ニートからジョブチェンジ!
不思議な感覚だ。ゲームのNOW LOADINGの場面では、主人公はこんな感じなのだろうか。そんなことを思いつつしばらくすると辺りが明るくなった。
「着いたのか…?」
「つ、着いたの?」
目が覚めるとそこは小さな町だった。そこは現代ではなく、異世界とひと目でわかった。竜が引っ張る車や、見たこともない道具の店。それになにより、腰に剣をさげている冒険者。それらが異世界だと物語っていた。
「何これ、すごい!!」
由利は小学生のように目をキラキラさせている。俺はというと、制服はこの町では見慣れない服なので目立っている。そのため、ここでもニートの習性か足が震えていた。由利も目立っているが周りの物が興味津々なのか、一向に気にしていない。
「いや、何を怯えているんだ。ここでは過去の俺を知ってる人はいない。立ち上がれ、俺!」
俺はそんなことを1人で言っていると、服の袖を引っ張られた。
「何を1人でブツブツ行ってるの、ここは異世界なのよ。楽しみましょう!」
「おまえ、来る前は散々言っていたのに来てみると俺よりテンション高いとか。」
「そんなこといいじゃない、私海外へ行くのが夢だったの!」
「海外どころか地球外だけどな」
「細かいことはどうでもいいのよ。ところでこれからどうするの?」
「ちょっと待てよ。よいしょっと」
俺は背負っていたカバンを下ろした。
「何そのカバン、いつから背負ってたの?」
そう、移動中にラナから必要なものは入ってると言われ渡されたカバンだ。
「これは、ラナに渡されたカバンだ。まあ、金とか装備とかが入ってるんだろうけど」
俺はしばらく固まった。
「勇也、どうしたの。お腹痛いの?」
由利もカバンの中を見て固まった。
「なんで、中身がお菓子しか入ってないんだよぉぉぉぉ!!」
俺は周りの目も気にせず叫んでしまった。
一方天界では、
椅子に座ってラナが休憩していた。
「ふぅー。後は経過を部下に見守らせるだけです。たまには遊びに行くのもありですけど。そういえば、田中 勇也さんにサプライズを用意しておいたんでした。喜んでくれてますよね。きっと」
飲み物を飲みながらゆったりとした口調でラナは呟いた。
「そうでした。せっかく地球に行ってついでに美味しいと評判のお菓子を買ってきたんでした。カバンをいくつか用意しておいて正解でした」
ラナはカバンを何も無いところから取り出し、中身を見て驚いていた。
「しまったです。田中 勇也さんに預けるカバンを間違えました!あぁーあれにはこっそり食べようしていたお菓子がーー!」
ラナは1人泣いていた。
神から渡されたカバンの中身がお菓子だった。これ以上の屈辱はないだろう。
「あのガキ、舐めやがって」
「まあまあ勇也、神でも間違いはあるわよ」
「魔王を倒したら覚えてやがれよ」
いくら幼女とはいえ、この仕打ちはひどい。
「とりあえず、町を散策してみましょう」
「はぁ、そうするか」
しばらく散策していると色々な事が分かった。
主婦のおばさん方情報に聞くと、この町は初心者冒険者が集う町ルーツ。大抵の冒険者がここから始めるらしい。歴代の勇者もここから始まったこともあったらしい。基本的に初めての冒険者は酒場へ行くのが普通らしい。酒場で基本的にパーティーを募集しているのが多いんだそうだ。少しして俺達は酒場に到着した。
「ここが酒場か。扉が西武劇に出てくるのに似てるのがすごくいいな」
「そんなことより早く、入りましょう」
「そんなことって。扉は大事だぞ。てか、学生が酒場に入るのってなんか抵抗あるんだが…」
「勇也がそんなんじゃ、仲間1人作れないよ!さぁ、行こう」
俺は由利に腕を掴まれ強引に酒場に連れてかれた。
「頼もー」
由利がためらいもなく、入っていく。
「お母さん、飲み過ぎだよ!」
俺達は酒場に入ると知っている顔がいた。
「嘘だろ、おい」
「う、嘘よね」
そこにいたのは母と妹だった。
「あ、あんひゃたちもひひゃのね。おそひゃったひゃない。ヒック」
既に出来上がってらっしゃった。どうしよう、何を言っているのか分からない。
「ひゃれ?ひゅりひゃんもひたの?ひゃかいってひぃわねー?」
「お久ぶりです。おばさん、昔と変わらず元気そうで」
「まぁひょれからも、むひゅこをひゃのむよ」
「ええと、出来る限り頑張ります。」
由利すごい、会話出来てる。けど、若干押されてる。
「落ち着け酔っ払い。それよりもどうしてここにいるんだよ」
戸惑いながら俺が聞くと、
「お母さんベロンベロンだし、私が答えるね。」
遥香が言った。
「えっと、どこから話したらいいかな。卒業式に私いなかったんだけど、卒業式で急に生徒が2人行方不明になったんだって。お兄ちゃんと由利さんだけど。そしたら大騒ぎになるじゃない、それで中学校にも電話掛かってきて、職員室に呼び出されたんだよ。そしたらそこで時間が止まったんだよ。それでラナって可愛い子が出てきてこう説明されたんだよ。お兄ちゃんが異世界で犯罪を犯そうとしてるから止めて欲しいって。後は流れかなー。お母さんも一緒の説明されたっ。」
