決戦の日
今回はヒイロ視点からです。
今日は決戦の日だ。
昨日は早めに寝て、疲れを取った。
朝食もちゃんと取らせたし、もう俺がしてやれることはないだろう。
ちなみにレオンは授業中寝るくらい修行させたのでこの半月起こすのが大変だった。
俺達は約束の場所に来ていた。
ここは広い広場で、よく決闘場所にも使われているようだ。
この勝負は噂になっていたようで、周りには結構、人が入っている。
そして暫く待っていると向こうもきた。
ちゃんとロミアも連れてきて、腕の立ちそうな傭兵が2人いる。
能力は多分2人とも『肉体強化』だろう。
傭兵は体を張るので『肉体強化』持ちが多い。
他の攻撃能力なら、別の職が得られるからだ。
そして、この世には『肉体強化』持ちの数が一番多い。
全体の6割程がそうである。
「約束を守ってちゃんときたようだな。」
「はい。で、私達はその2人と戦えば良いのですね?」
「ああ、その通りだ。約束はちゃんと守ってもらうからな。」
そういって、貴族はマリナに邪な視線を向ける。
きっとこの日を楽しみにしていたのだろう。
もうすぐ自分のものになると思って少し興奮しているようだ。
「そちらこそ私達が勝ったらロミアを渡してもらう約束を忘れないでくださいね。」
お前達に勝てるわけがないだろうと言う視線を送ってきて、
「わかっておる。」
「では、早速始めましょうか。」
「そうしよう。おい、アイン!さっさと終わらしてしまえ!」
「へいへい。わかりましたよ、坊ちゃん。」
「レオン。最初はお前だ。絶対に勝て。そうすれば後は俺がお前の姉を取り返してきてやる。」
「はい!」
アインとレオンが前に出て、俺達は後ろに下がる。
「悪いな坊主。ウチの坊ちゃんの我儘でこんなおっさんと戦わせちまって。痛くないように加減するから素直にやられくれ。」
「悪いなおっちゃん。俺は兄貴から勝てって言われたんだ。だからおっちゃんには本気でやらせてもらうよ。」
そう言ってレオンの持つ雰囲気が変わる。
レオンは普段はとっつきやすい雰囲気があるのだが、今はちょっとした殺気を放てるようになった。
「若いのにいい殺気放つな。こりゃ少し本気出さないとな。」
アインも同程度の殺気を放ち、『肉体強化』する。
「では、はじめ!」
公平を保つためにガヤの中から審判役を見繕い、開始の合図をさせる。
開始の合図と同時にレオンが走り出す。
レオンが木刀を抜き、アインに向けて振る。
アインは急な高速攻撃にギリギリで回避し、距離を取る。
「こら、むちゃくちゃ速い斬撃だな。俺も本気出さなきゃ負けるぞ。」
「こんなんで速いなんて言ってたら、兄貴の斬撃なんか受けれないぜ?兄貴のはこれの10倍以上速いからな。」
「はは、それが本当なら化けもんだな。」
そう言ってヘラヘラしていたアインの雰囲気が変わり、レオンに向かって剣を振ってくる。
レオンはそれを『直感』で先読みし、後の先の動きで放たれた斬撃を木刀で撃ち落としていく。
そして、アインの隙をつき、脇や腹に木刀を当てていく。
隙をつき、当てているだけなので、致命的な一撃にはならないがアインの体には確実にダメージが与えられていく。
それに焦ったアインは大振りをしてしまう。
その隙を見逃さなかったレオンは俺に放ったような自信の持てる最速の斬撃をアインの顎にヒットさせる。
脳を揺さぶられたアインはそのまま意識を失って倒れた。
俺は呆けている審判に向かって言う。
「審判。試合終了じゃないのか?」
「し、試合終了!勝者レオン!」
ガヤが唖然としている中、レオンは素知らぬ顔で帰ってくる。
「兄貴!俺勝ったよ!」
