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β6 新入生歓迎大会☆心の優勝目指せ

□第六章□

□新入生歓迎大会☆心の優勝目指せ□


   1


 キーンコーンカーンコーン。

 コーンキーンカーンコーン。


「終わったあー! じゅーぎょうーは、お・し・ま・い♪」

 歌い跳ねる美舞に対して日菜子が追う。

「作詞作曲は三浦美舞さんでした。ふふふ」

 二人して荷物を鞄に整理しながら話す。


「入学式の翌日午後二時に、新入生歓迎大会って、はなっから楽しいね、ひなちゃん」

 美舞は、日菜子が好きで仕方がない。

 にこにこと話す。


「栄誉マネージャーひなちゃん情報です。どうやら、この学園の空手部は自由なせいか、格闘技ブームもあるし、人気はあるみたいね。で、調べたのだけど、男子空手部は、美舞を除いて二十五人だって」

 体育館へ向かって歩く。

 学園は広いので少し歩かされる。


「男女空手部共なのだけど、このイベントね、新入生歓迎大会で、両空手部では観戦料として幾らかの料金をいただいて部費の足しにしているらしいわ」

 ぼそぼそと美舞の耳に届いた。


「徳川学園だからね、それ位はOKなのかな? 応援されたら、僕ももっとがんばるよ」

 元気にガッツポーズをした。


「美舞には、私がいるでしょう?」

 何故か泣き真似を日菜子にされた。

「さめざめ……」


 二人は、体育館に着いた。

 先ずは、客席から見回した。


「では、ルールを再確認ね。美舞」


「体育館には四つの闘技場があって、その上は畳敷きになっています。それはこの大会のルールとして投げ、間節技も認めており、空手家といえども板間に投げられればきついからです。OK?」

「うん、大丈夫」


「闘技場は五メートル四方で、端には白線が引いてあります。見たよね?」

「今、見たよ」


「この白線から故意に出たら場外負けとなると言うから、チェックだよ。もし、不意に出てしまった時は一本扱いとなるって言うから、しっかり覚えていてね」


「で、ひなちゃん。基本的には凶器攻撃、噛み付き、急所攻撃は反則、二本先取のフルコンタクト制でしょう」

「そうそう」


「審判は、空手部の三年の先輩が務めるので心配はないよね。美舞」

「僕、思うのだけど、男子の部、女子の部、混合とあって、基本的には体重制限はないのってさ、これは実戦において相手の体重が選べる筈がないからだって、面白いよね!」

 日菜子が頷く。


「僕は、混合がいいな」


 こうして、空手部の新入生歓迎大会は行われる事となった。


   2


「観客多いねー! そんなに血を見たい?」

 美舞は、女子空手部の更衣室を借りて、道着に着替えて出て来た。

「止めなさいって、血は出ないから。空気を読もうか、美舞」

 日菜子も一緒に来た。

 

「学校の徳川スクープ読んだ?」

 きゃいきゃいする美舞。

「何でしょう?」

 ちょっと頬をふくらます日菜子。


「必ず流血する畳の怨念! あなたはもう一人ではトイレに行けない! だって……。どわあああ」

「何その嘘っぱち!」

 日菜子にしては強めだった。

 

「あ、気分悪くさせてごめんね。Twitterにあったんだ。えーと、このアカウントね、@tokugawa_tokuhou」

 スマホを見せた。

「信じるのは、止めようね。美舞には、正しくあって欲しいよ」

 美舞はしょんぼりして、己を省みた。

「うん。僕が全面的に悪かった」


「後、スマホ預かるから、ロック掛けてね」

「あ、助かるなあ。気が利くね、ひなちゃん」

「栄誉マネージャーですから」

 日菜子の笑顔に救われた。


   3


 美舞は、予選なんて、犬がご飯をちゅるりと飲むように、何事もなく勝ち進んだ。

 そして、ベストエイトに入り、明日決勝へと進む事になった。


 美舞は、制服に着替えて、日菜子と学園がから帰っていた。


「ね、あの寅屋(とらや)に入って行かない? 心太(ところてん)が美味しいの。付き合ってくれる? ひなちゃん」

 紺地に白抜きの寅屋の文字が暖簾に眩しい。

「勿の論で、いいですよ! 初めてだね」


 バシッ。


 美舞は肩を叩かれた後に肩を組まれた。

「ちょっと小腹が空いちゃって……」


 二人は、寅屋の隅の席に着いた。

 四角い木の椅子にちょこんと腰掛けた。


「決まったかな? 美舞」

「うん。僕は、いつも決まってるよ」

「お願いしようか?」

「うん」


 紺の前掛けをした店員さんに注文した。

「僕は、寅屋スペシャル心太。ひなちゃんは?」

「私は、白玉クリームあんみつ。お願いいたします」


「お待たせしました。どうぞごゆっくり」

 静かに並べてくれた。


「いただきます」

「いただきます」


「どうかな? 僕、優勝できそうな気がして来たけど、無鉄砲かな?」

 箸をつける前に話して来た。

「大丈夫よ。私の応援で勝てない訳がないのよ」

 もにゅっと白玉から行く日菜子。


「御守りみたいな人だなあ、ひなちゃんって」

「実は、父はこの近くの禰宜なのよ」

「葱? 農業? 御守りと葱との関係は何かな?」

 美舞は、知らないだけである。

「神職よ。その肩書き」


「へえー。ひなちゃんは、巫女さんとかは、やらないの?」

「私は、まだまだだから……」


「謙虚だね。可愛いわ、ひなちゃん!」

「美舞は、格好いいよ」

「あはは、ひなちゃん、言うにつけて、何それ?」

「あはは」

「あはは」

 可愛い声が、寅屋の懐かしいBGMと耳障りがいい。


「美舞、溶けないけど、心太伸びるかもよ。召し上がれ」

「そうだね、僕、少し緊張していたよ。ありがとうね」

 悩みがスッキリしたのか、如何に寅屋スペシャル心太が美味しいのかを語りながら、食べたり、笑ったりした。


   4


 翌日、ベストエイトの闘いもとうとう決勝になった。


『第一闘技場 鴨川義也(かもがわ よしなり) 対 三浦美舞』


 しかし、ものの数分で、判定が下った。

「ゆ、優勝は、三浦美舞……!」

「三浦美舞、優勝!」


 敵のいないステージ中央で、美舞は、礼をした。

「ありがとうございました」

 呼吸一つ乱さない強さを持つ美舞に、観客は興奮していた。


 ザワザワ。

 ザワザワ。


「す、凄いね、今年の新入生」

「混合で? あんなに小さいのに」

「敵なしだな……」

 そして、美舞が、ステージから降りて、笑顔で手を振ると、素直な歓声に変わった。


 ワーワーワー!

 ワーワーワー!


 パチパチパチパチ

「おめでとうー!」

 パチパチパチパチ

「優勝、おめでとうー!」


「ありがとうございました……」

 美舞は、笑顔と礼を欠かさなかった。


 そして、体育館の隅で働いていた栄誉マネージャーのもとへ行き、ハグをした。

「支えてくれて、ありがとう。ひなちゃんは、大切な友だちだよ……」

「よかったね、美舞。そして、こちらこそありがとうですよ」


 暫く抱き合って立ったままでいたけれども、離れて、表彰台へと向かった。


「表彰状、三浦美舞――」

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