「あ、あの野郎……。可愛い顔して酷すぎる……。あの顔でとんだドSだな!それもいいけど」
俺の言葉に遥香が軽く引いて、
「お兄ちゃん……。最後なんて……?」
そんな言葉を遮り由利が聞いてきた。
「それよりもこれからどうするの?」
由利の質問に遥香が答えた。
「ラナさんから貰った『これがあれば安心!初心者のためのガイドブック』によるとだね。初心者はまず酒場に併設されてる職業転職人に話しかけるんだって。」
神様の癖に意地悪だなんて、やっぱり今日の俺はツイてない。
「じゃあ、その職業転職人にところへ行こうか。てか母さんが静かだな……寝てるし」
だるそうに俺は言った。由利が寝てる母を背負い、俺達は職業転職人のところへ向かった。俺じゃ力足りなくて、母を背負えなかった。女子なのに男子よりも力強いとか反則だろ。
「あ、あの〜すみません。え、えっと……」
俺がドギマギしてると、
「初めまして、職業転職をされる方ですね?初めての方でしょうか?」
見かねた茶髪の男性職員が聞いてきた。
「え、え、は、はい!そそうです。」
やはり人見知り元ニート。初対面の人するが相手だとひどい。
そんな人見知り元ニート相手でも親切にしてくれる職員のお兄さん。
「では、説明しますね。職業はその人のステータスで向き不向きがあります。物理攻撃力が強いなら戦士、賢さが高いなら魔法使い、信仰心が強いなら僧侶などその人に合った職業をお選び下さい」
なるほど。基本的にド○クエみたいなものか。
「なるほど、色々あるんですね。この上級職はどうやってなるんですか?」
横から見ていた由利が聞いてきた。
「上級職ですか。基本職を極めた者がなれますね。戦士ならソードマスター、重戦士、狂戦士とかですかね。元の才能でいきなりなれる人もいますが、そんな特別な方はそれこそ伝説の勇者様ですね」
職員のお兄さんは親切に説明してくれた。
お、待てよ。水晶に映ったって俺ってもしかして……。
「では、皆さんのステータスを計らせて頂きますね」
お兄さんはそう言って、見たことのないメガネを掛け、しばらく俺達は見ると、
「はい、なるほど。分かりました。では田中 勇也さん、あなたは目立ったステータスはあなたは物理攻撃力が低く、賢さが高く、運が低いようですね。」
勇者生まれ変わり?そんな俺の希望はあっさり打ち砕かれた。いや、それよりも!
「な、なんで名前も分かるんですか!?」
どうして名前がわかったのか。不思議でならない。
「あれ、『真実のメガネ』をご存知ありませんか?これは見た対象の本当の名前とステータスを見抜く高価なアイテムなんです」
さらっとお兄さんは答えてくれた。
忘れてたここは異世界。そんなアイテムは当たり前なのか。
「ええと、話が逸れましたが田中 勇也さんは何の職業になられますか?ステータスを見た限り、物理職よりも魔法職の方が向いていますが」
お兄さんはそう言って魔法職一覧を見せてくれた。
「色々ありますね。魔法使い、祈祷師、呪術師、賢者……は上級職か。えっと、じゃあ魔法使いでお願いします」
祈祷師や呪術師は危なそうだからと消去法で魔法使いだ。
「分かりました。魔法使いですね。ではこの紙に書かれた魔法陣に触れて下さい」
転職とはどうするのかと思ってはいたがその謎が解けた。こうやって魔法で職業を変えるのか。
俺は体の細胞に何かが染み込んでいくのが分かった。気持ち悪いかと言われれば少し気持ち悪い。
「はい、これで田中 勇也さんは魔法使いです。ご健闘をお待ちしております」
職員のお兄さんは頭を下げて言った。
ふと疑問に思う事があった。
「あのすみません。転職ってお金かかりますよね?これだけあれば足りますか?」
俺はそう言って遥香の持っていた財布の中身を見せた。すると職員のお兄さんは笑いながら、
「転職にお金は必要ありませんよ。将来有望な魔王倒す冒険者を増やすために国から補助金が出てるんです。だから転職にかかるお金は無料なんです」
ものすごくいい国だ。国王の顔が見てみたい。とても良い人なんだろうなぁ。
その後、由利は戦士を選んだ。流石は力が有り余ってる女だ。女らしさの欠けらも無い、あるのは胸だけだ。
遥香は僧侶、前線で戦うのは怖いんだと。それに遥香はまだ中学生怖くなるのも無理はない。
母は寝ていたので俺が決めた。踊り子という職業があったのでそれにした。みなから反対される中、母は元々ダンサーになるのが夢だったんだとか訳の分からない嘘で全員納得。なんてチョロさだ。
職員のお兄さんは苦笑いをしながら転職してくれた。
てか、勝手にパーティー出来ちゃったよ。4人中3人が家族とかもう、残念で仕方ない。でも、パーティーが4人より多くてはならないという決まりは無いが。わざわざ知らない人を入れて慌てるよりも知ってる人でパーティーを組む方が良いに決まってる。
こうして、俺達のパーティーが結成した。
どうしよう、不安しかない。