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β24 結婚式の奇跡☆流れ星に祝福されて

□第二十四章□

□結婚式の奇跡☆流れ星に祝福されて□


   1


 ――五年後


 シャラン。

 シャラン。


 美舞の家に、日菜子が来た。

「こんばんは。お邪魔致します」


「ひなちゃん、僕の為に、結婚式の準備を手伝ってくれて、本当にありがとう。やー、ありがたい!」

 ハグをした。

 美舞は、まだ、普段着のグレーのニットワンピースにタイツ姿である。

「いやいや、なんの」

 照れもみえる、日菜子。

 日菜子は、オレンジのスーツを着ていた。


「ひなちゃんは、総合家政学部も忙しいのに。又、大学で、ハイジ部作って部長さんやって。ねっ」

 美舞は、日菜子用のスリッパを揃えて置き、居間へと案内した。

「美舞は、大学へは行かなかったけど、もう武道家でしょう? 日々、自分を鍛練する一方、徳川学園に通い、コーチを勤めたりと、がんばっているよね」

 自慢の親友、大好きな親友。

 そう思い続けて来た。

「好きな事しかしていないよ」

 素直な美舞の素直な生き方であった。


「玲君は、凄いよね。医学部に進学して、塾講師のアルバイト迄して。インテリだわ」

 やはり、友達ががんばっていると嬉しい。

「アルバイトは、子供達に、色々楽しく教えるのが好きなんだって。医学部は、葉慈お父さんが、軍医だったんだって。割りと後から知ったんだよ。僕は」

 美舞は凄くもないよと日菜子に笑った。


 そして、今日は、三浦美舞と土方玲の結婚式である。


 今は、七月七日の晴れた夜。

 三浦家リビングにてマリアとウルフがウエディング姿の美舞の元に揃っていた。


「父さん、泣くのはもうよしてよ」

 マリアの様に美しくなった美舞の前で落ち着かないウルフと落ち着き過ぎて怖いマリアであった。

 家族だけの団欒は最後のひとときとなった。


「美舞、キスは父さんの前でしてはいかんぞ! あれは心臓に悪い! いかん!」

 ウルフはウエディングドレスのまだ飾ってあるベールを触り懇願した。

「……」

 縋る様でみっともないけれどもその気持ちも分かるのでマリアは黙っていた。


「人前結婚式なんだから、仕方ないじゃない」

 美舞と言う娘は、性格が少しウルフに似ている。

 ウルフを慕っているのは間違いがないのであった。

 寂しいのは父、ウルフだけではない。

 その娘もそうである事は表情から十分伺えたが、それでも宥めるしかないのは、美舞の中の強さと毅さであった。


「美舞は、見た目は母さんの様に美しく、中身は父さんの様な所があって、もう最高の娘だといつもいつも自慢していたのに」

 ウルフはポケットチーフで涙腺から鼻に出たものをかんでしまった。

「これからも、そのままでいいでしょう? 父さんの娘をやめる訳じゃないんだよ」

 美舞もウルフとは負けない所が似ていて可愛いと、又ポケットチーフを使ってしまった。


「はい、ウルフ」

 新しいポケットチーフをマリアが渡してくれた。

 用意していた様であった。

「あの男……。婿にすればよかった」

 ウルフの余計な呟きで、ピチッとマリアにでこピンをされた。


「貴方はお酒も戴きませんからね。発散できないのは分かります」

 マリアが肩をさすった。

「……。マリアは流石妻なだけあるなあ。死に水はおばあちゃんに取って貰おう」

 ウルフが思いっきり馬鹿な事を言い出した。


「やーめっ」

 美舞にでこピンを一つ。

「駄目ね……」

 マリアにでこピンをもう一つされた。


「あいててて……」


   2


 コンコン。


 ノックの音がして日菜子の声がした。

「お支度の仕上げに来ました。日菜子です」

 美舞はその時が来たのだと感慨も積もり、又これからは中々行き来できなくなる親友に一目会いたくてドアを開けた。

「ひなちゃん、この度はお手伝いありがとう……。何度でも言うよ」


「芳川日菜子さん。私達からもお礼を申し上げます」

 マリアとウルフが深々と頭を垂れた。

「いえ、些細な事で恐縮です。この度は誠におめでとうございます」

 日菜子のコーディネイトは最高であった。

 美舞と玲で基本的には式の支度をしたのであったが、日菜子のサポートで粋なものになった。

 衣装デザイン、縫製、ハイジ部部長の腕前の最高傑作になった。


 さて、式はとうとう始まった。


 三浦家でのガーデンパーティー形式である。

 三浦家の居間には、まだ、皆がいた。 


 花嫁であるワンショルダーのウエディングドレス姿の今もの静かな美舞。

 新郎であるタキシード姿のいつもの様子の玲。

 そして新婦の父であるモーニング姿の畏まったウルフ。

 同じく母である“漆黒のマリア”ならではの黒いイブニングドレス姿の花嫁をも凌駕しそうなマリア。


「玲君、時間だから……」

 玲は、日菜子に呼ばれて、先に庭に出て来た。


 この新しい家族の間で結婚式と結婚披露宴が始まろうとしていた。

 美舞は三浦家から土方家に入る事になるのであった。


 三浦家の庭では、ピンクの胸元のリボンが可愛らしいワンピース姿の日菜子らが列席していた。

 これも、ハイジ部部長日菜子のお手製である。 


 日菜子も含め周囲はあたたかく見守ってくれていた。


   3


 三浦家の玄関から出て来た美舞とウルフとマリアに日菜子は頬が照った。

 そして優しく美舞に声を掛けた。

「美舞、今一番輝いている……。ウエディングドレスではなくて、美舞が、美しく舞っている……。本当におめでとう、土方美舞」

 日菜子はそっと自分の涙を拭った。


 父が花嫁の手を引き、母がその後を歩み、新郎に美舞の手を渡した。

 粛然と歩んで行った。


 三浦家と土方家の四人の心境は様々で複雑であり、列席した皆が察するに鳥滸がましい感じさえした。


 玲と美舞は皆の前で誓いの言葉を述べた。

「私達は永遠に愛し合う事を誓います」


「糟糠の妻は堂より下さずと肝に銘じます」

 玲が。

「夫婦は二世と肝に銘じます」

 美舞が。


 玲が美舞の頬にそっと右手を当てた。

 玲の右手にはもう力はない。

 美舞は桜の様にその瞼を閉じた。

 次第に当てられた右手から己の紅潮する頬を隠せなかった。

 玲も又、うっすらと潤ませたのは甕覗き色の涙であった。


    4


 二人は優しくキスを交わした。

 それはマリアとウルフが知り合った時と同じ日の夜。

 七月八日の零時ジャスト。


 ――すると、星降る夜空から祝福の星が一筋流れた。

 流星群の最初の一つ星であった。


「おめでとう!」

「おめでとう!」

「かんぱーい!」


 祝福の星に誰か気が付いたであろうか……。

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