β42 ジーンアブダクション再び★まーまの夢
□第四十二章□
□ジーンアブダクション再び★まーまの夢□
1
「聖と魔の話をしよう」
美舞が、切り出した。
玲は、むくちゃんを抱いたまま聞き始めた。休まる様に、とんとんとしていた。
美舞が言葉を放った。
「X染色体のみに乗る聖の力を持つ人類、つまり、マリア母さんみたいに、左手に、痣として、五芒星が表れるのが、稀にある。そして、これも稀だけど、Y染色体のみに乗る魔の力を持つ人類、つまり、ウルフ父さんみたいに、右手に、痣として、逆五芒星が表れるのが、まあ、普通なんだ」
美舞にとっては、普通であった。
玲は、美舞の事を否定する気はさらさらなかった。
「しかし、マリアとウルフの二人の結婚により、僕には、一つのX染色体に聖の力をもう一つのX染色体に魔の力を持つ事になったのは、知っているよね」
勿論であった。
知ってしまった以上、何もかも墓場迄持って行く覚悟で連れ添っていた。
「ジーンアブダクション、遺伝子の革命的拉致が突然変異を起こしたんだ。Y染色体にね」
漏らさずに聞いていた。
「Y染色体の遺伝子が、神の力で組み換え遺伝子の様になってしまった。僕の場合、ウルフのY染色体に乗っていた、魔の力が、遺伝子の革命的拉致により、わざわざ乗せられ、逆五芒星が表れたと思うよ」
美舞も美舞なりに考えていたのだと、玲に良く伝わった。
「むくちゃんは、女の子だと思うかい?」
突然の質問を美舞がした。
この頃は、武道の話よりも、妊婦向け雑誌『えがおのたまご』などを読み出し、そうした話がかなり増えていた。
思考も少し変わって、落ち着きも出て来ていた。
「おむつの時、普通に見ていたよ」
ぱーぱだから、がんばっていた。
「むくちゃんは、処女懐胎なんだ」
まーまの口から言うとは、驚きであった。
「ばかを言うなよ、あり得ないだろう?」
玲の率直な疑問。
「僕もそう思っていたよ」
美舞は、続けた。
「子孫のこれ以上の繁栄の危機感を示そうとしたらしい」
「誰が?」
玲は、かなりばかばかしく思えて、しらけた。
「神が」
この世界に疑問を持たない美舞は、言い放った。
「ああ、“吾”か。あれな。神のガガガガガガガーン!」
玲も関わりがあった。
「何故、むくちゃんが……。キリスト? そんな話もあったな。キリストならば、うーん、マリア様が自己増殖して、X染色体に聖の力、Y染色体にも組み換えて聖の力を持たせたとかか?」
玲の推理は今では証明出来ない。
「イエス・キリストが磔にされて亡くなった後にその遺体をくるんだ、真の聖骸布でもあれば、DNA解析ができるが、ないだろう? 難しいな」
玲も頭を捻った。
「美舞は、聖母マリアではないから、心配しないでな」
はっきりと知っていたから、言えた。
「僕は、不貞はないよ! 言って置くけど」
なんか、おかんむりになった美舞に手を焼く玲。
「まあ、まあ……。信じているし、ずっと二人で見守って来たお腹の赤ちゃんじゃないか、なあ、むくちゃん」
むくちゃんの顔を覗き込み、ゆらゆらさせて、玲は、ひょっとこの顔をして、小さく笑った。
「まだ、笑わないか……」
2
「美舞は、お産の後、アレになった様だね?」
一応、確認した。
「知っていたの?」
我慢して隠さなくても良かったのかと、今更に、思えた。
「夫ですから。当然」
にやり。
流し目をした。
「再び、両手に痣が出来て、辛かったのだろう? 様子がおかしいまま、家出されて、そりゃあ、心配したさ。その後、新興宗教みたいにアレとしてこの城におさまっていたし、助けに行かないとならないって思ったよ」
だから、こうして、来たのであった。
「実は、むくちゃんの飛翔術で、天守閣から、入ったのだよ。しかし、俺は失敗して落下。むくちゃんは、アレに痛い思いをさせられているのかと思ったよ。どうなっていたんだい?」
訊きたかった事だ。
二人にどんな秘密があったのか、訊きたかった。
「驚かないでね」
美舞が少し俯いて、目だけちろりと、玲を見上げた。
「今更、何を?」
沢山、驚きがあったので、今更、何もかも大丈夫であった。
3
「これから、話すのは、僕の夢だ。多分、夢なんだ」
話すのに、迷いや後ろめたさのある美舞であった。
「まーまのむくちゃんとの夢か……」
玲は、むくちゃんを優しくとんとんしながら抱いたまま聞き始めた。
「そうなるね」




