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β38 奇妙な行進★時間城への潜入

□第三十八章□

□奇妙な行進★時間城への潜入□


   1


 気が付くと、信者達は、俺を見ていた。


「おいおい、俺は、関係ないだろう」

 凡そ、左右、二十人ずつの、我を失った様な信者達が、トンネルを作ってゆっくりと襲って来た。


「待てよ、善良な信者達よ、君らの崇める神は、どこにいるのかい?」

 信者達は、お構いなく近付いて来る。


 ずしゃずしゃ。

 ずるりずるり。


「参ったな。何故、こっちへ来るのかな? 神に会いに来たのでしょう?」


 ずるんずるん。


 信者の一人、ブラウンのジャンバーを来た男が、かなり近付いて来た。

「止めろ、帰りなさい」

 玲のその言葉も聞かず、左腕をぶん回して来たので、玲は、右手をさっと上げて、ブロックした。

「やあっ」

 そして、そのまま、男の腕を掴んで、投げた。

 元々我を失っていたが、伸びて気を失った。


「止めなさいって」


 ずるるずるる。


「俺は、負けないよ。妻と娘を助けると言う大切な事をしに来たのでな」


 今度は、左から、花柄のスカーフをした女が、蛙の様に跳躍して来た。

「やあっ」

 玲は、下から腹に向かってストレートにパンチをし、女の体躯を打ち上げた。


「分かった? 攻撃はおしまい。全員伸してしまおうと思えば、できるのだよ。止めなさいね」

 玲は、自信を取り戻して来た。

「そうだ、俺は、美舞と闘える腕はあったのだな。暫く振りで、忘れていたよ」


「オオオオ」

「ウウオオ」


 信者達は、呻いて、再び佇み始めた。

 攻撃は止めたと見られた。


「話せる仲だな。カルキ、美舞を崇めに来たのでしょう。道案内してくれるかい」


   2


 信者達は、暫く佇んだ後、淀んだ目をしたまま、再び落としていた燭台を手に取った。

 勿論、灯火はない。


 先頭にいた、オレンジの服を着た髪の長い女が、燭台を握った両手をかざした。


「オオ……」


 他の信者も燭台を両手で握り、胸に当ててから、かざした。


「オオ……」

「オオ……」


「五芒星の城壁に囲まれた、この十字架建物。まだまだ、謎が深い。このまま、真っ直ぐに行けば、縦長の構造を行くであろう。彼らは奥に行くのか……? しんがりで、混ざってついて行くか」

 玲も燭台を手にした。


「ズタズタのコートは、城内に散らばっている筈だ。だが、今は誰も持っていない。あれは何だったのか」

 不思議な事が多く、玲を考えさせていた。


「オオ……。オ……」


 ボウッ。

 ボウッ。


「驚かすなよ。俺のコートの切れ端に火がついたよ。まるで、道を照らす様に」

 信者の足下に散らばって落ちていた様であった。


 しかし、その火から、ろうそくに灯火は取らない様であった。

 玲も違和感を与える為、火は取らなかった。


「随分とゆっくりだが、前に進むな」

 玲は、にじりにじりと歩んだ。

「しかし、信者達は、何故、生きているのに、足音がまるで腐っている様なのか。俺にだけは、そう聞こえるが。亡者ではないよな。先程は、投げられたしな」


「オオ……」


 ずるる。

 ずしゃ。


「俺は、バレていそうな気もするが。足音は、忍者の如くは、得意だが、亡者の如くは、不得手だな」

 ぶつぶつと独りごちをしながら進んだ。


   3


 体内時計か分からないが、凡そ、三十分は歩いた。


「なんか、喉が渇くな。水が欲しい。ここは、乾いている。火のせいか……」


「美舞、君は、お腹が空かないのかい? 今なら何が食べたいかな」

 本気で心配していた。

「美舞、君は、水分を摂っているのかい? ウルフお義父さんに付き合って好きになった、レモンティーも飲めていないだろうな。可哀想に」


「そうだ、俺は、君に食べ物を持って来れば良かったな。ごめんな」

 美舞が元気なのは、玲の願いであった。


「むくちゃんのミルクは、十一時に飲ませたっきりだな。あれから一時間半以上位か。お粥は、食べた時に、美味しそうで良かった。離乳食も早いな、はは」


 ブラックのバンドの腕時計を見て確認した。

「時間が、分からない?」

 時計は、ぐるぐると回っていた。

 反時計回りに、せわしく回っていた。

「何だ、これは。もうこれ位で驚かないが」

 

「虚数空間は、もう出たのだよな」

 自覚症状がある程、はっきりと出た。

 あの正門であった。


「さっき、美舞と天守閣で会った時は、この時計は、壊れた動きをしなかった。茂みで時刻を確認できた。城壁の中迄は、大丈夫なのか」

 針が余りにもせわしいので、この異常を意識せざるを得ない。

 だから、玲は、時間を見るのは止める事にした。


 玲に、ある仮説がよぎった。この仮説は一瞬にして考えたかに思えた。

 何故ならば、時間の感覚が大分違うからだ。

 しかも加速度的であった。


「この城は、特に天守閣……。時間をコントロールしていないか?」


 パッアーン……!


「そうか!」


 ここからの思考は、水が波紋を広げる様であった。


「むくちゃんのテレパシーの会話術や飛翔術は、置いておくとしても、離乳食に入るとか、身体的成長、美舞ママに僻むとか色々だが、会話の内容等、精神的成長には、目を見張るものがあった」

 そして、考えは、まとまりを見せた。

「もし、時間が、むくちゃんの成長を助けているとすれば、納得が行く。影響力があるのが城の中に限定はしない。近くに住んでいても尚だ」


「では、美舞は、どうなっているのか? むくちゃんの場合と同じだと、老けてしまっている? さっき、天守閣で手を踏みつけられた時には、顔が見えなかった」

 美舞のいつもの可愛い笑みを思い浮かべた。

「いや、老けてしまっても、いつ迄も愛しているが、カルキのせいで、可哀想だ」


「待っていろ、この先に居るのだろう?」

 玲は、好戦的な目になった。


「俺は、美舞に会いに来た。そして、助ける! むくちゃんもだ! むくちゃんは、鼠ではないぞ」

 玲には、愛があった。


「待っていろ、カルキ……!」

 玲には、必ず救わなくてはならない妻と娘がいた。


「この城は、時間城……!」


「俺から、想い出を奪えると思うなよ!」

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