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15話 別れ

一応残酷描写ありです。


「気は済んだ?」


3度目の朝陽の光を浴びた頃、男を絶命させた俺に今まで傍観していた黒い少女が声をかけた。


「気が済む? ……済む筈ないだろう。けど、殺すべき相手はまだいる。何時までも、こうしている訳にはいかない……」


軽薄な発言に、俺は少女を睨み付けた。


「そう……それにしても、結局その男は何も吐かなかったわね。お仲間は全て吐いたのに」


黒い少女は俺の足元にある肉塊に、興味なさげに視線をやった。


「必要な情報は揃っていた。元々、コレに期待なんかしていない」


確かに俺は散々甚振りはしたが、情報を吐こうが吐かまいが関係ない。

例え、全てを素直に吐いたとしても、俺は同じだけの痛みをコレに与えただろう。


「そんなに、愛する女や娘が大切なのかしら?」


リーダー格の男は最後まで吐かなかったが、その仲間からは情報が手に入った。

コイツ等に命令を下した奴の名前も――――


「クリスティーナ・ウェルザック……シュトロベルン公爵家の娘、ね……」


シュトロベルンは代々魔眼持ちを輩出している名門にして、権力、武力、財力も兼ね備えている国一番の大貴族の名前だった。

そして、この国で最も悪名高い家の名前でもある。

この肉塊共は、元々シュトロベルンに支えている汚れ集団だったようだ。

そして拷問して得た黒幕の名は、その血を引く現ウェルザック公爵家夫人だった。


「シュトロベルンは、代々魔眼を絶やす事なく受け継いでいる国一番の大貴族よ。どうするつもり?」


黒い少女は俺に問うた。

そんな奴等を敵に回す覚悟はあるのか、と。


「問題ない。復讐は必ず行う」


確かに考えていたよりも、ずっと強大な相手だった。

だが、それが何なのか。

必ず、復讐は遂げてみせる。

相手が強大だというなら、その力を全て削ぎ落とせばいい。

権力も、武力も、財力も――1つずつ、1つずつ剥ぎ取り全てを奪いさって、地に落としてやる。

そうして全てを奪って、絶望させてから殺す。

誰にも邪魔はさせない。


「その答えが聞けてよかったわ」


そんな俺の答えは、合格だったらしい。

黒い少女は、満足そうに微笑んだ。


「それで? 次はどうするつもり?」


「お前、ついて来るつもりかよ……」


「あら? 言ったでしょう?貴方と私の目的は一致するって。当然、私も一緒に行くわ」


心外だとばかりに、そう少女は言ってのけた。


薄々は分かってはいたが、あの契約は賊共を殺すまでではなかったらしい。

つまり少女の目的は、初めから賊共の背後にあったと言うことだ。


「……お前はシュトロベルンが裏で糸を引いてる事を、知ってたってことか」


この少女は俺に必要な情報を与えはしたが、全てではない。

現に俺に賊共の背後関係を、話すことはなかった。

他にも、まだ俺に隠している事はある

のだろう。


「ふふ、そうね。知っていたわ。でも、私がそう言っても貴方は信じないでしょう? 結果は同じなのだから、教えても意味なんてないでしょう?」


「……それもそうだな」


俺は少女の言い分に、頷いた。


確かに、少女の言った通りだ。

少女が言おうが言わまいが、俺の行動は変わらなかっただろう。


「それと、お前、じゃないわ。これから長い時間を共にするというのに……お前だなんて、味気ないでしょう?」


「……別に、それで不自由はない」


態とらしくふてくされた少女に、背を向け俺は移動を始めた。


俺達は利害が一致するから、行動を共にするだけだ。

故に、この関係に馴れ合いは不要だ。


「やっぱり、ヒドイわね。そうね……私の名は、アテネよ、アテネ。私の事はこれからそう呼ぶと言いわ」


少女は、今思い付いたような名前を口にした。

少女、アテネの態度から、その名は彼女の本来の名ではないようだ。


「そう……」


けれど、名前が思い付きだろうと何だろうが、俺は興味ない。


「本当にヒドイわね……まぁ、いいわ」


しょうがないとばかりにアテネはため息をつくと、俺の後へと続いた。








◆◆◆◆◆◆◆◆









「母様……守れなくて……申し訳ありません」


母様の事を。

母様からの信頼を――


あの夜2人で行く筈だった場所、月光華の咲く場所に俺は町を出る前に再び来ていた。

ソッと母様の目蓋へと触れる。

あの男から奪い返した瞳を、在るべき場所へと返す。


「別れは済んだ? なら、早く町を出ましょう? 真紅の瞳を持つ者は珍しいから……直に騎士達がこの町に来るわ」


「……あぁ」


俺は母様から手を離すと、は母様の身体へと手を翳した。


「“アイス・クレイドル”」


俺の言葉と共に、氷の棺が母様を包み込む。

これは、氷と空間魔法を合わせた複合魔法だ。

永遠にその姿を保つ為に、何人からも母様を守る為に。


「母様、少し間お別れです」


次に会う時は、全てを終らせた後だ。

貴方はきっと復讐など、望んだりはしないだろう。

俺が平穏に生きる事を、望んでいるかもしれない。


――けれど、俺は赦さない。


母様からの信頼を裏切る事になっても、俺にはこの怒りや憎しみ、痛みをなかった事には出来ない。

だから――


「待っていろ、クリスティーナ・ウェルザック……お前も、お前の血を引く者も全て、必ず地獄の底に落してやる」




あと1話で、この章は終わりです。

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