プロローグ
目を覚ますとそこは手術台の上だった。
白一色で統一された広い部屋。
思わず手をかざすほど眩しい照明。
部屋には扉すら見当たらず、
置いてあるものは自身が乗る手術台のみ。
そのせいか、継ぎ目の見当たらない壁は距離感を曖昧にしてしまう。
そんな中でふと思う。
自分はこんなところで何をしているのだろうかと。
かざしていた手を思わず額に当て、
言い知れぬ寒さに身体が震える。
しかし、そんな記憶の空白など一瞬で、
眩しさに目を瞬く度に記憶が蘇ってくる。
自身の生い立ち
過去の記憶
そして、何故ここに居るのか。
記憶が戻るたびに身体は力と熱を取り戻し、
気がつけば震えは治まっていた。
今度は自身の変化を確認するように、
両手を開いては閉じてを繰り返す。
何かが変わったそう実感した瞬間、
俺は思わず両手を握りしめた。
自身でも自然と口角が上がっているのがわかる。
「…調子はどうだ」
声に反応しゆっくりと顔を上げる。
いつの間にか正面に出現した通路には1人の老人が立っていた。
グレーのズボンにワイシャツ、さらにその上に白衣を纏ったその姿は何らかの研究者の様だ。
ピンとした背筋とオールバックの髪型は、
髪も蓄えた髭も真っ白にもかかわらず、若さを感じさせる。
「身体の方は実感がありますよ。博士」
「そうか……希望通り外見が変わらない様に中身を弄ったが、事前通知した様に、その分出力は控えめだ。」
「これでも控えめなのか…」
施術前より明らかに軽く感じる身体は力を持て余している様で、
気をつけなければその力に振り回されそうである。
身体を慣らす必要性を感じながらも、
もっとも気になっていることを尋ねることにした。
「それより能力ってやつはどうなったんです?」
「脳波の方に異常は見られないから脳機能の拡張は成功している。まず間違い無いだろう。」
「それはよかった」
適正があるから成功は確実だと言われても、
やはり頭の中を弄られるとあれば流石に心配になる。
「肝心の内容は使ってみないとわからんが、それはこの後試せばいい。その前に改めて言うことがある。」
「何です?」
手術台から降りた俺に老人は手を差し出す。
「おめでとう。そしてようこそ。今日から君も悪党だ。精々励んでくれたまえ。」
「まぁ、善処はしますよ」
そして俺は老人の、悪党の手を取ったのだった。