β45 帰宅★孫の異変にじいじもばあばも
□第四十五章□
□帰宅★孫の異変にじいじもばあばも□
1
シャラン。
シャラン。
徳川第二団地四〇一号室に、家族三人で久し振りに入った。
すると、びっくりな先客があった。
「おお、玲君。むくちゃん! それに、美舞も……! 良く来たね」
ウルフが迎え入れた。
「おお、美舞……!」
マリアが、泣き腫らした目で玄関に駆け寄った。
「父さん、母さん。僕なら、大丈夫だよ、ほら?」
ひょいと玄関に上がりながら顔を見せた。
「無事で何よりだわ」
マリアが、美舞にひしっと抱きついた。
「ありがとう。玲君。そして、美舞」
ウルフは、それぞれに強めのハグをしてしまい、きついと言われて、悪かったと、顔の前で手を合わせた。
「むーくちゃん、よしよし」
むくちゃんは、じいじとばあばから、頭を撫でられて、歓迎されたのであった。
それから、奥にある、六畳間のリビングへ行った。
「はい、父さん。はい、母さん。どうぞ。玲も」
皆で、まるテーブルに付き美舞が入れた緑茶をいただいた。皆、美舞流の渋めの味には、なれていた。
「私、玲君から、何の連絡もないし、美舞もむくちゃんも居なくなったのを心配して、来ていたの」
マリアお義母さんは、この頃涙脆い。
「すみません。俺がしっかりしていなくて」
「玲君のせいではないだろう」
ウルフも咎めるつもりはなかった。
「美舞が、迷っていたのを探しに行っていたのです」
玲は、率直に言った。
「どこへだね?」
ウルフは、両手でお茶をいただいた。
「ブラックの時間城迄。五芒星のです。徳乃川神宮から、天守閣が見える」
玲は、隠し様がないと、打ち明けた。
「城かい? そんなに目立つ物、儂は、知らないが」
ゆっくりと、湯飲みを置いた。
「そんな物あったかしら?」
ウルフもマリアも口を揃えた。
「え? なかったですか?」
玲は、素面でびっくりした。
「ないと思うよ」
念を押すウルフお義父さん。
「そうですね。なかったと、俺も思います……」
ここは、口を合わせようと、玲は、思った。
「おいおい、玲君」
「まあ」
義理の両親は、軽く笑った。
2
「むくちゃんは、ねんねのまんまですね……」
玲が抱いていたむくちゃんを隣のウルフが覗き込んだ。
「ずっと起きないんだよ、むくちゃん」
美舞が訴えた。
「笑わないのですよね、生まれてから一度も。大丈夫でしょうか?」
玲が、そう真剣に訊いた。
「まだ、早いでしょう? 心配要らないわよ」
マリアが、優しく受け答えた。
「あら、どうしましょ。おむつもミルクもやっていないのではないかしら? ねえ、私がお世話してもいい?」
「どうぞ。お願い致します。俺から、マリアお義母さんに、是非とも」
心配の掛けっぱなしだ。この間、意地張って、マリアお義母さんに、悪い事をした。むくちゃんの祖父母なのにと、玲は、反省しきりであった。
マリアは、むくちゃんをベビーベッドに寝かせた。
良く眠っていた。
「まあ、可愛いわねえ」
「そうだな、儂にはマリアにしか見えない」
にやにやしてしまうウルフ。
初孫を二人でうっとりと可愛がっている。
「私が、おむつ見てみるわ」
カサカサ。
「あら? 何にもしていないわ。一応、かぶれるといけないから、新しいのにしてもいいかしら?」
「はい、お願いします」
「ありがとう、母さん」
美舞に玲、子供達も少しの間に変わった様だ。
程々の距離感に礼、必要な場合もある。
その時、ウルフが、見ていて異変に気が付いた。
「おい、皆、見てみろ……」
3
「むくちゃんの両手に痣が……!」
美舞も玲も目を剥いた。
「しかも、五芒星と五芒星だよ?」
美舞も驚きを隠せない。
「両手に五芒星の痣が?」
皆が寄って来てざわついた。
「僕の両手には、何にもないよ」
美舞には、一旦カルキになっていた時にはあったが、今は、なくなった様だった。
あの城で玲とバトルした時にだと思われた。
「俺は、右手に逆五芒星がうっすらとあるのですが。どうしましょうか、ウルフお義父さん。ははは」
玲は、ドライな笑いをした。
「玲君、大丈夫だ。この手は、医療に向いている。そっと翳せば、治癒にも使えるぞ。医師になって、何にもない戦地に行ってみろ。自分のこの右手を大切にしてみたまえ」
流石の元軍医ウルフのアドバイスに、玲は、頭が下がる思いであった。
4
美舞が、口火を切った。
「むくちゃんの性決定権を持つ染色体は……」
「X染色体とY染色体なんだ。実は」
「何ですって?」
「何だと?」
マリアもウルフも驚愕の声。
「左手に表れたのは、祖母のマリアの五芒星、ママの僕の五芒星と、順調に、女系の五芒星と繋がっているんだ」
いや、順調に思っているのは、特殊だからとは、玲は、言わなかった。
「だけど、右手に表れたのは、祖父のウルフやパパの玲のとは関係がないんだよ。第一、逆五芒星ではないし」
美舞は、持論を展開した。
いつの間に悟ったのか、考えたのか、誰にも分からなかった。
「どう言う事?」
皆が、又、ざわついた。
「Y染色体に組み換えられたんだ。それは、本来はX染色体に乗る筈の聖の力を持つ、新しい遺伝子。つまり、突然変異が起きてできたんだよ」
「だから、両性具有的になっている……。そう、僕は、閃いたんだ」
美舞は、むくちゃんのおむつを綺麗にしてあげた事がなかった。
「見た目、女の子の様だから」
美舞が、むくちゃんの顔に、顔を近付けた。
「聖の力を両手に持つ、スーパーベイビーと言う所かな」
美舞が、にこりとした。しかし、むくちゃんは、目を瞑ったままであった。
「しかも、母さんの名前は、マリアだろう。イエスキリストの様だね?」
美舞が、呑気に見えた。
ここにいる誰にでも。
「これから、むくちゃんとの生活、どうするの? 玲君、美舞」
マリアが、訊き、ウルフも聞いていた。
「それは――」
シャラン。
シャラン。
四〇一号室のベルが鳴った。
皆が、どきどきする話のいいタイミングだったので、驚いた。




