7話 誕生日
「おめでとうございます、母様!」
夕方玄関が開くと同時に、俺は笑顔で母様を出迎えた。
「わぁ! リュー君、覚えててくれたの? ありがとう! とっても嬉しい!」
母様は俺にぎゅっと抱き付くと、満面の笑みでそう言った。
部屋にはささやかながら花や装飾が飾られており、普段より明るい印象を与えている。
今日の為に、俺とヨキナ婆さんが内緒で用意したのだ。
今日は、母様の誕生日だった。
よかった……喜んでくれている!
人の誕生日など殆ど祝ったことなどなかったが、毎年悩みながらも俺はこうして用意している。
「ヨキナさんもありがとうございます! リュー君と一緒に、準備してくださったんですよね?」
「いいのよ、私は材料を用意したくらいだし。誕生日を祝う相手なんて今までいなかったから、とっても面白かったわ! 本当におめでとう、カミラさん!」
母様が俺を離すと、ヨキナ婆さんにお礼を言った。
「さぁ、母様座ってください。料理をよそいます」
「わぁ! 美味しそう!」
母様は机に並べられた料理の数々を視線の内に入れると、目を輝かせて席に着いた。
俺の作った料理で特に母様の興味を引いたのは、五種類の誕生日ケーキだった。
1ホールあたりのサイズは、小さいが砂糖も果物もふんだんに使っている。
普段は体重を気にする母様も、この日ばかりは躊躇することなく口に運んでいた。
――その結果、後日体重が2kgばかし増えたとか……。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「母様、これは僕からの誕生日プレゼントです!」
ヨキナ婆さんが旦那が待っているからと帰ったところで、俺は用意していたプレゼントを母様に渡した。
「きれい……凄い! 凄い凄い! ありがとう、リュー君!!」
母様は俺から小さな箱に入れられていたプレゼントを受け取ると、中を開けて子供のように喜んだ。
「気に入ってくれたならよかったです!」
俺はつられて、笑みを浮かべる。
愛想笑いじゃない、本当の笑みを。
「ふふ! リュー君は本当に凄いなぁ。ねぇ、リュー君が私に着けて!」
母様は髪をかき分けると、首を俺の前にさらした。
「はい」
俺は母様からチョーカーを受け取り、その首に付けた。
真紅の糸が、母様の瞳の色とよく合っている。
「どう? 似合ってる?」
「はい、とっても!」
母様は鏡の前で確認すると、クルリと1回転して見せた。
「こんな素敵なプレゼントをありがとう! ……そうだ! お返しにリュー君にコレをあげるね!」
「コレ?」
母様はそう言うと、ポケットの中から小さな袋を取り出した。
「正直、リュー君に貰ったプレゼントと比べると貧相かも知れないけど、私の母親から貰ったものだから」
「黒い……ペンダント?」
袋から取り出すと、黒い石のペンダントが入っていた。
色も透き通るような色ではなく、漆黒だ。
あまり女性受けしそうにないが、どうして母様の母親はコレを娘に贈ったのだろうか?
「うん、あんまり高いものじゃないけど、御守りで今まで持ってたの。結構、効果あるんだよ? だからリュー君の事も、守ってくれるように!」
そう言うなり、母様は俺の首にペンダントをかけた。
「……うーん、ちょっとチェーンが長いかぁ」
まだ幼児である俺には大人用はまだ大きく、ペンダント部分が腹下にまで達していた。
「チェーンなら、僕が短く出来ますよ。ありがとうございます、母様。大切にしますね!」
色味が派手じゃないせいか、コレなら男が付けてても違和感がないな。
俺は前世からモノトーンな持ち物が主だったから、こういった物の方が好みだ。
俺はそっとペンダントの石部分に、手を這わした。
すると――
「……え?」
石は淡く輝きだし、漆黒を真紅へと色彩を変えた。
血のよりも紅く、透き通るような真紅。
母様の瞳の色と同じだ。
「……ぇ、ええ!? 何で!?」
その光景に一瞬動きを止めた母様だったが、すぐに驚愕の声を上げた。
どうやら、母様にとっても予想外の事態だったようだ。
今まで何十年と身に付けていて、こんな事は今まで1度も無かったのだろう。
「……もしかして実は魔導具、だったとか? でも、そんな感じじゃなかったのになぁ」
「ぇ、と? やはり、これは母様が持っていた方が……」
魔導具は高価なものだし、それなら母様が持っていた方がきっと良いだろう。
俺はペンダントを持ち上げて、首から外そうとした。
「んーん、リュー君が持ってて。きっとリュー君が持ってた方がら役に立つと思うし、私には何の反応もしなかったしね!」
「いや……でも」
その色彩を変えた今では、このペンダントの価値が大きく変わる。
母親から貰ったと言っていたし、やっぱりこれは母様が持っていた方がいいのではないか?
「いいから、いいから♪」
母様はペンダントを外そうとしていた俺の手を止めると、俺の意見を強引に押し切った。