8話 決壊
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「おいっ、何で手紙の1通も届かねぇんだっ!? アイツ等は無事なのかっ!!?」
ルーベンスに近い、小さな町。
その町のギルド支部で、男の怒鳴り声が響く。
いや、男だけでなく他にも大勢の老若男女が詰め寄っている。
「そうは言われましても……今は病気が拡がらないように、国や教会によって通行の制限がされていますので……そちらに伺ってくれないと……」
受付の男がしどろもどろに取り成すが、男達は納得せずもう3時間以上は此処に居座っている。
これは今日初めての事ではなく、ここ数日毎日の事なので対応をしている男の顔色にも疲労がうかがえる。
「ギルドは情報には詳しい筈だろうっ!? 何か知っていて、隠しているんじゃないのかっ!?」
「そうよ、無事かどうかも分からないなんて、おかしいじゃないっ!!」
だが、自分の家族の安否がかかった状態で、他人を気遣える筈もなく、男に対する追及は今日も終わりそうにない。
「あーあ、大分煮詰まって来てるわね。このままじゃ、直接乗り込んで行きそう」
そんな男達の様子を、アテネはジュースを飲みながら他人事のように見ていた。
「後、少しだな……」
この町に来てから、数日。
日が経つ度に、人々の焦燥や疑心は強くなる。
いくらルーベンスを封鎖しているとはいえ、これ以上真実を抑える事は出来ないだろう。
「姿を偽るのも過ごしにくいし、早く元の姿で自由気ままに町を歩きたいわ」
子供の二人旅は目立つ。
なので、俺達は20代位の男女の姿はへと、周囲に魔法で見せていた。
けれど、あくまでそれは幻で、実体は子供のまま。
人前で迂闊に、物を触ったり他人に触れられては齟齬が生じてしまう。
町を動き回るにも、注意が必要だ。
「後、少しだ……後少しで決壊する」
国や教会は、此度の件で威信を大きく傷付ける事になるだろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おい、ルーベンスに救援なんて行ってねぇっ!! 今、ルーベンスから出てきたっていう子供が、助けを呼びに来たって!!」
その声は町中で、よく響いた。
そして水面に投じられた石のように、次々と波紋を呼んだ。
「何て事っ!!?」
「おい、ルーベンスの子供って感染病は大丈夫なのかよっ?!」
「一応、門番が別の部屋に隔離してるらしいけど……」
「嘘だ、ルーベンスには俺の娘がっ!」
「家族は、俺の家族は無事なのかっ!?」
「私の夫は!? あの人は無事なのっ!!??」
「国や教会は何をしてるんだっ!?」
「この町も、危ないんじゃ……」
「支援が行われてるのは、嘘だったのかっ!!」
町中が、怒声や混乱、叫び声で満たされる。
もうこの波は、誰にも止められない。
後はもう、結末まで流れていくだけだ。
「……始めるの?」
アテネが俺に問い掛ける。
俺の覚悟を、試すように。
「あぁ。行くぞ、ルーベンスの地へ⎯⎯」
そうして俺はまた1つ、罪を重ねた。
次は女王様かな。。