力と勇気を求められたとき
「早くしろ」
しかし、男がまたねだった。
その後から会話が止まり、互いに他人を見つめ合う。
「……あの、リスクェさん」
そんな状況を破ったのは、ロロアだった。
「なんだ?」
「私があなたの力になれなかった事、恨んでいますか……?」
彼女が気にしていたのは、自身が頼まれていた、「生き残った仲間の捜索」についてだ。
成果を挙げる事はできなかったし、敵から守る事もできなかった。
彼女自身にとって、リスクェが自身を嫌うきっかけは、他に考えられなかった。
「そんな事はない。 何も、暴力や乱暴などはされていない以上、本来であれば私がお前に歯向かう理由もないのだが……」
「では、どうして私を攻撃しようとするのですか?」
問いに対し、リスクェは一度目をつむり、口を閉じた。
聞かされていた印象とは大きな差があり、どう認識すればいいか分からなくなっていた。
「それは……私が―――――」
「絶対に言うな!」
時間を置いて、理由を明かそうとした所に、男が大声で横槍を入れた。
「あの、あなたは……?」
その男へと振り向く。
「俺は、お前が殺した奴らと同じ、『転生者』だ! 我々の間では、お前の事は大罪人として―――――」
「確かにそうだ。 だが、その始末は最後だとも言ったはずだ」
そこに更に割って入ってきたのは、よりにもよってシュウトだった。
「……えっ?」
「まっ、魔王様!?」
場にいた2人にとって、意外な出来事だった。
「ところで、その小物はどうするつもりだった?」
「これに攻撃させることで、奴を人間不信に……」
「ほう。 俺ならこうしている、よく見ていろ」
男に説明させると、シュウトはその途中でリスクェの方へと歩き出した。
「……やめろ」
悪い予感を感じていた。
「口出しするな。 大人しく俺の言葉に従え」
要求に対し、言葉を返さない。
羽根以外の動きも見せなかった。
「従えと言っているんだが。 何故できない?」
問い詰めても、リスクェは動きを見せない。
そんな彼女に行ったのは―――――暴力だった。
拳を握った左手は、彼女の上半身を捉えた。
理不尽にも、吹き飛ばされる。
「あ……あの……」
その様子を見て、ロロアができたのは、体を震わせながら、普段より小さい声を発する口で、『やめてほしい』と言おうとした事だけだった。
「始末しただけだ。 ああなりたくないなら、罪を認めて、ここの原則に則って生活する事だ」
「……はい」
また小さい声、リスクェに向けたままの視線で返事をした。
言葉にやや過剰な反応をした身体は、震えたままだった。
自身の持つ勇気が、相手の与える恐怖に完全に負けてしまっていた。
「聞こえないぞ。 もう一度言え」
「はい」
問いに応じて、もう一度返事をした。
「疑わしいが……まあ、良しとしよう」
従う事を決意したと捉えたシュウトは、一度別の場所へと移動した。
男もまた別の場所に移ったが、二人ともリスクェの事は無視した。
まるで、二人にとっての一つの娯楽が止められたかのようだった。
「……本当にごめんなさい」
一方のロロアは、ずっと彼女を見つめていた。
殴られてからは声を発するどころか動きが無く、生きているかどうかも分からない状態。
自分が無力だった事に起因すると思っていた。
元いた牢に戻ったのは、転生者の二人が移動してから1時間後の事だった。




