β35 夜間飛翔潜入★玲の後悔遅し
□第三十五章□
□夜間飛翔潜入★玲の後悔遅し□
1
すうー……。
二人で、城が、五芒星に見える所迄、高く上がった。
――このくらいでいいですか?
「ひょおお。何、このスースー感」
玲は、高所恐怖症ではないが、何とも言えないスースーする感じが、嫌にならない訳はなかった。
「まあ、馴れよう。むくちゃんは、そんな事言わないし。な、むくちゃん」
――こわいです。たかいですね、ここ。
「そ、そうだよな。どこか見付けて降りよう。美舞専用の入り口は、多分天守閣の上だと思うから。屋根瓦に降りようか」
――わかりました。そっとおろします。このあたりにします。
「頼むな……。そーっとな」
ガチャーン。
ガチャガチャ。
「これは、まずい事になったよ」
まさかの迷コントロール。
思わず小声になるが、遅いかも知れなかった。
――かわらが、われてしまいました。ごめんなさい。
「済んでしまった事だ。それはいいから。ここから離れよう」
今度こそ、そうっと移動した。
むくちゃんは、屋根に沿い、低く飛んだ。
「何か、泥棒みたいだな」
玲は、こうした事は、ウルフやマリアに比べれば苦手の様であった。
月明かりもなく、城にライトもない。今、明るくしたら、泥棒二匹が見付かってしまう。
ビュウビュウー。
「寒いなあ……。むくちゃんが、風邪引いてしまうな」
風が目に厳しかった。
開けようとも薄目になってしまった。
――どうしましたか?
「寒いだろう。こっちにおいで」
むくちゃんに手を伸ばす。
――そんなにさむくありません。だいじょうぶです。
「いいから」
ふわりと浮いていたむくちゃんを優しく引き寄せて抱いた。
ぎゅっ。
「あそこで尾根が切れている。そこ迄、這って行くよ」
タイトな服装で来たので、掛けてあげる上着がないのを悔いた。
「ごめんな」
――ふぎゃ。ぱーぱ、ぎゅっしなくてもだいじょうぶです。
「そう言わないで、俺が甘かった。大丈夫だから。行こう……。まだ、見付かっていない」
ゆっくり、動き出した。
ズリズリ。
ガタ。
「気を付けろ」
呟いた。
ズリズリズリ。
ガタガタ。
「もう少し……。ふう……」
ここから、降りられそうだと言う所迄来た。
むくちゃんを抱えたまま、体の向きを変えて、右足から降りる。
その足で探っていて、足を置く場所が見付かった。
「よし!」
『何の鼠か? お客様?』
右足をぐっと下に引かれた。
そのまま、下にズリ下がった。
――ズサアアア……。
「うああああ!」
体が、何もない所に落ちて行った。
ふわっと浮いて、気持ちの良いものではなかった。
その上、聞き覚えのある声に驚きは隠せなかった。
「……この声。この声は! ……美舞なのか?」
2
「美舞! どうしていた? 元気だったか?」
感動の再会にしたかった。
しかし、今は、落ちそうになっているこの身を左手一つで、とっかかりにすがる様に支えていたので、美舞のぎりっと踏みねじる足しかなかった。
「美舞が……。見えなくて、残念だよ」
玲の本音であった。
『如何に見ようとも、この鼠、カルキの信者ではなきにあらず』
玲のすがっていた、とっかかりに、美舞は、ぐりっと足をねじ込んだ。
「うああああ! や、止めような、美舞」
美舞は、更にねじ込んだ。
ぐっぐっぐりっ。
『そこの者、吾は、カルキなり。ミマイとは、なんぞ?』
上から見下ろしている目線は、気配から分かる程、氷の様であった。
「俺が、愛している妻だ」
熱い想いで、ぐっと言った。
しかし、カルキには、通じない様であった。
「俺は、土方玲。まだ、幼い俺達の娘は、土方むく。何か思い出さないか?」
玲も、ここで引けない。
『如何なる話ぞ? ぬしは吾を愚弄しに来た輩なり』
氷の様な視線に、びりっと来た。
「慌てるな、美舞、お前は、カルキではない。土方家の大切な妻、そして――」
――まーま。
「むくちゃん! 飛んだら危ない!」
抱いていたのに、飛び出してしまった。
――まーまとあそびたかったです。
ふわふわふわふわ
ふわりとグリーンのおくるみのまま、美舞の攻撃範疇に来た。にこにことしている。
「むくちゃん、今は、待ってくれ。美舞と話し合おう……!」
必死で止めた。
だが、行ってしまっては、どうにもならない状況であった。
ずしゃっ。
べしゃっ。
「む、むくちゃ……」
愛憎が、がむしゃらに玲の背中をぞぞぞっと走った。
3
「何が起きたんだー! 何の音だ? 潰れる音が、ずしゃっとか、聞こえたぞ」
焦りがつのる、玲。
『鼠がおったのじゃ』
上から、又、聞こえた。
「むくちゃんの事か? 俺達の赤ちゃんだぞ! まさか……」
『ムクチャン? そは、なんぞ?』
「うああああ! やめてくれ、悪夢だと言ってくれ!」
耳をふさぎたいが、そうも行かない。
「むくちゃん! むくちゃん! むくちゃん!」
叫ぶ。
叫ぶ。
叫ぶ。
「どこにいるんだー! むーくー!」
娘を探す声が、天空から城内に向けて響いた。
「大好きなんだ。愛しているんだ。かけがえがないんだ。むくちゃんの事を世界一愛しているぱーぱは、俺だ!」
そうだ。
「俺だ!」
そうだった。
「俺が、パパだ!」
大切なむくちゃんのぱーぱは。
「す、姿を見せてくれ、頼むから……」




