生き残りの捜索
種族の生き残りを探索することにしたロロア。
しかし、その足取りはとても慎重だ。
「特徴とかも、ちゃんと訊いておいたら良かったですね……」
彼女は1度、辺りを見渡してから歩いている。
この方法では相当な時間を要する上に精度もとても高いとまでは言えないのだが、インターネットもスマートフォンもない現在のリーフェントでは、これが当たり前。
一応、地図は売られてはいるものの、かなりの手間を要するために高級品とされていて、現在では「悪魔の炎」で焼失したものが多かった事もあってかほとんど流通していない。
仮にもしあったとしても、その値段は元の倍は当たり前となっている上、事件以降の地図は出てすらいない。
ほとんど一本しかない道を少しずつ進んでいると、何かを踏んでしまったのか不気味な音が立つ。
彼女は足下を確認した。
すると―――――。
「えっ、これは……。 一体どういう……?」
真っ黒な何かが、靴底に付いていた。
だが、鼻に来るような生臭さはない。
彼女は一度、薄い黒のような色をした粉末と化した物体を手の上に乗せる。
「なんですかね、これ……? 死体ではないと思うのですが……」
木が焼けてできた灰―――――なのだが、リーフェントでは滅多に見ない代物。
というのも、リーフェントの住民も炎魔法を使うことはあるのだが、人や動物、自然に対しての使用は法によって禁止されていた。
特に自然に対しての使用は旧リーフェント帝国の成立当初から重罪とされてきたが、「悪魔の炎」に至るまでに適用された例は無かった。
この法の存在もあるのか、「炎魔法は調理以外では特に使わない」という住民がほとんどだった。
これを発見した彼女だったが、持ち帰ろうとはしなかった。
この後も種族の生き残りを探したのだが、彼女には見つけることは出来なかった。
そして、リスクェのいた場所に戻ると―――――。
「あの……えっ……?」
「おい。 こんな所で何をしてる?」
いたのは、またしてもこの世界においては不自然な服装の男。
男が着ていたのはジャージ―――――なのだが、現在のこの世界の技術力では、その素材の調達及び開発は限り無く不可能に近い。
その足元を良く見ると、倒れ込んでいるリスクェの姿が。
男に狙われたのか―――――?
今度は取り巻きと思われる2人の少女もいる。
「……?」
そして相変わらずの彼女には理解できない日本語。
何をしてくるかも分からない―――――。
そう判断したのか、彼女は杖を両手で握る。
杖の方向の先には男。
「俺の楽しみを邪魔すんじゃねえよ……。 どんな"ステータス"なのか知らんが」
男は謎の能力を発動させ、彼女の能力を数値化させた上でそれを開示した。
その数値が余りにも低かったのか、男は突然笑い始めた。
「ハッハッハッハッハッ! おいおい、ビビりの雑魚が俺に逆らおうとしてるのか?」
男は彼女をからかうが、彼女は何を言っているか理解していない。
「面白いじゃねえか。 さっさと掛かってこいよ、"Lv4"のゴミ!」
更に挑発するが、一向に彼女は攻撃しようとしない。
それどころか、彼女は杖を握って立っているだけ。
「やれやれ、こいつは殴られに来たのか。 なら死ぬまで殴ってやるぜ」
この状況に呆れたのか、男は彼女へと近付く。
「やっちゃえー!」
「さすがリョウガさん!」
2人の少女の声援も聞こえてきた。
このリョウガという男が、他所で仲間にしたのだろうか―――――。
「え……ええっ……?」
「聞こえねえな!」
男はいきなり左足で、ロロアの右脇腹を蹴る。
「ぐっ!?」
「本当はこんなこと、やりたくないんだけどな! ハッハッハッハッハッ!!」
この蹴りで、彼女は2メートルほど吹き飛ばされた―――――。
そして体をうつ伏せにして寝るような姿勢で、地面に叩き付けられる。
有する限りの力を込めて握っていたであろう杖も、弧を描くような軌道で吹っ飛んでいく。
彼女は死には至らなかったが、体には相当な衝撃が走っていた。
「うっ、ううっ……」