とあるありふれた人形屋
ローファンタジーか純文学かわからないのでその他にしております。
どちらにした方が良い等ありましたら感想にお願いします。
おや、皆様方。
このような場所で何をなさっているのでしょうか?
ふむ……まあ、そのような事は置いておきましょうか。
そうですね……少しお話をしましょうか。
そう、今宵は少し不思議な、それでいて、とてもありふれた、とある人形屋の話をしましょう。
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誰にでも訪れる、平凡な朝。
その人形屋にも、いつもの朝が訪れる。
「うむ……くぁ……あぁ…………もう朝か。」
その日、人形屋は、いつも通りに目が覚める。
人形屋はいつも通り、朝のルーティーンをこなし、店の準備に入る。
「爺!」
爺と呼ばれた人形屋は、声の聞こえた方へ振り向く。
「ん?なんじゃ?何かあったのか?」
「うんにゃ、おはよう!」
「あぁ、おはよう。」
「さて、皆。今日はどんなお客さんが来ても、きちんと良い子に待っておるんじゃぞ?」
「「「「「はーい!」」」」」
小さな子供達が一斉に返事をすると、老人は少し呆れたような表情をして、眉間を押さえた。
「まったく……そろそろお客さんが来る時間帯じゃからな、あまり大きな声を出すでない。」
「「「「「はーい。」」」」」
子供達は少しふてくさった様な顔をしている。
それもそのはず、まだまだ元気盛りな年頃だ。
「爺!爺!」
子供達の内の一人、薄い空色の髪をした少女が老人に話しかける。
「なんじゃ?どうかしたのか?」
少女は心配そうな顔をし、老人にこう告げた。
「今日お客さん来るかな?来ても買ってってくれるかな?」
老人は少し困った様な表情を浮かべ、
「それは、お客様次第じゃな。」
と、告げた。
「それじゃあ、買ってってくれない?」
「そうじゃなぁ……皆がちゃんと、自分達の魅力をアピール出来れば、買って行ってくれるんじゃないか?」
「ん!頑張る!」
そう言うと、空色の髪をした少女は、先程まで自分が居た場所へと戻って行く。
「さて、そろそろ開店するとしようか。」
そう言うと、老人は店の入り口に掛かっている看板を裏返した。
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少し時が経ち、昼も12時を回る頃、店の扉が開いた。
「すみませ~ん……」
その人形屋へ入ってきたのは、小学生位の少女だった。
「いらっしゃい。今回はどのようなご用件で?」
人形屋がそう問い掛けると、少女は、
「え……っと、その、あの……」
と、まるで言いたくない、とでも言うような表情をして、そう答えた後、俯いて黙りこくってしまった。
「ふむ……そうですね。」
「…………。」
「事情がどうであれ、此処は人形屋です。何かしら事情があって、家族なり、友人なりを欲する者達が辿り着く場所。
「貴女も、そうなのでしょう?」
人形屋がそう言うと、少女は少し顔を上げ、疑問に思うような表情をしながらも、小さく頷いた。
「それならば、この店で見つけてあげて下さい。貴女の新しい家族を。」
少女は少し驚いた様な表情を見せた後、暗い顔をし、また俯いてしまった。
「でも……」
と、悲痛な面持ちで呟いた声を、遮るように人形屋が言った。
「あぁ、御値段の方はお気になさらず。この子達は通常の通貨では販売しておりませんので。」
人形屋は少女に、笑顔でそう告げた。
「えっ?」
少女は酷く驚いた表情で、硬直している。
「それじゃあ一体……」
そう問い掛ける少女に、人形屋は笑顔のままこう答えた。
「ふふ……それは企業秘密でございます。」
「でも……」
「ふふ、そんな事よりも、早く選んであげて下さい。
皆、わくわくして、貴女に選ばれるのを待ってますから。」
少女は、人形屋のその言葉に少し戸惑ったものの、少しして、後ろを振り向き、人形達を眺め始めた。
数分の時が経ち、少女はとある人形の前で足を止める。
「この子…」
少女が足を止めたのは、薄い空色の髪をした、少女の人形の前だった。
「おや、その子がどうかしましたか?」
人形屋がそう聞くと、少女は答えた。
「この子……なんだか少し寂しそう。」
少女は、少しもの悲しそうな表情をして、人形屋に言った。
「私、この子がいいです。」
「この子となら……一緒に暮らして行けるかも。」
人形屋は少し笑って、
「では、その子を連れて帰ってあげて下さい。その子は綺麗好きですので、きちんとお風呂に入れてあげたり、髪のお手入れもしてあげて下さいね。」
少女は少し微笑んで、
「はい……ちゃんとお世話します。」
と、少し明るくなった声で、返事をした。
「えっと……でもお金が……」
少女が心配そうに人形屋へと問い掛けると、人形屋は、
「お代はもう頂きましたよ。」
と、答えた。
「えっ?」
少女が驚くと人形屋は、
「ふふ……先程、お代は企業秘密だと言いましたが、あれは嘘なのです。
お代は、お客様の笑顔、それとこの子達の幸せです。」
「でも、それじゃあお店が……」
「やっていけているのでお気になさらず。それよりも、その子。大切にしてあげて下さいね?」
「えっと……はい!ありがとうございました!」
少女は元気に返事をし、微笑む人形を抱き抱え、店を出ていった。
「ご来店ありがとうございました。」
老人はそう言うと、伸びをして、大きく息を吐いた後、表へ行き、看板を裏返した。
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そろそろ夜も更けて行く。
いつも通りの平凡な一日が終わりを告げる。
もしかしたら、あなたの家の近くにも、一風変わった様な、それでいて、ありふれた見た目をした人形屋があるかもしれません。
もし、そんなお店を見掛けたら、気分転換に入ってみるのも、良いかもしれませんね?
これで私の話は終わりです。
皆様方、このようなお話に付き合って頂き、誠にありがとう御座います。
それでは此れにて、解散と致しましょうか。
又、何処かで出会う事があるかも知れません。
その時は、また違った、少し不思議な噺をいたしましょう。
それでは、又、何処かで。
20/6/15 8:08 話の筋や、言い回し等、大幅に修正しました。