11話
流石というべきなのだろう。
俺にかましてくれた狙撃が効果がないと悟ってからの警察の動きは早かった。
今思えば撤収の合図だったホイッスルが数回鳴り響き、
目くらまし用のスモークを焚いてあっという間に引き上げてしまったのだ。
今では警察官の姿は一人も確認できず、
通りにはポカーンとした感じで取り残されたマイヤー達だけが残っていた。
狙撃の件と合わせこっちが遊んでいるつもりだったのだが、
警察に上手くあしらわれてしまった感じがする。
というか警察というより軍隊に近い感じだったな。
こんな世界じゃ警察もあそこまで逞しくなるのか、
これは本命もだいぶ楽しませてくれるかもしれない。
マイヤー達が戻ってくるのを眺めながら、
これから起こるであろう戦いを考えてニヤニヤしていたのだが、
ふとマイヤー達が足を止めて同じ方向を向いたのに気が付き、
何事かと能力によるリンクを繋いで視界共有をするとそこにはこちらに向かって飛んでくるヘリが3機。
戦闘ヘリっぽいのが1機とデカイ輸送ヘリが2機
やっとレンジャーフォースがきたのだろうか…
でもあいつらって研究所の所属だから戦闘ヘリなんて持ってないよな…
軍と連携してるらしいし借りているのだろうか…
都市とはいえ100万単位で人間が住んでいる以上現場まで車で移動なんてしてたら事件にはまず間に合わない。
だからヘリで出勤してくるのはわかるのだが、
戦隊モノのスーツ着た人間5人運ぶのに人間を3,40人は運べそうなヘリ2機というのは過剰なのでと思ってしまう。
あれれなんて考えているうちにヘリ3機はあっという間に近づいてきて、
少し手前で分散し輸送ヘリは同じ通りで銀行を挟むようにホバリング、
戦闘ヘリは銀行を中心に旋回しはじめる。
先にホバリングを始めたヘリの後部ハッチが開いて人間サイズの駆動鎧とでもいうべきモノが3体飛び出してくる。
重厚感のあるがっしりとした形状
背中にはフライトユニットとでも呼べそうなプロペラを内蔵した機械の翼、
足には小型のファンと移動補助のためのタイヤのついた車輪。
控えめに逝っても男子のロマンを詰め込んだような形で、
ロボットアニメが好きなら心がときめくこと間違いない。
それが装甲車の上にでも乗ってそうな重機関銃を装備し、
ビルより高い位置でホバリングするヘリから背中のプロペラと脚部のファンで減速しながら降下してくるなんて光景を見てしまったては興奮が抑えきれない。
自分を殺すために送られてきたのは間違いないがそうだとしてもカッコいいものに目を奪われるのは男子故に仕方がない。
仕方がないのだ。
こうしてはいられないと視界共有を切って銀行正面の大通り飛び出し、
無事着地して後は足についた車輪でスラローム走行で近づいてくる3体を『おおー』なんてつぶやきながら出迎える。
3体はある程度近づいたところで停止し、
どこかに拡声器でもついているのかよく響く声で勧告を始めた。
「こちらは都市国家同盟軍第17連隊麾下第1駆動鎧中隊、所属不明の怪人に告げる。武装を放棄し投降せよ。さもなくば防衛法に従い貴様らを排除する。繰り返す、武装を放棄し投降せよ。さもなくば防衛法に従い貴様らを排除する。」
警察に続きこちらもテンプレートの様な降伏勧告。
本命ではない以上真面目に相手にするのも面倒なのだが、
カッコいい見た目に免じて少しくらい相手にしてやってもいいかもしれない。
なんなら一式持って帰りたいくらいなのだから仕方ない。
「おいおいおい、それで降伏した怪人がいるならぜひ教えてもらいたもんだぜ。そんなことよりカッコいいね、その駆動鎧?一式くれよ。そしたら今日は帰ってもいいぞ。」
すぐにでも『ふざけるな』とか言われると思っていたが、
こいつは一瞬悩むふりを見せるとおもむろに答えた。
「…この都市に2度と来ないと約束するとお前が上層部に説明できるなら検討してやろう」
………は?
真面目ちゃんかよこいつ。
「あー、そいつは厳しいなぁー、上層部っていうとあれだろ頭硬いんだろ?俺はそういうやつ嫌いなんだよな。わかるだろ、自分の中で勝手に答えだしちゃって人の話を聞く気ない奴に説明するのって大変なんだ。あいつら人の話すぐ遮って最後まで聞く気ないし」
こんな話題になると社会人をしていたころを思い出してしまう。
実際最近までしていたわけだから、思い出すって程でもないのだが、
試験報告書を出すときに試験結果が自分の思い通りにならないとすぐ文句を言いだす上司がいたのだ。
こっちがどんな手順で試験をしたか懇切丁寧に説明しようと話を聞かない、
そしてちゃんとやったのか言いはじめもう一度やり直せという。
それでも結果が変わらなければ条件を変えろと言い出す。
遠回しに条件変えたら意味ないですよねと言ったところで無視されて、
変なこじつけの様な理由の元、条件変えて再試験。
この結果の出る条件を探すみたいな試験ならそれで間違いないのだが、
この条件でこの結果が出たので大丈夫ですみたいな目的の試験そんな指示をされれば俺としては発狂モノである。
感傷に浸って意識がそれたことに気が付き慌てて真面目ちゃんとの会話に意識を戻すが、
「………」
「………」
なんということか、
自らの一言で何らかのトラウマが刺激されたのは俺だけではなかったようだ。
言葉を失う真面目ちゃんを見てお前も経験あるのかと察してしまう。
お互い察してしまったせいで、
とてつもなく気まずい空気が流れるのだが、
なんだろう、今一瞬だがこの真面目ちゃんと分かり合えた気がするのだ。
だが、変に向こうに共感を持たれたせいでからかう気が失せた上に何を話せばいいのかわからなくなってしまったのだ。
これは大問題である。
真面目ちゃんの部下二人も動揺している気配が伝わってくる。
おかげで無駄な静寂が場を支配していたのだが、
意外にも向こうからこの無駄にどうしようもない空気を打破してくれた。
「こいつは貴様らの様な怪人にくれてやれるようなものじゃない。」
「ケチだなぁ。こっちには人質だっているってのにー」
なかったことにしようという暗黙の提案に俺は乗ることにした
疲れ切って諦観に支配された社会人の防衛手段は異世界でも変わらないようだった。