7話 ルーベンスの地
緑の少ない荒野、町へと続く関所は兵によって封鎖されていた。
「……やっと、到着ね」
「言う程じゃ、ないだろ」
アテネの言葉に、俺は呆れたような目を向ける。
ここまで来るのにかかった時間は、街を出てからたったの3日程で移動も魔法を使った為にそれほどの苦労はしていない。
野宿をしていた訳でもあるまいし、何かした訳でもないアテネが疲労をみせるのはおかしいだろう。
「む、レディに長旅は酷と言うものなのよ」
「レディって……お前」
俺の言葉にムッと返したアテネを、俺は鼻で笑った。
アテネは事あるごとにレディを主張するが、人外が何を言うのか。
それに幼いなりをしてはいるが、本当の年齢が幾つかなんて分からない。
言動からして少なくとも、見た目の年齢通りではないだろう。
「何かしら? 何か文句でも?」
「いや……別に」
だか、それを指摘しても面倒な事になるのは目に見えている。
態々、油に火を注ぐ事もないだろう。
「このまま町の中に入るの?」
どうやら、アテネはこのまま俺が町へ行くと思っているようだ。
折角ここまで来たのだ。
アテネがそう考えるのも、当然だろう。
「まだだ……取り敢えずは、様子見だな」
「様子見?」
アテネが怪訝そうな表情を浮かべた。
「あぁ、でないと功績として認められない可能性があるからな」
俺達は此処に辿り着くまでに、姿を偽り情報をかき集めていた。
その結果、予想通りの事態が起きていることが分かった。
ルーベンスには、国や教会から多くの支援をした公表されている。
けれど実際は、送られている筈の救援物資や人材が全くされていなかったのだ。
まず間違いなく、教会や国にとって最悪の不祥事になるだろう。
だからこそ、今のタイミングではまだ早い。
国民がこの不祥事に感づき始めてからでないと、俺達の功績が横取りされる可能性がある。
そうされては困るのだ。
「……ふふ、やっぱりヒドイわね貴方は。でもだからこそ、私は貴方を選んだのだけれど」
「そうだな」
楽しそうに問い掛けるアテナに、俺は素直に頷く。
「あら、認めるのね?」
「事実だからな」
様子を見ると言うことは、それはすなわちルーベンスの民を見殺しにする事を意味している。
自分の望みの為に、他の多くを犠牲にする。
まさに、鬼畜の所業だろう。
「まぁ……彼等は本来死ぬ筈の運命なのだから、貴方のおかげで多くが救われる事に違いはないと思うのだけれどね」
慰めなのか何なのか、アテネが珍しく労るような言葉をかける。
「……別に俺は何と言われようと構わない。それこそ恨まれても、憎まれても構わない」
「そう? なら、いいのだけれど」
罪悪感は、無いわけではない。
けれど、俺にこの選択を後悔する日はきっと来ない。
全てを犠牲にする覚悟で、俺はこの道を選んだのだから。
⎯⎯そうして、俺は大勢の人を見殺しにした。