β39 カルキの祭壇★私の記憶をなくして
□第三十九章□
□カルキの祭壇★私の記憶をなくして□
1
暫く歩いたが、その奇妙な行進も終わりに近づいた。
「オオオオ……」
「今、さっと横切った様な考え事が終わるや否や、天守閣の下の辺りに着いた。もう、誰も行進を止めたか」
玲もいよいよ本番で、美舞に会えるのかと、胸が高鳴った。
「オオ……」
「オオ……」
「相変わらず、呻いているな……。先ずは、バレてしまわない様に、俺は、息をひそめて信者に潜り込むしかないな」
玲は、無言を努めた。
ガガガガガガガーン!
「――来た! 神だかカルキの登場だ! 再会かよ? 会いたくないなあ。でも、美舞だから、仕方がないな」
玲は、思った。
『吾と吾の祭壇へよくぞ参った』
玲は、声が少し違うが、美舞だと直ぐに分かった。
しかし、今は、他の信者と同じく、軽く俯いて、膝を立てた。
チラリと瞬きをするふりをして見た。
カルキの依代となった美舞が、祭壇に座っていた。
大きく五芒星と逆五芒星の刻まれてあるブラックの大理石でできた高い台の上に、背もたれが、十字架になっている椅子があり、ピシャリと光る三面鏡のついたてを背にしていた。
服は、頭のてっぺんからつま先迄、ブラックで、Aラインワンピース、ハイヒールの様であった。
又、伸びたのか、長い髪を垂らしていた。
そして、座ったまま、祭壇から、左手を上げた。
『さあ、目覚めよ、醒なる者どもよ!』
左手で、サークルを描いた。
『……グングニル』
玲は、はっとした。
「男子空手部の試合中に唱えた呪文を今、再びはっきりと唱えた。一体、どんな意味があるのか?」
そして、左腕を大きく動かして、左の列に向けて、手前から奥へ放った。
バッバーッ
右の列に向けて、手前から奥へ同じく放った。
玲は、こちらに居た。
バッバーッ
すると、信者のろうそくに、次々と火が灯った。
玲のにも灯った。
辺りが良く見える様になった。
チラリと再び見渡した。
「むくちゃんが居ないな……」
かなり、辛く重い気持ちになった。
「俺だけで来れば良かったんだ……。余計な事をして、本当にすまない」
『吾に供物を捧げよ。崇拝する念の強い者から……。ちこう寄れ』
美舞は、お構いなしであった。
「オオ…」
先頭に居たオレンジの服の髪の長い女が、ろうそくを両手で高くかかげて、祭壇の真正面にある鏡の長椅子に、歩み寄った。
そして、長椅子に座り、ろうそくを左手に持ち、胸の前で十字を切った。
「これから、何が行われるのか? 供物とは何だろう」
玲は、目を凝らした。
『これより、供物改めの儀を始める』
2
『横になるべく参ったのじゃな』
見れば、その女は、二十代前半位であった。
指示されたかの様に、長椅子に仰向けに寝そべった。
『ろうそくをかかげよ』
美舞は、左手で、女に手を向けた。
「オオ……。カルキサマ」
玲は、信者の女が、カルキと言ったのに、驚いた。
「信仰はしているのか。カルキは、区別がつくのか」
女は、ろうそくを胸の真上に高々とかかげた。
「カルキサマ。イカニモ」
『……グングニル』
「再び、あの言葉を唱えたか」
ひやりとした。
『ころりころり、回れ回れ時間よ回れ……』
美舞は、左手を小さく回した。
「そして、やはり、時間に関する事を言っている」
玲の観察は続いた。
『この者の時間と如何なる想い出をも吾に授けよ!』
「何だって? 時間に想い出を奪うとは!」
玲が、そう思うや否やであった。
ビカーッ。
ビカリーッ。
ビカーッ。
三面鏡から、各々光が照りつけ、女を照らした。
椅子の背もたれ部分の十字架の影が、伸びた。
そして、オレンジの服の胸の上に十字架を描いた。
「何だ、これは」
唖然とした。
「美舞を透かして、十字架の影が、できているのは一体なんだ? 美舞は、もうカルキになってしまったのか? 嘘だと言ってくれ」
玲は、憤った。
「うう……。俺は、カルキなんかには、負けない! 美舞に、元の可愛い美舞に戻す! 必ずだ!」
玲は、ろうそくを持っていない右手の拳に力を入れた。
3
供物改めの儀は、続いた。
「オレンジの服に焼き付いた十字架は、まるで、神聖と言うより、悪魔のカルマに見えるな」
玲は、信者ではなかったので、呑み込まれなかった。
「あの信者を助けに行くか。放っては置けないな」
左の列後方から、にじり寄って、前に進む。
「なあに、二十人位だ。人の背中に入り込みながら、行けるだろう」
ゆっくりだが、一人二人と越して行った。
そして、先頭から二人目の背中に隠れた。
「美舞だ……。美舞の顔が見えるか」
玲は、時間城のせいで、老けていやしないかと心配をしていた。
「ん、なんか、違うな? 見た事はある顔だが、美舞ではない。寧ろ少し若返った様な……」
どこか、不思議な思いを覚えた。
「結婚式より前、高校生がやっとこな感じだな。美舞の若い頃とは違う」
一方、オレンジの服の女に異変が起きた。
「カルキサマ……。ワタシハ、コソダテニ、ツカレマシタ。ソノコハ、イエニ、オイテキマシタ。マダ、ユキモアルノニ。ワタシハ、ツミブカイ。イッソノコト、トオクデ、ヤスマセテクダサイ」
『ならば、吾に任せよ。十字架の中に眠る時間よ、吾に!』
美舞に似たカルキが、そう叫んだ。
シュー……!
硝煙が上がる。
ガッ。
『左手の五芒星よ!』
左手をゆっくりと頭上にかかげた。
ガッ。
『右手の逆五芒星よ!』
右手をゆっくりと頭上にかかげた。
ガッガッ。
両手の掌を交差させて重ねる。
ガガガガガガガーン!
玲は、この時、美舞に似たカルキを見ていたので、信者の様子を見そびれた。
見ると、オレンジの服の女は、ぐったりとしていた。
「しまった!」
既に遅かった。
女は、ごろんと、長椅子からこちら側に落ちた。
駆け寄ってみると、浅いけれども、呼吸が確認できた。
「良かった、最悪の事態ではないらしい」
玲は、額に汗をにじませた。
『ようこそ』
『ようこそ』
ふいに、玲は、上から声を掛けられた。
『待ちくたびれたぞ、土方玲』
『待ちくたびれたぞ、土方玲』
「美舞が二人?」
見上げると、美舞いは、二人居た。




