6話 出立
ジャルダンからルーベンスの話を聞いてから1日、俺は依頼を受けるのをやめにして出来る限りの情報をかき集めていた。
「それで? 何か分かったの?」
アテネが退屈そうな顔で、俺が目を通している書類を覗き込んだ。
「……決定的な事はまだだ。ただ、大規模な救援が行われたにしては……それらしい隊や人の目撃情報もないし、食べ物や薬の値も高騰していない」
ルーベンスでは流行り病が流行している為、一般の出入りが制限されている。
その為、中の様子は全くと言っていい程何も漏れてこない。
「怪しいわね」
「あぁ……」
俺は、アテネの言葉に同意するように頷いた。
大規模な救援送られている筈なのに、全く人目につかないなんてあり得ない。
食糧や薬などの救援物資が、品薄で値が高騰しないのも不自然だ。
これは俺の予想通りの事が起きている可能性が、大いに高いということだ。
「じゃぁ、行くのね?」
「あぁ……やけに乗り気だな。お前は人間に、興味なんてないと思っていたけど。苦しんでいる人間を哀れみでもしたのか?」
やけに乗り気なアテネの言葉が気にかかり、俺はアテネに聞き返した。
別に他に何かあれば、俺はルーベンスに拘るつもりはない。
けれど、アテネはルーベンスそのものにに拘りを持っているように思える。
ルーベンスに何かあるのだろうか?
「別に人間に興味はないわ。けれど……そうね。貴方の言う勘と同じかしら? ルーベンスはあの子の臭いがするの。ドブ臭い、においが。だから、潰してしまいたいのかもね。それで少しでも、あの子の顔が歪めばいい」
俺の質問にアテネは笑って答えた、瞳の奥に憎悪の炎をたぎらせながら。
「へぇ……あの子、ね。お前の復讐したい相手が、この件に噛んでいるって?」
「そうよ。だから、きっと貴方にとっても有益だわ」
「まぁ、どうせこのまま依頼を受け続けても限りがあるからな。お前と自分の勘に賭けてもいいだろう」
成功すれば、これ以上ないチャンスだ。
上手く利用してみせる。
「行くの?」
「あぁ」
アテネの2度目の質問に、俺は力強く頷いた。
此処でこれ以上考えを巡らせても仕方ない。
現地に近い方が、情報も手に入り易いだろう。
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「おい、聞いたぞ。お前達、街の食料やら薬やらを大量に買い占めているらしいな。物の値段が高騰してるって、苦情が此方にまで来てるぞ」
次の朝、出立の準備を終えた俺達は、その報告の為ギルドへと顔を出していた。
俺達の顔を見たジャルダンは、苦い表情を浮かべている。
「多少値が上がる程度に止めているから、問題ない。それより、俺達は暫くこの街を離れる。今日はその報告に来た」
食べ物や物資の調達は多少の影響で済むように抑えたし、俺には空間魔法があるのだから、この街だけで必要と思われる量を調達するつもりはない。
向かう途中でよる町や村で、影響がない程度に少しずつ揃えていくつもりだ。
「問題ないってお前達……はぁー、んで? 何処に行くんだ? お前達の実力は分かっているが、子供だけの長旅は危険だぞ」
俺がジャルダンの苦情にさらりと返すと、ジャルダンは一瞬恨めしげな目線を向けた後諦めて話を切り替えた。
「⎯⎯⎯⎯ルーベンスだ」
俺の口から出た場所が予想外だったのか、ジャルダンは大きく目を見開いた。
「ルーベンス、って、おい、ちょっと説明を」
話は終わりだとギルドから出ようとする俺達を、慌てて止めようとするジャルダン。
「そうだ。約束、忘れるなよ?」
制止を無視して出ていこうとしたが、俺はこれだけは言っておこうと足を止め一言そう言ってギルドを後にした。
「あ? どういう意味だ? だから、おい待てって」
俺達の背後で、意味が分からんと動揺するジャルダンの声が聞こえた。