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β19 衝撃の初デート☆ケーキはパパ似よ

□第十九章□

□衝撃の初デート☆ケーキはパパ似よ□


   1


 美舞と玲は同じ家に暮らしていた。

 玲は司狼の部屋を使わせて貰っていた。


 美舞は今日は制服ではなかった。

 流石に日曜日であるし、私服であった。

 無地の白いシャツにミジンボーダーのグレーのTシャツにデニムのタイトスカートであった。


 約束の時間の三十分前にリビングに来た。

 美舞はいつも三十分前行動を取っている。

 待たせたくないのである。


 所が驚いた事にダイニングに玲を見た。

 玲は軽く手を振っていた。


「やあ、すっかり気が合うね」

 玲は爽やかさ満点でご飯にお味噌汁に鱚のチーズと塩昆布鋏揚げに玲の漬けた茄子をテーブルに並べていた。

「全く同じ時間だね」

 美舞も食事の支度を手伝った。


「最初に徳乃川神宮(とくのがわじんぐう)を見に行かないかい? こう言う所、俺は好きなんだ」

 玲は食事をしながら話し掛けた。

「僕もだよ。近くに居ながら行く機会が少ないんだ。嬉しいなあ。玲君も同じ趣味だとはね」

 お付き合いに疎い美舞でもデートとやらに少しわくわくして来た。


「じゃあ、出よう」


 シャラン。

 シャラン。


 ベルが鳴った。


 玲が鍵を掛けてくれて、二人で徳乃川神宮へ向かった。


 徳乃川神宮は美舞の家から徒歩二十分程の距離である。

 道すがら、二人は先日の新入生歓迎大会の話で盛り上がっていた。


「俺は、結局は勝ち負けは結果だと思うな」

 玲は美舞をからかった。

「いや、あれは僕にハプニングがなければ、普通に闘えていたさ。それなら負けないよ」

 美舞も負けじ心でかなり冷や汗を掻きながら必死で熱弁をした。


 とどのつまりは、最後の闘いで勝った負けたの事で、美舞も玲も負けん気は負けないと言う事がお互いに分かった。

 それが可笑しくて笑っていたら、丁度、神宮に到着した。


   2


 徳乃川神宮に来たのであるから、二人は目配せをして早速お参りに向かった。

 お賽銭が投げられると中で何と結婚式を挙げていた。


 チャリーン。

 チャリーン。


 幾つかの音と厳かな式が不思議な空間を作っていた。


「ああ、綺麗だろうね……」

 うっとりと玲が囁く様な声で話した。

「だろうって、何が?」

 玲のこのうっとりとした目に美舞はちょっと恥ずかしくなってしまい、つい俯きながら訊いてしまった。


「美舞先輩の花嫁衣装だよ」

 玲は微笑んでもの静かに語った。

「……! な、何言っているの玲君!」

 よく分からなくなって、顔の前で左右に両手を振った。

 その両の手には革手袋の新しいものが着けられていた。

 司狼の部屋に予備があると玲も聞かされていたもので、大会の後火傷の様な痕が癒えたら、玲が包帯を解いて手渡してくれたのである。


 二人は、徳乃川神宮の森を歩きながら話していた。

 学園都市にこんな自然があって綺麗だなと二人で木々の梢や小鳥の鳴き声を聴いていた。

 入学シーズンとあり、八重桜を見つめていた。


「俺は、美舞先輩と本当に結婚したいと思っているんだ」

 桜を見ると、あの時の美舞の瞳を思い出して本音を言っていた。

「……。ど、どうして。そんな、会ったばかりじゃない」

 美舞は動揺を隠せないでいた。

 何を話したらいいのか分からずに会ったばかりだなんて、一目惚れと言う事もあるのに。


「それは、今日、デートしてみて帰りに分かるよ」

 いつもの様に穏やかに美舞を落ち着かせる様に言った。

「普通、付き合って一日とかあり得ないと思うけど」

 やっと、冗句の言える美舞に戻った。


   3


「ここもいいですが、そろそろ参道のウランストリートの方を歩いて行きましょうか」

 玲は自然と誘った。

 実は桜に気恥ずかしくなって来たのであった。

 美舞はそれに表だっては気が付かなかった。

「そうだね。ここもエネルギーに満ちていていいけれども僕達が自然の邪魔みたいな気がして来たよ」

 桜の持つエネルギーがまさか自分の生まれに関わっているとは未だ知る由もなかった。


「邪魔じゃないですよ。美舞先輩は特に」

 自然を愛する玲らしき発言であった。

 しかも美舞は別格の様であった。

「そう? 何となくそう思ったんだ。それから、僕の事は先輩を付けないで呼んで欲しいな」

 何だか打ち解けて来て、美舞も嬉しい。


「分かりました。では、今度から」

 玲は畏まって西洋風のお辞儀を何故かした。

「あ、は」

 美舞はその滑稽さに微笑んだ。


