表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/49

β17 光芒☆光のホウキ星に

□第十七章□

□光芒☆光のホウキ星に□


   1


「美舞、試合はとうとう決勝戦に迄進んだよ。後、一戦だよ」

 テキパキとしていた、マネージャー兼親友の試合経過の記入の手を休めて、隅に控えに来た美舞に声を掛けた。


「そうだね。ほら、外を見て……。もう、黄昏か。黄昏からの試合だよ……。綺麗だけど、少し怖い空だ」

 高い所の窓をうんと振り仰いだ。


「はー、なんか、空気違うよね。会場も静かだよ」

 日菜子は、美舞が、試合に対して何を考えているのかは分からなかったが、そっと言った。


 果たして、美舞と玲の試合はどうなるのであろうか。

 お互いに力は使わない拮抗した闘いにするのは、暗黙の了承である。


『第一闘技場 三浦美舞 対 土方玲』


 闘技場は静謐に戻った。

 先程迄のざわめきはなく、この二人に注視していた。


 美舞と玲は未だ対峙する前であり、きちんと立ちそれぞれに控えていた。

 そして、何かに瞑想する様に瞼をきゅっと閉じて俯いていた。

 傍から見たら何でもない間であったのかも知れない。

 しかし、運命の糸に結ばれた二人には、相通ずるものがあった。


 美舞と玲の鼓動は高鳴っていた。

 それは二人共呼応し合っていた。

「トクン……。トクン……。トクン……」

 美舞の心臓が玲を訴えた。

「トクン……。トクン……。トクン……」

 玲も美舞に応えた。


 さっき迄お喋りであった美舞が流石に日菜子に話し掛けなかった。


 日菜子は二人の様子を見つめていた。

「美舞、がんばって……!」

 日菜子の心の強い呟きは、届いた様であった。

「大丈夫。僕はいけるよ!」

 美舞は自分に言い聞かせているかの様であった。


「トクン……。トクン……」

「トクン……。トクン……」


 再び、相惹かれあう心音が呼び合った。


 美舞は桜の花が開く様に静かに目を開いた。

「桜……?」

 玲は美舞の本当を見た気がした。

 そして、美舞にしては意外にも厳峻な様子で玲に語った。

「緊張はしていないよ。」

 負けじ心丸出しである。


「そうみたいだね。……まあ同じかな」

 くすっと玲が笑った。

 可愛いと言った風であった。

「今は、高鳴るだけなんだよ。僕、こう言う時って」

 美舞のいつもの癖が出た。

 それが分かってしまっているのが、少し怖かった。

 これが、美舞の青春であるとは思わなかった。


「うん。分かる。分かるよ、美舞」

 玲とは相通ずるものがあった。


   2


「それから……。変な事じゃなければいいよ……」

 少し顔を赤らめて斜め下を向いた。

「……。ははっは。『もし、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いて下さい』ですか?」

 玲は、額に手を当てて鳥が歌う様に笑った。


「うん。変な事じゃなければね!」

 ちょっと意地を張り過ぎの美舞。

 笑われたのがそんなに悔しかったのか。


 日菜子も傍らから見ていて笑ってしまった位可愛らしかった。

「美舞って可愛いんだから……! 結構隠し財産よ」

 日菜子はもうこの二人を弄りたくて堪らなかった。


「玲君お勧めよー!」

 日菜子は冗句のつもりで叫んだ。

 会場がわっと響めいた。

「何、何、なんなのさー!」

 美舞の抗いは効かなかった。


「ヒュー!」

「ヒュー、ヒュー!!」

 あちらこちらから、からかわれて、美舞は初めての赤い感情を得た。

 それに対して説明が付かないのに更に困っていた。

「別にデートのお誘いって決まった訳じゃないんだから! 僕達は……!」

 躍起になる美舞。


「まあまあ。試合の前は、落ち着きましょうよ」

 玲のビターな笑いが止まらないのに、美舞は更に赤くなったが、直ぐにはっとした。

「そうだったね。試合の前は、気を高めないとね」

 美舞の眼が雌豹の様になった。

 ギラつかず、狡猾な瞳に玲はゾクっとそそられた。


「お遊びは、ここ迄だ」

 お互いに昂りは充分に上げられた。

「了解」

 二人は闘技場に登った。


 パチパチパチパチ……!


