14話 凶行
残酷描写ありです。
前半は別視点。
「……此方は任務完了した。そちらはどうだ?」
「対象の家に居た年老いた女を始末して、家ごと燃やしました。そして……どうやら、家には子供が居たようです」
賑わう町中に存在する酒場で、男達は堂々と言葉を交わす。
酒場内も3年に1度の祭りで騒がしく、町で見慣れない彼等を気にかける者など誰も居なかった。
「子供だと?」
「はい、家にはいませんでしたが、子供服などが複数。まず、間違いないかと。子供の所在は、現在不明です」
「……逃げたか?」
「分かりません。今、町中を捜索させていますが、外に出た可能性も高いかもしれません。祭りの間は、人の行き来が多くなりますので、関所のチェックも甘くなりますので」
部下から報告を受けた男は、子供を取り逃がした事に眉をひそめたが、直ぐ様新たな判断を下した。
「……この騒ぎの中で、探すのは無理だ……1度引き上げるべきだな」
「いいのですか? 万が一、その子供が公爵家の血を引いているなら……」
「問題ないだろう。あの方にとって邪魔なのは女だ。子供もあの方の視界に入らないところで生きるのなら、問題ないだろう」
それは男の甘さであったのかもしれない。
男には、自分の血を引く幼い娘がいた。
「引き上げるぞ。町の奴等が、騎士共を呼んだら厄介だ」
「了解しました。現在、町に散開している者達に伝えます。……では、後程例の場所で」
部下の男はそう告げると席を立ち、何事もなかったかのように1人店から出た。
「子供、か…………リリス」
男は氷が溶けて温くなった酒を飲み干すと、店を後にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「――待ってましたよ、アルさん?」
俺は漸くやって来た男を、笑顔で出迎えた。
平凡な男だ。
年は30を過ぎた頃か、焦げ茶色髪に目の色。
町でも多く見掛けた色の組合わせ。
何の特徴もない、町ですれ違ってもすぐに忘れてしまいそうな顔。
コイツが母様を……。
「貴様何者だ!?」
本来居る筈のない場所に居る俺を、男は警戒して声を荒げた。
いや……驚いているのは、後ろのコレのせいかもな。
俺は背後の生ゴミへと、一瞬視線を向けた。
臭い臭い、やっぱりゴミはどこまでも臭うな。
「何者って、僕は貴方が殺した女性の子供ですよ。僕の顔……母様に似ているでしょう?」
俺は被っていたフードを取り、顔を男に見せた。
「なっ、まさか!? 魔眼、だと!!?」
男は俺の顔よりも、目に宿った魔法陣を見た瞬間に驚愕の声を上げた。
「……食い付くのはそこ何ですか……まぁ、どうでもいいですけど」
俺は腹の中に渦巻く憎悪を抑えながらも、笑顔を浮かべた。
コレの結末は、どうあっても変わりはしない。
燃えた家の近くに居た賊を捕らえる事が出来たのは、都合がよかった。
俺はその男を見付けた瞬間、空間魔法の転移にて町の外へと移動し、この集合地点を吐かせた。
後は芋づる式だ。
次々と集まってくるゴミ共を、1人1人捕らえては尋問し、惨たらしく殺していくだけ。
魔法で結界を張っていたので、いくら阿鼻叫喚を上げようと、いくら濃い血臭をさせようと、一切外に漏れる事はない。
「……貴様、何が目的だ?」
男は冷や汗を額から流し、じりじりと背後へ下がっていった。
男は魔眼持ちを、身近で何度も見たことがあった。
その恐ろしさは、身に染みて理解している。
「は? 目的? 何を馬鹿な事を言ってるんだ。そんなの、決まってるだろう?」
俺は男の質問に、今まで浮かべていた笑みを完全に消し去った。
同時に男は、背後へと駆け出した。
「逃がすわけ……ないだろう? “アイス・ランス”」
俺の詠唱とともに、氷で出来た槍が出現し瞬く間に逃げる男の両足を貫いた。
「ぐぅっ!!?」
男は地面に崩れ落ち、足を貫かれた痛みに苦悶の声を上げる。
「“テレポート”」
俺は逃げた男を魔法で、目の前へと転移させる。
「お前には知っている情報を全て吐いて、苦しんで苦しんで……後ろのゴミ山に加わって貰う」
そう言うと俺は横たわった男へと近付き、男の懐へと手を伸ばした。
「……コレも返して貰う。……コレはお前なんかが、持ってていいものじゃないっ!」
俺は男の懐から瓶のような物を取りだし、中身を確認すると怒りのまま男の顔面へと靴底を振りおろした。
「がぁっ!?」
グキッと、骨の折れる音がした。
鼻の骨でも折れたのだろう。
子供の脚力といえど、魔力を纏った蹴りだ。
決して侮れない威力がある。
……こんなんじゃ、全然足りない。
「……母様」
俺は男の顔面へと何度も足を振りおろしながら、手に持った瓶へと視線を落とした。
中身は液体と、2つの球体。
液体はホルマリンだろうか、液体の中で真紅の瞳が浮かんでいる。
奪われていた母様の瞳――――
「このくらいで終わると思わないでね? 簡単には死なせないから」
回復魔法は便利だ。
やり過ぎても、何度も何度も治して繰返し生き地獄を与えることが出来る。
「本当に、狂っているわね……でも、だからこそ私には似合いなのかしら?」
黒い少女はその日壊れてしまった少年の凶行を、積み上げられた血肉の上で、笑みを絶やす事なく観賞していた。