13話
駆動鎧のなかでぐっしょりと冷や汗を掻きながら相対する怪人に何とか一撃をお見舞いするべく射撃を続けているがいっこうにあたる気配がない。
生身の人間が携帯して運用できる銃では常識外れな肉体強度をもつ怪人に通用しないことは多い。
しかし、本来は銃架とセットで運用され装甲車やヘリなどに搭載されるか、
歩兵であれば3人以上で運用されるこのハール社製M4重機関銃の射撃で無傷という怪人はほぼいない。
それに対して怪人達は持ち前のスピードを生かして重量と固定兵器故の取り回しの制限を受ける重機関銃の銃口から逃れようとしてきた。
だがそれも駆動鎧と駆動鎧用に改良を受けた重機関銃の登場により固定兵器としての制限から解放された口径12.7mmの銃口から多くの怪人は逃れることができなくなったのだ。
けれど恐るべきことにガスマスクをつけたあの怪人は照準を向けられても慌てるそぶりも見せず、
それどころか音速を超えて飛来する弾丸に反応して避けてみせた。
これが危険レベル4なわけがない。
間違いなくレベル5だ。
危険レベル5は怪人などで結成される組織においては幹部クラスかそれ以上の立場にいることが多く、
所持能力によっては都市の総力をもって相手をしなければいけないも場合もある。
本来であれば駆動鎧小隊のみでどうこうなる相手ではないが、
幸いにも戦闘ヘリが援護についている。
ミサイルやロケット弾は未だに制限を受けたままだが、
30mm機関砲がつかえる。
すぐさま戦闘ヘリに通信を繋ぐ。
「こちらハウンド01、ハンターに30mm機関砲による支援を求める。」
『ハンター01了解。上から見てるが敵が早すぎる。一瞬でいいから敵の気を引いてくれ』
「任せてくれ。ただ、チャンスはそう多くは作れないぞ」
『ハハハハ、冗談言うな。チャンスは一度ありゃ十分だ。幸運を』
そういって通信は切られる。
頼もしい限りだ。
己は一人ではない。
長年共に怪人怪獣と戦ってきた戦友がいる。
部下の若い少尉二人も取り巻きの気を引いてくれている。
ならばあとは信じて前に進むのみ。
それに敵の身体能力は恐ろしいが手がないわけではない。
愉快犯のような言動。
あの手の敵はこちらが興味を引く行動をしてやれば必ず食いつく。
あとはタイミングの問題。
その機を伺いつつ機関銃に備え付けられた照準器のリンク画像を頼りに引き金を引いていく。
すると避けるばかりだったガスマスクの怪人がホルスターから型の古そうな拳銃を引き抜いてこちらに向かって発砲してきた。
ただ、激しい回避行動と片手で構えていることも相まって狙いは定まっていないようだ。
初弾に至っては狙いがそれすぎて狙った怪人自身が自らの手に収まる拳銃を見つめたほどだ。
銃の扱いは素人でブレまくる銃口をみて安心していたのだが、
すぐに異常なことに気が付かされた。
拳銃の弾数だ。
グリップの形状からして装弾数は10を超えることはないはずなのに、
開き直ったのか適当に撃ち始めたそれからは10を軽く超える弾丸が放たれている。
そうなると威力のほうも自分の知る拳銃と同じとは限らない。
アサルトライフル程度なら防いでくれる装甲も抜かれる可能性が出てくるのだ。
まずい、そう思い回避機動を取ろうとした時だった。
運悪く敵の放った弾丸が機関銃の基部に命中。
しかも、危惧していた通り拳銃弾とは思えない威力を発揮し、
いともたやすくM4機関銃の基部を粉砕して見せたのだ。
当たれば駆動鎧ごと体をちぎられかねない。
その事実に体と思考が恐怖で硬直しそうになるが、
勇気を振り絞って前へと進みだす。
そう、これはチャンスでもあるのだ。
使い物にならなくなった機関銃を放り捨て、
腰にマウントされている高周波ブレードを引き抜く。
刃渡りは50cm程度でマチェットのような幅広の形状と柄頭から電力供給用のケーブルが駆動鎧へと伸びている。
そしてそれのグリップにはトリガーが付いていて握りこむことによって刃が高速振動し敵を切断すべく唸り声をあげる。
本来なら怪人に近接戦闘を挑むなど無謀もいいところで高周波ブレードも護身用に近い代物なのだが、
相対する怪人の興味を引くだけでいいのなら効果は十分。
実際やつは高周波ブレードにも興味を持ったようで拳銃を収めて今度は腰のサーベルを引き抜いた。
「いいね、いいよそういう感じ。盛り上げ方わかってるじゃん」
射撃が命中したこともあってかガスマスクの怪人は興奮した雰囲気でこちらに向かって走り出してくる。
これだけ気を引いたのなら十分なはず。
距離を詰める途中で進路を急転換して射線に入らないように体勢を崩しながらも横へとそれる。
それを待っていたとばかりに怪人の後方に回り込んだ戦闘ヘリの30mm機関砲が火を噴いた。
こちらに気を取られていた怪人にそれを避けるなんてことはできるはずもなく、
分間625発のレートで吐き出された30X110mmの弾丸は怪人とその周辺に降り注ぎ、
あっという間にあたりを土煙で包んでしまった。
「やったか?」