β26 転生★ピンクのほほえみの為に
『星の囁きβ ~ 醒なる美舞☆玲の愛 ~』をご覧いただき、誠にありがとうございます。
第一部にて、美舞が、周囲の力を借り、自身が目覚めていく様を描きました。
第二部では、その後、玲と二人の赤ちゃんが、美舞を守って愛する、人としての様を描きます。
スーパーベイビー、むくちゃんの活躍もお楽しみいただけたら幸いです。
□第二部□
□第二十六章□
□転生★ピンクのほほえみの為に□
1
プルルルル……。
プルルルル……。
ピッ。
「はい、あ、美舞? どうしたの? 電話なんて」
電話で少しこもった声が珍しい芳川日菜子。
「あ、ひなちゃん。あ、あのさ……」
もごもごしている美舞。
こんな恥ずかしがりやな面も結構ある。
「うん?」
いつも通りに聞く体勢に入る日菜子。
「な、なんでもないや!」
恥ずかしいのが、マックスのご様子。
ガチャ。
ツー。
ツー。
「なんですと?」
日菜子は、すぐさま掛け直した。
ピロピロピロ……。
ピロピロピロ……。
「もしもし、土方美舞さんのお電話でしょうか?」
「はい、土方美舞です。お待たせしました。はい、ごめんなさい。僕が悪かったです」
電話様に向かって、頭を垂れる。
「謝るなら、電話は切らない事だよ。土方美舞君! ははは」
怒っている様子はない。
「すみません……」
ぺこぺこ。
「はははは。ふふふふ。うふふ……」
笑いが愛らしくなって来た日菜子。
「ど、どうしたの?」
笑われているので、不思議と思い、訊いた。
「美舞、玲君との素敵なご報告かな?」
にまにまって、擬音が聞こえそうであった。
「え? いや、え? なんで? え? はい、はい」
ドギマギ。
こちらは、そんな擬音。
「きゃあー。やっぱり? おめでとうございます。予定日は?」
お見通しの日菜子。
そして、からかいではなく、喜んでいる。
嬉しいのである。
「さ、三月三十一日って……」
玲との結婚、それよりも一段と胸が熱くなって来た。
ふと涙が滲み、この頃時折掛ける様になった黒縁の眼鏡を少しずらした。
「そうか、ママになるんだね。何だかとても嬉しいけど、この電話の様に、遠くへ行ってしまいそう」
電話の声も遠い感じになった。
日菜子は、今の所、独身で妊娠もしていない。
「そ、そんな事ないよ。ひなちゃんとは、生涯の親友だよ……」
本音を分かって欲しくて、一所懸命である。
「本当におめでとう。心から祈っています。無事に、ね。うん、それだけは、体にだけは気を付けてね。武道は、休みなさいね」
「ん、ありがとう」
分かっていると、伝えたかった。
「じゃあ、又」
「うん、またね。またね」
名残惜しいのが、堪らなかった。
ガチャリ。
ツー。
ツー。
そして、冷たい機械の音にやり切れなくなった。
シャラン。
シャラン。
その胸中でいる時、突然、ベルが鳴った。
徳川第二団地の四〇一号室に美舞の家と同じベルを取り付けたそれである。
2
「あっ。れ、玲、お帰りなさい。医学部の後、塾のアルバイトは? 今日はないのね?」
電話の後、奥の六畳間のリビングにて、まるテーブルに野菜ジュースを置き、美舞は、テレビを見ていた。
まだ、お腹は目立っていないが、リラックスする為に、赤と生成のボーダーのマタニティウエアを着ていた。
「美舞がさ、ボーダーが好きってだけで笑ってしまって、ごはんのおかずが要らないよ」
玲が、毎度の如く笑い転げた。
何でも可愛い様であった。
「明るい色味が好きなのは、きっと、産まれてくる赤ちゃんの趣味かもね。良いでしょう」
玲は、黒のコートを脱いだ。
「玲は、何かと黒。シャツもパンツもベルトも腕時計も、黒。性格は、甘いのですけどね」
美舞は、対抗意識で、にやりとて笑ってやった。
「僕は、玲がこんなに、黒ばかり着るのに、コーヒーは、角砂糖三つにミルクがないと駄目って、知っているんだからね」
玲には、両親が居ない。
母の土方さおりは早くに亡くなっていた。
玲の父、葉慈は怪しげな方法と妖しいモノにより、殺されていた。
実家がなかったが、土方家がお家断絶になる為、美舞から嫁いだ。
そんな事を思い出していた。
「玲って、団地の四階迄、足音が聞こえないね。いつも、びっくりだよ」
少し、野菜ジュースを飲んだ。
「余り驚くと、赤ちゃんもびっくりしないかい?」
優しい玲。
「玲、優しいね。ありがとう」
一つ年下でも、感覚的には、同い年である。
彼は三月十一日生まれで、美舞は三月十日生まれである。
年に一度、美舞が二つ上になる。
そんな縁にも擽られる。
そして、出産予定日が三月三十一日とは、生まれて来る子にも、深い縁を感じる。
「検診、一緒に通うから、共にがんばろうな。美舞ができない事は、遠慮するな。俺がなんでもやるさ」
珍しく、肩なんか抱いて来た。
「勿論、生まれてからも、俺達の子を全力で育てるし……。守るから。心配すんな」
美舞は、額に皺を寄せて、青い顔をしている。
「き、機嫌直して」
さっと玲が言う。
「悪阻みたい。ごめ、トイレ……!」
秒速幾つかで、トイレに駆け込む。
「うっうっ……!」
吐くには、トイレが最適である。
間に合わないと、ティッシュでは、足りないし、洗面所では、流れない。
美舞もかなり、慣れて来た。
「困ったね。力になれなくて悪い。余り吐き過ぎるな」
赤ちゃんを授かるには、こんな道もあるのかとは、二人の呟きであった。
3
そして、何ヵ月か過ぎ、美舞はレントゲンで確かめる事になった。
徳川大学大学病院の医師の藤原あかりが話す。
「土方美舞さん、当初からご相談していました通り、帝王切開に致しましょうか。やはり、赤ちゃんの頭の大きさが骨盤を通るのは、難しいのですね」
いつもゆっくりとし、優しげである。
「そうですか。分かりました」
特段、驚いた訳ではない。
自分が小柄だから、分かってはいた。
「あちらで、帝王切開についてやスケジュール等、お話し致しましょう。ご主人もおいでください」
「はい。分かりました」
玲も、納得はしていた。
「ああ、やはり帝王切開か。手術か」
美舞の手にそっと触れた。
「何でもないとは思うけど、心配しないと言えば嘘になるな」
「玲……」
ふと、この手のあたたかさに気が付いた。
そして、美舞の五芒星と逆五芒星の痣についても、二人は再び気になった。