 会場から拍手が上がったのは初めてであった。

 それ程に今迄の試合の素晴らしかった事とその決勝戦に期待が掛かっていた。

 舞台への足を進める度に双肩に重みを感じたが、それを跳ね飛ばす程のオーラの様なものがあった。


 中央で立ち、相見た。


 審判の声と共に、二人は礼をした。


   3


 美舞は、玲を相当警戒していたのか、防御の姿勢に入った。

 “漆黒のマリア”と“白銀のウルフ”が出逢った時、すぐさま闘いに入ったが、その時の“漆黒のマリア”の構えに似ていた。

 右足を踏み出し、右手を顔の下に構え、左手を胸の辺りに置いた。


「人前で使ってはいけない力を封印しての闘いになる……」

 そう言い聞かせての実力を抑えた構えであった。


 それに対し、玲は、攻めのポーズに入った。

 “白銀のウルフ”の構えに似ていた。

 美舞の構えを鏡に映したように左側を前に出していた。

 玲にとっては闘い易い構えであった。


「美舞がそう来るのなら、俺も封印する……」

 そう心に叫び、お互いに牽制しあっての結果、相反して鏡のポーズを取ったのであった。

 暫しの間があった。

 黄昏時でこの間は二人の長い影を陽炎の様に揺らめかせた。

 二人は同時に地を蹴った。


 そのタイミング迄も先刻のマリアとウルフの闘いの如くであった。


 ガッ


 二人は同時に地を蹴った。

 先ず、美舞が玲の腹部に拳をふるった。

 玲はそれを難無く右手で払い、払いつつも左手で脇腹を殴った。

 流石に擦っただけではあったがプライドの高い美舞はカッとなった。

 若い頃の母親、マリアそっくりであった。


「……くっ」

 美舞は今迄にない屈辱感を味わっていた。

 僕の攻撃は一つも当たらないのに、玲の攻撃が当たってしまう。

 それは今迄の対戦相手には決してあり得ない事だった。

 そして美舞が焦れば焦るほど美舞の攻撃は当たらない。

 玲の方はというと、余裕綽々という表現がぴったり来るほど難無く闘っていた。

 象が蟻を弄んでいる様にも取れた。


「どうしたんですか? それが三浦美舞先輩の闘い方ですか?」


 玲は右手で美舞の左手を掴み、背負い投げのような感じで投げた。

 美舞は受け身もまともに取れず、背中を強かに打った。


   4


「ぐぅ」

 美舞は背中の痛みよりも自分の脆さが悔しかった。

 闘いの事よりも精神の脆さに。

 今迄両親との数々の修行や自分で力を鍛えて来た筈の自分の存在意義は未だ知らぬ玲によって無に帰されようとしていた。


「負けるもんか……。ま・け・る・も・ん・か……」


 美舞の目には子供が喧嘩に負けそうになってそれを覆そうとする、ある意味で純粋な欲望が宿っていた。


『負けるもんかー』


 美舞がそう叫んだ瞬間、美舞の両の手袋が外れて閃光が零れ出した。

 それは光の(ほこさき)の様であった。

 マリアの球体と違って、手の甲から漏れたのは八方へ向かう槍に近かった。


 力は使わない筈であった。

 それなのに、思わず観衆のいる前で、もしかしたら、神・聖・魔の見ているかも知れない場で露呈してしまった。

 美舞には、今、その自覚もない。

 コントロールも効いていない。


 所がである。

 玲が落ち着いて即座に光芒の様に漏れる力を抑えた。


『……ルニグング』

 右腕を伸ばし右へ手首を回し遠隔から呪文らしきものを唱えた。

 誰も見ぬ間の出来事であった。


 マリアとウルフと違い、二人共光球ではなかった。

 美舞はマリアとウルフのハーフである。

 力がどう表れるかは、生まれてみないと分からなかった。

 玲は未だ正体不明であるが、美舞の暴走を止める事ができる事は判った。


 美舞はそれっきり呆然自失と言っていい状態でフッと倒れた。


 玲は、美舞を抱き抱えて、闘技場を静かに降りた。


「今新入生歓迎大会の優勝者は。土方。……土方玲!」

 放送も空しく玲と美舞は会場を去った。

 日菜子も心配して二人の後を慌ただしく追って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