9話 救済
⎯⎯ルーベンスの現状は、酷いものであった。
町に入った瞬間、鼻の曲がるような腐った臭いがした。
道端には、沢山の死体が積み上げられ、そのまま放置されたままになっている。
水は腐って、畑も駄目になってしまっている。
病気でなく、飢餓で亡くなった人も多そうだ。
「……酷いな」
予測と現実は違う。
分かってはいたが、実際にこの眼で見るとより悲惨さを感じた。
「ひでぇ……」
「おい、緊急事態にぼさっとしてんじゃねぇ!」
「ねぇ、早くこっちに薬を持ってきて!!」
寂れて廃墟のように静かだった町に、大勢の人の喧騒が響く。
俺達だけでは、人手が足りない事は分かっていた。
だから、俺は偶然を装う形で、有志での救助活動を募り協力煽った。
この状況でなら、功績の殆んどは俺達のものとして認められるだろう。
「君達のお陰で、救える命を助けられるよ」
共に来た医者の1人は、俺達の目論見も知らずに感謝した。
「いえ、こうして協力してくれる方達のお陰です。元々俺達はルーベンスの噂を聞いて、少しでも助けになればと思って、食料や物資を用意していたんです。それがまさか、こんな形で役立つなんて……」
俺は印象が良くなるように愛想よく、あたかもこのタイミングで来たのは偶然であるように話した。
横のアテネが、そんな俺を胡散臭そうに眺めている。
「教会も腐敗したもんだよ、まさかこんな状態になっている町を見殺しにするなんて……君が空間魔法で、食料や物資を用意していてくれなかったら……考えるだけで恐ろしい!」
「そうですね……さぁ、話はこれくらいにして、持ち場に戻りましょう。俺は、まだまだ魔法を使えますよ」
いい加減話を続けるのが面倒になったので、適当に区切って治療スペースに移動した。
治療スペースは、患者の状態によって分けている。
5段階で分けて、俺はレベル3、4の患者の治療を担当した。
レベル5は、手付かずの状態だ。
多くの物資や回復魔法を使える魔術師はいるが、限りある薬や魔力を無駄に使うわけにはいかない。
それにレベル5の段階まで悪化していると、俺の回復魔法でも回復は不可能だ。
それこそ⎯⎯
「……ユーリ・クレイシス以外じゃ、不可能だろう」
国の数少ない魔眼持ちで教会の中でも有数の家柄、固有魔法は回復魔法の類いだと聞く。
何でも、欠損すら治療するとか……
固有魔法とだけあって、流石に常識外れの能力だ。
「まぁ、俺がユーリ・クレイシスを連れてくる事はないけどな」
ユーリ・クレイシスを此処へ連れてくれば、より多くの命が助かる。
けれど、その後の功績的にも、ユーリ・クレイシスに手柄を渡すのは避けたい。
また、長距離の空間転移を行える事を、周囲に露見させるつもりも俺にはなかった。
カードは多い方がいい。
何れユーリ・クレイシスとは、出会う時が来るだろう。
それが近いうちなのか、遠い未来なのかは分からないけれど。
それでも、いつかは必ずその時は来る。
⎯⎯何せ、彼はゲームの攻略対象者なのだ。
俺の復讐劇に、無関係ではいられない。