1話
ひどく退屈な毎日だった。
平日は仕事、仕事、仕事、仕事。
一人暮らしのアパートに帰ったらシャワーを浴びて寝る。
休日は寝るかゲームをするか、そうでなければ溜まった家事をするだけ。
20代にして惰性で生きる毎日。
人生の先輩方には若いくせに怠慢だと怒られる事だろう。
とは言えそれも仕方ない。
大した目的意識のない人間が、社会の現実というやつを目の当たりにすれば、気力を根こそぎ奪われるのは当たり前なのだ。
現代の人間が生きていくためには社会というシステムが必要で。
多くの人間は会社に入ることで社会の一員になる。
だが、人間を生かすためのそのシステムは人間に犠牲を強いる欠陥品。
社会というシステムは己の維持の為に義務だ貢献だと適当なことを言いながら日々人間を貪っている。
矛盾していることこの上ない。
しかしそれに抗うでもなく。
文句を言うでもなく。
自分はそれを諦念をもって受け入れてしまった。
そうなればもうあとは使い潰されるだけ。
『死が人を殺すというが、死はお前を殺さない。
退屈と無関心こそがお前を殺すのだ。』
誰の言葉だったか忘れたが、日々退屈を感じ、自身の生に無関心になって行く自分を見れば納得がいく。
自分の人生はこのまま緩やかに死に向かって進んでいくものだとばかり思っていたが、人生というやつは一回くらいは転換点を用意してくれるらしい。
博士とだけ呼ばれるその老人との出会いはまさしくそうだった。
俺は鬱屈した人生からの脱却を求め、博士は手駒にできる候補を探していた。
博士の手によって肉体を改造され、新たな人生の第一歩を噛みしめていたのだが……。
だが、今のこの状況はどうだろうか。
目の前には数体の武器を構えた連中。
SF風な西洋鎧姿にクロスボウの様な武器。
頭部のスリットから覗くモノアイが中身が人間ではないことを教えてくれる。
そんな兵隊共に囲まれ。
肝心な博士は、囲いの向こうで装飾華美な鎧をまとった指揮官みたいな奴とお話中。
「博士、何故外部カラ人ヲ入レタノデスカ。ゴ説明願イマス。」
指揮官自身もロボットの類なのか無機質な機械音声が聞こえてくる。
「素質があったからだ。前にも言っただろう。『楽園』に至るためには、戦力の拡充は必須。その上で多様性は欠かせない。」
「ソレハ理解シテイマスガ……デスガ、セメテヒトコト言ッテ頂ケレバ…」
どうやら、指揮官君は俺という存在が許容できない様だ。
単純に警戒されているのか、やっかみかで意味合いは変わってくるが、機械音声相手では感情も読み解くことは難しい。
「お前は必ず反対しただろう。エリック、違うか?」
「ソウカモ知レマセンガ…」
「だったらこの話はここまでだ。それより、アレの戦力評価テストをする。適当な敵を見繕ってくれ」
一瞬固まる指揮官君。
思い出したかの様にこちらを不気味に光るそのモノアイで見つめてくる。
あまりいい心地はしないが、
手でも振ってやればいいのだろうか?
俺が対応に困っている間に指揮官君は満足したのか博士へと向き直る。
「…実戦デモヨロシイデスカ」
「お前が適切だと思うならそれでいい」
「ハッ」
案外早く人生の終わりは来るらしい。