心ため息は止まらない。


ほかのメンバーの自信の源になっている自分たちの能力だって知らないことが多すぎるのだ。


思わず額に手を当ててしまっても仕方あるまい。


不可能を可能にする力とだけ説明されているこの能力。


能力の付与は秘匿が徹底され、

被験者である自分たちですらどんなことをされたかわからない様に徹底されていた。


挙句渡されたのが能力を増幅させてくれるとかいうスーツ姿に変身するための腕につける小型端末だ。


普段であれば常人より少し力がある程度なのだが、子供のころ見たヒーローの様なスーツに身を包むだけでその力は跳ね上がる。


そのうえ力を流用することで常識では考えられないプラズマ兵器すら取り扱いができるのだ。


しかも肝心の増幅用のスーツも生半可な怪人の攻撃は無効化するだけの強度がある。


これだけでもこの都市に不定期に出没する怪人であれば戦闘訓練を受けていない人間でも十分討伐が可能だ。


同盟軍で利用できればより容易に怪人の討伐ができるだろう。


だが現実では『適正』という壁が立ちはだかる。


適正がない人間に能力付与行うとその人間はほぼほぼ死んでしまうらしい。


しかも適性のある人間は本当に少ないらしく研究所の検査を受けたメンバーの中では自分だけが『適正アリ』だったのだ。


当初は秘密主義の研究所が機密情報が外に漏れることを嫌がっているだけだと同盟軍上層部も判断していたのだが、

いつの間にか行政の上層部を丸め込んだ研究所の意見が通ってしまい、

軍で特殊部隊を新設するはずが気が付けば研究所の私設部隊の設立を認めさせられた上にサポートまでしなければいけなくなった。


結果として同盟軍がため込んでいる過去出現した怪人の記録や対峙する際のノウハウをすべて渡すことになった上に、

唯一適性のあった自分は派遣という形で私設部隊に放り込まれてしまった。


それでもまだ派遣されてすぐのころはこの都市を守る力の一助になれるならと気合を入れていたのだが、

今では同僚となったメンバーのペースに振り回され続けてこのざまだ。


これでは怪人にやられる前に自分の心が先に参ってしまいそうだ。


今の自分を見たら少佐殿や大尉殿は何を思うだろうか。


怒られるだろうか?


いやいっそ少佐殿にどやされた方がまだやる気が出るかもしれないな。


まったくもって情けない。


どうにかしたいがどうしようもないことを再認識して、

今日何度目になるかもわからないため息をまた漏らすしかなかった。



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