β21 殺害の真相☆奇異なる死因に背後から
□第二十一章□
□殺害の真相☆奇異なる死因に背後から□
1
美舞は、玲によって手厚く看護された。
美舞の部屋に入るのは憚られ、体躯はリビングのソファーに横たえられていた。
白いシャツは何故か雷を浴びた筈だが焦げる事もなかった。
そのシャツを開襟した。
「俺の不注意だった……」
玲は右手を掲げ左手で自身の右手の手首を握り締めた。
シャラン。
シャラン。
美舞の家のベルが鳴った。
美舞の両親がその晩遅く帰って来たのであった。
「美舞! どうしたんだ……」
美舞の父、司狼ことウルフが先ず駆け寄って顔を覗きこんだ。
「ウルフ、大丈夫みたいよ」
美舞の母、真理亜ことマリアがウルフの横に来て冷静に見て言った。
そして、自分の利き手でない右手でウルフの同じく痣のない手を取った。
マリアが気を美舞の胸の上に翳して与えると、美舞は目を覚ました。
「……。あれ? 僕、どうして……?」
美舞が美舞に戻っていた。
それを見て玲は胸を撫で下ろした。
「うん、でも何ともないみたいだけど……」
美舞は静かにソファーに座った。
玲は傍に付き添った。
ウルフとマリアは向いに腰掛けた。
「気を失っていたんだ。それからの事、自分が語った事は、両の手の痣に訊いてみるといい」
玲はきっと何かある筈だと確信があった。
ウルフとマリアも見守った。
「はっ。そうなんだ……。うん、うん」
美舞は玲の言葉に素直に従い自分と会話をしていた。
「父さん、母さん、僕は神になっていたみたいだ。それもただならぬ神の様な……」
そして、自分が語ったジーンアブダクションと神のカルマについて語り出した。
美舞の両親は真剣に聞いていた。
「分かったよ、美舞」
ウルフも涙ながらに聞いていた。
娘がこんな辛い目に会うとは。
「そうね、ウルフ」
マリアも勿論心配ではあったが、若い頃とは違い落ち着いて聞いていた。
2
「そうだ、玲君、大切な話がある」
いつになく真剣な顔のウルフ。
「言い難いが、君の父、土方葉慈は殺されたと分かった」
膝の上で手を組み、玲の表情を見つめていた。
「……」
あの怜悧な玲が衝撃を隠さなかった。
ウルフもそれを見て、自分も苦しくなった。
戦友なのである。
戦場で刎頸の交わりとも言うべき絆があるのである。
「くっ……。悔しいです……」
正直な感想を伝えた。
母も他界してしまっていた。
もう玲には親はいないのである。
しかも殺されたのである。
「分かるよ」
ウルフが宥めた。
気持ちを穏やかにさせようと肩を抱いた。
「一体、誰がどうやって……?」
玲が真相を知りたいのは至極の事であった。
「それが、聖魔なんだ。聖魔の仕業なんだ。いや、神も関わっているかも知れない」
葉慈の事は、マリアはウルフの口から語らせてあげたいと黙っていた。
「どうしてそれが分かったのですか? 私には分かりませんでした」
玲は、縋る様な目つきで、第二の父とも感じ取れる司狼に伺った。
「葉慈の場合、司法解剖されたそうだね。我々が、コネを使ってそのデータを見せて貰った」
経緯を簡潔に語り出した。
話が長引いては玲も辛かろうとの配慮であった。
「どうだったのですか?」
父が大好きだった玲。
懐に秘めてある小さな尊影を胸の上から抱いた。
「遺伝子が全て核から抜かれていたのだよ。解剖して、念の為電気泳動をしたデータには、下の方にカスすら流れて来なかったとか」
意外な死因をウルフが述べた。
「そんな馬鹿な!」
美舞と玲が声を揃えて言った。
高校生にだってそんな事があり得ない事だと分かる奇妙な出来事なのである。
3
「こんな仕業をするのは、人間、いや、人類には出来ない。きっと聖魔が絡んでいるに違いない……!」
異常な死に方が分かった時に真っ先に憤りを隠せなかったのはウルフであった。
「自分の運命は享受できるが、葉慈だけは……。あんな事になるなんて」
立ち上がって、右手を震わせた。
「母さんも聖魔が絡んでいると思うわ」
左手の革手袋を引き締めて立ち上がった。
「父さん、母さん。それじゃあ、僕も黙っていられないよ」
美舞もギラついた瞳で立ちあがった。
仄かに両の手の痣に紫煙が見える。
「……」
玲も立ち上がった。
「美舞、そう言うと思ったよ」
ウルフが玲の瞳を見つめた。
「土方玲君。君は、右手に痣はないが、力を消失する力を携えているそうだね。葉慈の日記で分かったのだよ」
玲は、頷いた。
「ウルフ、決まりね」
マリアが好戦的な顔でアルカイックに笑った。
「四人で真相を知りに行きますか」
皆に答えを訊く迄もないが、ウルフがマリアと同じ表情で笑った。
「報復なんて汚い事かも知れない。でも美舞も狙われている現状、相手の事を知るのは大切な事だ」
ウルフがリーダーになって纏めた。
「僕は、勿論闘うよ」
美舞。
「父の仇。仇討させて戴きます」
玲。
「皆、気を付けて行くのよ」
マリア。
「OK……!」
こうして四人の兵が揃った。
いざ……!