旅が始まるまでの話
西暦にして2017年―――――。
自然の広がる異世界、リーフェント。
大半が森林と山脈で、全ての種族を含めた住民の総数は12億人ほど。
600年以上に渡ってこの世界と同じ名を冠した国「リーフェント帝国」が支配しており、文明は地球のそれよりかはある程度遅れているが、都市部の地下では電線を繋げる大規模な作業が始まっていた。
ルーニェという、電気に近いものの開発や普及も進んでいたのだ。
だが、ある日に事件が起きる。
何者かが森に謎の赤い物体を投げ付けると、世界は一気に燃え盛る炎で覆い尽くされてしまったのだ。
その原因は、投げられた物体の数々だった。
薄く硬い素材で作られた何かの中には、燃える液体が入っていて、それが木に衝突した際にできた穴から液体が漏れ出た。
そこに赤い筒のようなものを投げつけ、液体に引火させていた。
これが森から草原や村の建物に燃え移り、最終的に世界中を覆い尽くすほど大きな火事になってしまった。
この事件によって、世界では死者が続出。
その死者の数は3億人に上ると言われているが、調査が遅れており、実際の死者や負傷者、行方不明者の数は分かっていない。
こうして緑色の美しい自然は、赤く燃え盛る炎によって茶色や黒色の枯れた草木へと変貌してしまった。
この事は噂された死者の数と炎の激しさから、"悪魔の炎事件"と呼ばれるようになった。
自然を燃やし尽くした後に火は消えたため滅亡とまでは行かなかったが、生存者達は以前より貧しい暮らしを強いられた。
その際に各地で混乱と暴動が発生し、リーフェント帝国は崩壊。
長きに渡って支配してきた帝国は、争うこと無く別々の国へと分裂していった。
だが、比較的被害の少なかった地域のみを領土とした国と、そうでない地域のみを領土とするしかなかった国がほとんどであり、格差が生じる事は明らかだった。
更に、「悪魔の炎」の後に起こった出来事はそれだけではなかった。
突如として、"魔王"を名乗る者が率いる魔物の群れが襲来したのだ。
原因の究明や早急な復興が望まれる中、魔物達はまるで混乱に乗じるかのように村や街へと突撃。
これにより住民達は魔物からの侵攻にも耐えなければならなくなったが、分裂した国々の大半は復興作業についての話し合いの最中で、手が回らなかった。
そんな中で、炎から生き残った一人の「魔法使い」が、放火した者の捜索や魔王の討伐、そして世界の復興に向けて立ち上がった。
その魔法使いの名は「ロロア・フルセリ」。
彼女は東部の小さな村に住んでいた、緑色の髪の魔法使い。
だが、子供の頃から必死に魔法を勉強していた訳でもなく、回復魔法以外の魔法を唱えることが出来なかった。
その回復魔法も特別という訳ではなく、リーフェントにある学校では当たり前のように教えられるもの。
世界は、普通の回復魔法しか使えない者でも救う事ができるのか―――――。
様々な使命を背負い、ロロアの長く厳しい旅は始まるのだった。