14話
痛い
とにかく体中が痛い。
本日2度目の油断。
今度は高周波ブレード的なものに興奮して周囲警戒がおろそかになった。
いや、でもこれは仕方ないのだ。
あんなカッコいいもとい興味をそそるようなものを引っ張り出してくる真面目ちゃんが悪い。
決して一度目の失敗から学んでないわけではない。
それにしてもあの発射音、この威力、ヘリの機関砲だろうか。
スペックは低いと言いつつだいぶ頑丈に作ってくれた博士には感謝しかない。
それにしてもあいつらもう少し遊びがあってもいいだろうに…
いやまあむこうは仕事なうえに命かかってるから本気で殺しに来るのは当たり前なんだけど。
高周波ブレードと近接戦闘とか燃えるって突っ込んでいった俺の純情を返してほしい。
でもこのまま遊んでたら本当に殺さねかねない。
新たな人生まだ始まったばかりなのだ、流石に死ぬにはまだ早い。
という訳で手始めにヘリコプターにはお帰り願おう。
ハイドラっぽいロケット弾とか明らかに危険そうなミサイルとかさっきは撃ってこなかったが、
撃たれたら機関砲以上にシャレにならん。
銀行で待機している機関銃持ちに命令を飛ばして屋上まで駆け上がらせる。
そして俺はゆらゆらと立ち上がりながら時間稼ぎもかねて話しかける。
「酷いなぁ、あんた機関砲で撃たれる奴の気持ちわかるか?」
機関砲の砲撃を受けてなお立ち上がるのは予想外だったのか、
真面目ちゃんもその部下二人も完全に硬直している。
「…あ、生憎と機関砲に撃たれて平然としている生き物の気持ちはわからん。こちらは撃たれれば助からないからな」
動揺しすぎて話しかけられているのに気が付くのが遅れたのか、
少し間を空けて返事があった。
「平然とはしてない。痛くてたまらないさ。体を引きちぎられるかと思ったよ全く。」
「その割にはまだ余裕があるように見えるのだが…」
「あんたの目は節穴か?これのどこに余裕があるように見えるんだ?それとも、子供のように泣き叫べば分かってもらえるのかな。痛いよママーってな」
実際のところ痛みは急速に引きはじめている。
怪人化の際に付与された再生能力のおかげだろう。
自然発生個体が持っていることは少ないそうだが、
博士の改造であれば個人差はあれどある程度のものは付与されるとのこと。
欠損部位の再生ができない時点で能力としては控えめとは博士の談だが、
今の自分には十分すぎる。
「そんなに声を弾ませておいてよく言う。」
「…あ、わかる?わかっちゃう?」
「…ああ、だが何がそんなに楽しいんだ?」
真面目ちゃんも時間がほしいのだろうか?
手持ちのカードじゃこちらを倒せないと踏んで何かを待っているのかもしれない。
ヘリには他の火器をぶら下げてるのに撃ってこないしヘリの武装制限の解除要請でもしてるとかだろうか?
軍隊にとって市街地戦は大変だな。
対してこっちの機関銃持ちはもうすぐ配置につくから時間はあまりいらないのだが、
こんな会話もそれはそれで楽しいかもしれない
「フフフ、全てだよ。怪人になってからの全てが楽しい。この力もいいが、何より今まで律義に守ってきたものを盛大に蹴り飛ばすのは心地がいい。あんたもやってみればわかるさ。」
「取り締まる側がそんなことをすればこの都市とその社会が成り立たない。何より自分自身がそれを許せない。」
「その社会というやつはあんたが体を張って守る価値があるのか?」
「当たり前だ。この都市だけでも100万単位で人が住んでいる。そのほとんどは怪人に抗う力など持たない。誰かがその盾にならなければいけない」
「フフフフフフフ、カッコいいねぇ淀みなくそういうこと言えるってのは。だが、あんたが体を張ってるその背後じゃ人間が人間同士で潰しあってる。さぞ守り甲斐がないことだろう」
「何が言いたい?」
「人間は大それた力なんてなくたって、他人を害せる。いじめはなくなったか?殺人事件は?交通事故ははどうだ?そう、なくなったりはしない」
「そんなのはほんの一握りだ。大半の人々は平和に暮している。」
「そいつは違うなぁ。やらかすの大半に含まれる連中だ。自分は違うとか、なんでそんなことをとか言ってる連中が何かの拍子に犯罪に手を染めたその瞬間からほんの一握りへと隔離される。最初から特別扱いされてる人間なんてまずいない。」
「それは…だが………」
言葉を言い淀む真面目ちゃんを前に余計な話をしすぎたかと少し反省。
「これは失礼。軍人さんにはお門違いな話だったな。どうしようもないもんなぁ軍人って立場じゃ」
「……何故怪人であるお前がそんな話をする?」
「ん?ああ、少しばかり時間が欲しかったんだが、それにしても少しおしゃべりが過ぎたかもしれない。だがまぁ俺はおしゃべりが好きなんだ仕方ないだろう?」
「違う、そうじゃない怪人であるお前が何故そんな話をするのか聞いているんだ」
「フフフフ、今もっと気にすべき発言をしたと思うんだが?そうだなぁ、律義に答えるとすれば、やってみたかったんだよ。正義のヒーローと問答ってやつを。作り話の中じゃよくあるだろ?悪役がヒーローに戦う意味を問う場面ってのが、あんたが話を振るから丁度いいと思ってな」
相手にもよるかもしれないが結構楽しかったので今後は自分から問答を仕掛けてもいいかもしれない。
「本当にそれだけか?」
「さぁどうだろうなぁ。少なくとも俺たちは今日会ったばかりだ。そういう込み入った話はもう少し仲良くなってからにしてくれ。初見の相手に腹割って話すほど社交的じゃないんだ。見た目を見ればわかるだろ?」
ガスマスクを指さしておどけて見せたのだが、
あまり反応がよくない。
ジョークのセンスはこれから磨いていくしかないな、うん。
「………ところで話が変わるがあんたらの使ってるヘリは何製だ?」
「なに?」
「俺をズタボロにしてくれたあの戦闘ヘリは何処の会社が作ってるんだって聞いてるんだ」
「………それを答えるわけにはいかない。」
「ふーむ、ケチと言いたくもなるが、それもそうか…。カッコいいから一機欲しかったんだが、残念だ。こんな話は聞いたことはあるか?ヘリってのは作り話の中じゃよく落ちるんだ。とくにゲームとかのストーリーじゃな。そういう時はゲームの製作会社の名前を取って○○製のヘリはってよく言うんだが、あんたんとこのはどうなんだろうなぁ?」
高揚した声でそういうと、真面目ちゃんも察したのか未だ上空を周回する戦闘ヘリを急いで見上げる。
今頃退避指示でも出してるかもしれないがもう遅い。
ガスマスクの奥でにやけながら銀行屋上で待機する個体にGOサインを送ると同時に、
実戦初のMG42モドキが火を噴いた。