過ち
その一方でロロアは、刺されてからは何一つ動きがない。
本当に殺されてしまったのか―――――。
他に戦えるような人が来ないまま、時間だけが過ぎていく。
時間が掛かろうと、状況はほとんど変わらない。
かと思いきや、彼女は突然として立ち上がった。
「……あれ?」
しばらく意識を失っていたようだ。
しかし、状態としては限りなく死に近い。
そして脇腹には、刺されていた刃物が抜かれてできた穴のようなもの。
「こいつ……! まだ生きていたのか! 死ねえええええ!!」
立ち上がった事に気付いた男が迫る。
その中での選択。それは―――――回復魔法だった。
杖を拾い直すと、彼女は詠唱を始めた。
まずその場で立ち止まり、杖を上下逆にしながら数字を数える。
「スィル、クォール、メニル!」
「はあ!?」
残されていた記憶が、回復魔法を成功させた。
放射状に広がる緑色の光と共に彼女の傷が治され、周囲の自然も燃やされる前の状態に戻っていく。
だが、その一方では男が光によって苦しめられていた。
「ぐっ!? この……馬鹿に……」
勢いそのままに光に突っ込むと、しばらくもがき苦しんだ末に血を吐き出して倒れた。
「えっ……嘘……?」
意識していなかったロロアも、倒れていた男を見た後に頭を抱え込む。
自分の身体の傷を治すために行ったはずが、男の死に繋がるとは思っていなかったためだ。
「こんな私が……世界を救おうとしているって……?」
使命以前の問題。
住民達はほとんどが気付いてなかったが―――――。
「これは……?」
一人がそれを見つけると、他人も集まりだす。
「見たことのない服だ……転生者か?」
「一体誰がこんな事を……」
これが騒ぎになると、彼女は自分の両手を頭から放しては立ち上がり―――――。
「……私が……私がやりました」
自らが犯人だと名乗り出た。
「お前……さっきの奴か!?」
「この人に殺されそうになって、一度自分の傷を癒やして、その後に見渡していたら苦しんでいて……」
「身を守るためだったのか?」
「唐突に襲ってきたので……」
「襲ってきたから殺しても正当防衛になるとでも言いたいのか。 人を殺した奴が、今更何を言っても遅いぞ?」
住民の質問に答えていく彼女。
「……ですよね」
すると突然、話から逃げるように走り出した。
だが、住民達はこれを追わない。
「おい! 追わないのか?」
「どっかから逃げて泣きついてくるだろ。 その時殴ってやればいい」
「……そうか」
というのも、元々のリーフェントの住民には「一度悪事を働いた者はその後自分が別の場所で起こした災いによって裁かれる」と考える者も多い。
この世界でとても大きい派閥になる規模の宗教の教えによる影響が強いためだ。
「あの枯れているのは……木だったものですか?」
一方でその考えに一度助けられた、と言っても過言ではないロロア。
未だ空腹との戦いも続く中、次に目指す事にしたのはかつての森だった。
犯罪者と冒険者という、真逆の二つの仮面を付ける事になったが、旅は終わらない。
全ては、世界に自然を取り戻すため―――――。
その頃、ある城では―――――。
魔王を名乗る人物に、別の人物が報告していた。
「王! 大変な事が起こりました」
「何?」
「例の反逆者が、我が軍の者を殺したそうで……」
「雑魚同然の敵を前に何をやっている!? それよりも早く攻め込め!」
「承知しました」
更なる攻勢が決まった。