β16 黄昏迄☆決勝で力を封じろ
□第十六章□
□黄昏迄☆決勝で力を封じろ□
1
体育館の隅に美舞と日菜子が居る。
「うーん、こうなったね……」
美舞は、今度は唸った。
「そうね。準決勝の結果残ったのは、勿論実力を空手部でも認められていた美舞と美舞の認める玲君」
日菜子は記録と照らし合わせている。
「えっと、そして、一年生で綺羅星の如く現れたのは金山柔一君と月代夕矢君ね」
テキパキとチェックを入れる。
「対戦は、僕と柔一君、玲君と夕矢君という組み合わせだね」
「そうね」
それは、引き続き会場にある闘技場で行われる。
「がんばって、美舞!」
「勿論!」
『第一闘技場 三浦美舞 対 金山柔一』
美舞の相手は柔一である。
いつもながらに美舞より大きい相手と闘う事になる。
少しもハンデにはならないが。
柔一は、足腰が強く踏ん張りが強い。
例の力を出してはならない美舞は、両親から教わった格闘の内、柔術で行こうと考えていた。
柔一も柔道をやっていた様に見えるが、決して不利ではない。
美舞は、あらゆる格闘技を学んでいたのだから。
「ふうん……。今回は、こう行くか……」
美舞は柔一を上から下迄見ながら考えていた。
先程、美舞は試合の直前迄日菜子と話をしていた。
試合に歓喜を感じて仕方がないのである。
「ひなちゃん。決勝にも行けそうだよ」
「美舞、油断は禁物よ」
日菜子のウインクは可愛らしかった。
「そうだね。わかったよ。いつもありがとう」
「美舞、又、大きくなったね」
ちょっとした礼に機敏に反応してくれる優しい日菜子。
「背は伸びないけれどもね」
肩を竦め、少しおどけて見せた。
柔一は美舞との対戦は初めてであった。
しかし、空手部にいて美舞の実力を知らない訳がなかった。
かなり泰然とした彼であっても、美舞のオーラには負けじ心で対戦前から自己と闘っていた。
両者が闘技場へ登った。
前へ出て一礼。
「よろしくお願いします」
何か改まった風な美舞。
「よろしくお願い致します、三浦先輩」
審判の声が闘技場に響いた。
「始め!」
2
先制は美舞であった。
歓声が上がるのが遅れる程に、さっと投げてしまったのである。
観客からは、どれ程の技なのかさえ見当も付かなかった。
マリアかウルフでない限り見破れないであろう。
そして、玲もそうかも知れない。
柔一は何も言わずに動かないでいる。
審判の厳しい顔。
「止め。救護室へ。救護班運んでくれ」
柔一は強かに後頭部を打ってしまった様だ。
静かに運ばれて行った。
一撃で斃されてしまったのである。
「勝者は……。三浦美舞!」
放送に会場は沸いた。
分からないけれども凄い事だけは伝わった様である。
「試合なの? 美舞? 圧勝おめでとう。まあ、当然だけどね」
礼をして闘技場を去る美舞に、日菜子はすまして言った。
「あは。僕は運がいいのさ」
そう美舞は又肩を竦めておどけてみせた。
その時、玲は第二闘技場にいた。
3
『第二闘技場 土方玲 対 月代夕矢』
こちらはもう試合が始まっていた。
「月代くん、何パーセントの力で闘っているんだい?」
もの静かな玲の声色。
「そうですね。ご想像にお任せ致します」
夕矢の口元が笑っている。
玲と夕矢は同級生だ。
遠慮はない筈だが、最初はお互いの手を見ていた。
「では、百パーセントじゃないんだね」
勿論、玲もこんな力では済まされない程である。
夕矢が余裕綽々の内に会話をしておこうと思ったのであった。
美舞にもそうした強いもののゆとりと言うか傲慢さがあるが、玲は上を行っていた。
「ええ、まあ」
当然したりの夕矢。
「遠慮なく行かせて貰うよ」
再び構えに入った。
「どうぞ」
夕矢もそうである。
お互いに距離を取った。
普通なら、組手に回ると思われたが、違った。
「は!」
「はあ……!」
両者が空を飛んだ。
夕矢の蹴りは玲に躱されてしまい、玲が夕矢の鎖骨付近を真上から蹴り落とした。
「ぐ……。うお……」
夕矢が転げ回った。
「ほんの数パーセントだが」
意地っ張りの玲であったが、これも実力である。
幾分も接戦にならず、前半が演武に過ぎなかったと言うだけで、試合は終了した。
「勝者は……。土方玲!」
そう放送されると、第一闘技場から、日菜子のウインクが飛んで来た。
二人とも同時に勝利したのであった。
何もかも気の合う二人である。
試合は、二本先取制なのであるが、強い者同士闘っていると、一撃必殺のKO負けとなってしまうのが、新入生達にも試合を見ていて分かった。
実力の差もあるが、実践に挑む兵達のそういった闘い方が反映されているのかも知れない。
美舞は両親からの仕込みでその事が分かっていた。
試合前のある種のオーラは、いつも出ている訳ではない。
「わくわくするんだよ……」
日菜子にそう語った事があった。
血が騒ぐのであろう。
もう外は黄昏になっていた。
黄昏迄の攻防は激しくも高度な闘いが続いたのであった。