町に現れた刺客
そして話は町に戻り―――――。
男がロロアに刃物を向け、襲い掛かってきた。
しかし、彼女には杖に付けられた斧と槍以外で戦う術を持っていない上、その2つの武器を満足に扱う事もできない。
自身の体を狙う男に対し、彼女には杖の槍の部分を使った防御が精一杯。
しばらくして、刃物を持った男は一度槍の部分を向けたロロアから5m程離れた。
彼女は殺されずに済んだものの、扱い慣れていない武器で完全に身体を守りきれるはずがなく、肩や足の掠り傷からは小量の血が滴れていた。
茶色の服は一部が裂かれていて、血液の染みている部分もあった。
「面倒な奴だ。 だが、これで殺す!」
そして、男は走り出した。
唯一覚えている回復魔法を使おうにも、暗唱が間に合わない―――――。
この状況から、彼女が覚悟していた事。
それは、「死」だった。
逃げようにも後ろから刺し殺され、防御しようにも杖が使い物にならなくなる可能性がある。
彼女がこの状況で出来た事は、やはり目を瞑って斧の部分を向けた杖を両手で握る事だけだった。
その顔には恐怖や緊張が走り、息遣いも荒くなっていく。
「怖じ気付いて抵抗も出来なくなったか。 ならここで死ね!」
男は握った刃物で、ロロアの右脇腹を刺そうとする。
『頑張ろうね、魔法の練習』
『ロロア……。 父さんはあの様な事を言ってるけど、私は貴方の未来が良い物になると信じてる。 引っ越すなら、これを着ていきなさい』
『回復魔法以外覚えていない? そうか……。 だが、それだけで落ち込むような事はない』
そんな時に彼女の脳内に浮かぶ、自分が今までに言われた言葉の数々。
そして、刃物は男の狙い通りに刺さった。
何も言えないままロロアは吹き飛ばされ、枯れた草原を少しだけ転がった。
刺さった刃物はその勢いで脇腹から抜ける。
「見たか、お前ら! この俺に抗おうものなら、あのようになるぞ!」
男はその様を見ては、住民達に向かって勝ち誇るようだった。
だが、男の話している言語は日本語。
元々の話す言葉が違うリーフェントの住民達は、何を喋っているかわかっていない。