「ああ、よくやった。」
そう言って頭を撫でてやる。
すると、尻尾がフルフルと振れる。
それを見た女子の先輩から可愛いと言う声が聞こえた気がしたが多分気のせいだろう。
「次は俺の番か。レオン、この試合をよく見てろ。」
「な、なんて奴だ!あのアインが…。だが、アラム!奴をボコボコにしてやれ!」
「言われなくてもわかってますよ。やー、ボコボコにしていいと許可が出るなんて嬉しいな。ハハ。」
アラムという男は少し狂気じみた人間のようだ。
しかし、実力は確かなのだろう、さっきまで驚いていたロミアの主が活気付いている。
それに、レオンが獣人ということもあるだろう。
獣人は人族より遥かに身体能力が良いので、人族の俺なら簡単にやれると思っているのかもしれない。
(レオンにああ言ってしまった手前少し本気でやるか。あいつの実力的に5割かな。)
俺は前に出る。
「お?あそこの美少女の主様が直々にやるのか?だが子供で相手になると思われているとは俺も舐められたもんだな。」
「はい。確かに(俺の)相手になりませんね。」
「わざわざボコられにくるなんて可哀想だな。傭兵を雇う金もなかったてとこか。だが、俺は慈悲深くないんでね。遠慮なくボコボコにさせてもらうとするかね。」
「審判始めてくれ。」
「では、はじめ!」
試合開始の合図がされた瞬間俺は持っていた木刀を投げ捨てた。
「何やってんだ坊主?」
「いや、武器を使うと殺してしまうんで。」
「は?何を言ってやが…」
俺はそう言うとレオン相手には出してこなかった5割の力で急速にアラムに接近する。
アラムは咄嗟にルールギリギリの攻撃で俺の腕を切り落とそうとしてくる。
だが、アラムの剣が俺に振れることはなく、逆にアラムの肘が逆の方向に向いていた。
「グァァァァ!何が…どうなってんだ!」
「フフフ。フハハハ。」
「てめえ、何笑ってやがる!」
痛みに耐えながらアラムが聞いてくる。
「いや、悪かった。真剣な勝負の場で笑ってしまって。だが、あまりにも弱すぎて相手にならないと思ってな。」
「何だと!ガキが調子こいてんじゃねえぞ!」
そう言ってアラムが左手に剣を持ち剣を振ってくる。
「この土壇場でただ剣を振るうことしかしない時点で相手になってないんだよ。もっと工夫をしろ。」
俺はそう言い、アラムの左腕を掴む。
「なっ!」
驚いているアラムをよそに腕を握っている力を強くしていく。
「痛え!」
アラムの手から剣が落ち、俺の手を外そうと必死にもがく。
しかし、腕を掴む力は弱るどころか段々と強くなっていく。
次第に腕からミシミシと変な音がし始め、それを聞いたアラムは顔を真っ青にする。
「ま、まさか折る気なのか⁉︎やめてくれ!俺は腕が使えなくなったら食いでがなくなるんだよ。」
「知らんな。潔く俺の敵になった事を悔いろ。そして、命を奪われなかった事に感謝するんだな。」
そう言い、手に力を込め完全に男の骨を粉砕する。
バキッ!とこんな音が周囲には聞こえただろう。
「グァァァァ!」
アラムは痛みで意識が飛んだ。
そして、俺は貴族の方を向いて、殺気を放ちながら言う。
「勝負は俺達の勝ちだ。ロミアは頂くぞ。」
すると、男は震え、そのまま走り去っていった。
アインとアラム。
アイン
基本的には気の良いおっさん。
男からはモテるが女にはモテないタイプ。
年は40前半。
戦っているときの顔は怖めだが、基本は笑顔の優しめおじさん。
アラム
弱いものをいたぶるのが好きで、よく弱った魔物をいたぶっている。
しかし、金には忠実なので金さえ払っていれば襲われることはない。
年は30前半。
目つきは鋭い。