嘘じゃないなら
その後リスクェは、そのロロアのいる牢屋の前に立ち寄った。
彼女の後ろには逃げないための対策か、一人の転生者らしき見張りの男がいる。
リスクェをこの施設に連れた男とは同一人物だ。
「……これが奴か。 無様だな」
傷だらけで倒れていたロロアの姿を見て、見下した。
「意識があるかすら怪しいが……」
しかし、男にとっては、この身体状態は想定外だった。
というのも、倒れたまま、あるいは死んでいる場合であれば、「脅す」の前に「意識を戻らせる」という過程が加わってしまう。
「……いや、これは……死んでいるとしたら、私に与えられた目的が無くなるぞ?」
「この草でも使うか?」
中に立ち入った直後、迷うリスクェに意見する男。
オクメルが置いていた草を利用するつもりでいた。
「そうだな」
右手に草を持った男は、ロロアの体を右足で蹴り上げ、無理矢理口の空いている方を上にさせた。
「すり鉢は……無いか」
だが、今は「すりつぶす」手段がない。
そこで考えたのは―――――「切る事」だった。
彼は左手で草を、右手に用意していた小さめの刃物を持って切り分け、その一部をそのままロロアの口内に突っ込ませた。
しばらくの時間が経ち―――――。
ロロアの意識は戻ったが、喉に何か物を詰まらせたようにむせていた。
「何……ですか……? いきなり……?」
咳をするのような音が交わった声は小さい上にかすれていて、目には涙も浮かんでいた。
「……失望したぞ。 まさかお前が他所で人を殺していて、逃げてきた先が私のいる森だったとはな」
「……はい」
「認めるか。 無駄に潔い」
「実際、そうですけど……でも―――――」
「言い訳は無駄だ。 ……喋るようなら、これで突くぞ?」
問い質していくリスクェだが、道具を使った脅しには多少の抵抗があった。
「どうしたんですか……?」
ロロアは、そんな彼女を気にかけた。
「聞こえていないか。 なら……ここで死ね!」
しかし、喋った事に反応したリスクェは、ロロアの心臓に相当する部位に突っ込んだ。
だが、鈍く動いた右手は、刃物による切り傷の代わりに、リスクェの体の向きを大きく反らした。
状況は一旦戻り―――――。
「本当に……どうしたんですか……?」
時間が経ち、草の効果で少しずつ状態を良くしつつあるロロアだったが、その身体を震わせ始めた。
普通であれば、歯向かう理由のない相手。
そんな相手に刺されかけたのは、彼女には衝撃が強すぎた。
目も、少しだけ涙がこぼれそうだった。
「お前が憎くなった、それだけだ。 先程から見苦しいぞ、この―――――」
「私、信じてますから……。 本当なら、こんな事しないって……!」
それでも、少しの涙を流しながら、訴えかけた。
そして少しの間、リスクェの口が止まった。
「何をやっている、追い詰めるんじゃなかったのか?」
そんな彼女に対し、転生者の男からの横槍が入る。
不満のようだった。
「えっ? ……いや、しかし――――」
「裏切るつもりか? もっと追い詰めろよ」
また無言となり、今度は視線を男の顔から左下の地面の方に反らした。




