また始まる旅
翌朝―――――。
ムィエーソは既に起きていたが、ロロアは未だに眠っていた。
「私も、用があるのでな」
寝ている間に、彼は別の用事のために移動していた。
彼女が目を覚ましたのは、それから1時間ほどの事だった。
「寝れました……」
2夜連続で、燃やされた草花の上で寝ていた彼女。
布団のようなものも無い上に燃やされた後のため、焦げ臭い上に固い。
それでも、寝れないよりは良いと判断していた。
そんな彼女は、起きてすぐに服のポケットの中に眼鏡がある事を確認し、杖と本を持って旅へと動き出した。
「今度こそ、旅に出ないといけません」
空腹も厳しくなってくる中、まずロロアが目指したのは、現在のイエント連邦にある自分が住んでいた村から東にある街だった。
"悪魔の炎"が襲う前は村に最も近い街で、彼女にとっては村の次に馴染みのあった所。
しかし、その街へと歩いている途中で―――――。
「ああっ、あれは……」
目の前に、以前に倒された時と全く同じような物体が現れてしまった。
前は集団だったが、今回は赤い物体が1体だけ。
まず、彼女は杖を握り、斧になっている部分をその物体に向ける。
物体は以前よりも早く襲い掛かってきた。
「あっ、ああっ……」
ロロアは怯えるばかりで、ほとんど動けない。
そして両目を瞑り、自分の死を確信した。
『なんでお前みたいな奴の髪が緑なんだよ! リーフェントの誇る自然の色なんだぞ!?』
『はあ? 魔法使いになりたくてここに学びに来たわけじゃないの? 邪魔だよ』
『一人で村に住む? 俺達家族はお前の事なんか一切手助けしない。 勝手にしろ!』
そんな時、過去に言われた言葉が、次々と彼女の頭の中を過っていった。
しばらく瞑っていた目を開けると―――――。
物体の突進する勢いで杖は縦に回転し、後ろの方向へ吹っ飛んでいた。
「ぐっ!?」
そして彼女は胸と腹の間に重い一撃を受け、俯せの状態に。
それでも立ち上がっては杖を取りに行くが、物体が背中にのしかかり、また俯せの状態に。
その背中の上から動じない物体。
彼女は立ち上がる事ができないまま、時間だけが過ぎていく。
助けを求めようにも手段がない上、手足を使った戦い方も分からない。
「どうすれば……」
生き残るために残されていた手段の一つは―――――「命乞い」だった。
しかし物体には口も目も見当たらなければ、どこに耳があるかも分からない。
あったとしても、話の主旨は伝わらない可能性がある。
結局、彼女には物体が背中から去ってくれる事を祈るしかなかった。
それから3時間が過ぎると、物体は彼女から離れていった。
「……あれ?」
身が軽くなると、彼女はすぐに立ち上がる。
そして、飛ばされていた杖をまた右手に握った。
物体に対して、特に意識していた事はない。
だが、物体は"そういう生き物"かもしれない。
訊かれても、言い返せないであろう状況だった。
「とにかく、街を目指さないと……」
しかし、物体はこの塊らしきものだけではない。
彼女の旅は、まだまだ始まったばかりだ。