「そうだ、ひなちゃんが、お誕生日が近いよって言っていたよ。僕は、三月十日が誕生日なんだ。玲君は?」

「俺は、十一日ですよ。三月十一日。何か、生まれる前から、縁があったのでしょうか? 一年と一日違いですね」

 話も弾みながら、ウランストリートに入った。


 ここは元徳乃川神宮の参道であるが、今はファッションブランドがお洒落に立ち並ぶ。

 建物も何もかも瀟洒であった。


「ケーキでも食べますか?」

 二人で店をウインドウショッピングしながら、玲はゆっくりと話したいので勧めた。

「僕、甘いもの苦手なんだけど……。付き合うよ」

 悪い気はしなかった。

 でも、実はウルフが大の甘党なので、普段は辟易していた。


「よかった。俺はちょっとした甘いもの好きでして」

 正直に誘ったつもりであった。

「へえ。そうなんだ」

 軽く笑った。

 司狼も同じだから、それを言いたいのを我慢していた。

 美舞はかなりファザコンであった。


   4


「じゃあ、このお店にしましょうか」

 玲が知った店であるかの様にデートモードと言うより少し大人の店を選んだ。

「OKだよ」

 美舞は少し父の様なこの玲に段々と惹かれて行った。

 父さんもこうした店が好きそうだったからだ。


 二人で蔦に覆われた煉瓦作りの少しレトロなお店を叩いた。

 中は、琥珀色の綺麗な家具で出来ており、ランプはアールヌーボーであった。

 蜻蛉の細工のランプの席に座った。


 美舞はフォンダンの美味しそうに掛ったミルフィーユ、玲はザッハトルテを頼んだ。


「このお店は国際的だね」

 玲が冗句を言った。

「ん? 何が?」

 意外で美舞は分からなかった。


「ケーキがですよ。二つ目のケーキはどうしますか?」

 又、しれっとして言われた。

「え? 二つ目! 普通一個だよ」

 美舞は一個でも甘くてたくさんなのに驚いた。


「二個ですよ」

 玲がおどけて日菜子の真似をし、口を尖らせた。

「一個。太るよ、無駄に。体重なら鍛えて増やさないと」

 軽くムキになった。


「くすっ。普通、体重の話は筋肉で片付けない女の子が多いのですがね」

 本当に可笑しかったらしい。

「あ、生きて行くには大切な事だよ」

 又、ムキになった。


「まあまあ。ムキにならないでね。そう言う所が可愛いんですよ」

 こう言う台詞はちょっと恥ずかしいらしい。

 顔が軽く紅潮し出した。

「玲君……」

 美舞も頬が赤らんで来たのであった。


「美舞……」

 何となくそう呼びたくなった。


 美舞は二つ目のケーキを頼む事にした。


   5


「美舞は、唯一レモンティーが好きなんだね」

 今度は、玲がミルフィーユを食べていた。

 美舞はザッハトルテを眺めていたが、唾を飲んで一口食べた。

「うん、甘い物の中ではね。心太も好きだよ」

 喫茶店で大胆発言であった。

 それが可笑しくて玲は笑った。


「へえ、食べ物一つ取ってもお互いに知らない事ばかりなんだね」

 玲は美舞が初めて付き合った女の子の様であったが、何かとそつがない。

「はは。出逢ったばかりだもの」

 当たり前の事すら、そう箸が転んでもおかしい年頃になっていた。


 会話がどんどん弾んだ。

 長居してはいけないとマスターに礼を言って店を後にした。

 割り勘にした所は美舞の提言であった。


 色々なお店を見て回ったり、お互いの話をしたりと忙しく過ごした。

 初めて出逢った頃には考えられない程打ち解けていた。


「もう、帰ろうか……」

 どちらともなく言い出した。

 堪え切れないものがあった。

 夕陽が二人の影を伸ばした。

 時間が経ってしまったものは戻らない。


「そうだ。家のお夕飯は僕が作るよ」

 美舞の料理もマリアと司狼の仕込みで十分に堪能出来る。

「いいね。楽しみだなあ」

 そう言いながら二人は同じ三浦家に帰宅して行った。


 三浦家の門扉の前に立った。

 玲が先に入り鍵を開けようと思っていたのであるが、美舞が庭に出て駆けだした。

「ただいま帰りました!」

 美舞は元気に家に挨拶をした。


「待って、用心して!」

 玲が美舞を引き留めようと腕を掴もうとした時である。

 美舞が急に振り返り、二人は手を繋ぐ形になったのである。


 その時である。


「ああああああ……!」


 美舞に電流の様なものが走り、両の手の革手袋がバリバリバリと音を立てて破けてしまったのであった。


「しまった……!」

 玲のその声は雷鳴と共に掻き消された。


 美舞に衝撃の事件が起きた。

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