13話 空間魔法
「そう……じゃあ、行きましょう? 逃がすつもりはないのでしょう?」
俺の答えに黒い少女は、妖艶に微笑むと手を差し出した。
「……あぁ。母様……少しだけ、待っていて下さい。すぐに戻ってきます」
俺はその手を取る事なく、母様に言葉をかけて路地裏を後にしようとした。
本当はこんな場所に母様を置いていきたくはないが、急がなければ賊に逃げられてしまう。
「心配? なら、貴方の魔法で移動させればいいわ」
そんな俺の行動を見て、黒い少女が眉を訝しげに眉をしかめた。
「……家は燃えた。頼れる人も殺された」
知らない奴に頼むことは出来ないし、今は祭りで騒がしい。
こんな場所だが、他に人が来ないと言う意味では適当な場所だ。
「だから、空間魔法を使えば良いでしょう? 貴方は、全属性への適性があるのだし」
黒い少女は、何故そうしないのかと俺に聞いた。
「空間魔法? ……それが本当だとしても、俺はその魔法を全く知らないから使えない」
何故、属性の適性が分かるのか、そんな事は今更聞かない。
この少女は、人間ではないのだから。
常識で考えるのは、間違っている。
「そう言えば貴方は、ずっと世界から隔絶されていたものね。知識が不足していて、当然ね。そうね……なら、貴方に1つ貸しを作って上げましょう……」
少女はそう言うと俺に近づき、その唇を俺の口元へと近付けた。
「おい、何をっ!?」
俺は咄嗟に押し退けようとしたが、黒い少女は止まる事なくそのまま強引に唇を重ねた。
「!!?」
その瞬間、少女から俺の知らない知識が流れてきた。
それは、各属性の高位の魔法であったり、この世界の常識、そして空間魔法の事も――――
「どうかしら? 私から貴方への贈り物は……気に入ったかしら?」
「あぁ……お前が役に立ちそうでよかったよ」
この得体の知れない少女が、俺の復讐の役に立つと思ったのは勘だった。
その勘は、間違っていなかったようだ。
「ふふっ! 随分、冷たい言い方をするのね? 酷いわ。私は貴方のために必要な知識をあげたのに、本当に酷い。さっきも町の人間ごと、全てを焼き尽くそうとするし、ね?」
可笑しそうに少女が、笑う、嗤う。
言葉とは裏腹に、その表情は心底楽しそうだ。
「アレには感謝をしている……お陰で馬鹿げた事をせずに済んだ」
もう少しで、俺は町ごと賊を焼き尽くすところだった。
あの時の光と、この黒い少女が現れたことは無関係ではないのだろう。
感謝はしている、もう少しで俺は――
「感謝している。もう少しで俺は、賊共を楽に死なせるところだった」
そんな簡単に、殺しはしない。
奴等には事の詳細を全て吐いて、生き地獄を味わってもらう。
「……貴方も大概狂っているわね。ここは貴方が生まれ育った町だって言うのに」
少女は俺の返答に一瞬眼を見張ったが、また表情を歪めた。
「お前は案外人間染みているな」
そんな事を気にかけるなんて。
俺は母様に、再び手を伸ばす。
「“クリエイト・ルーム”」
これは、この少女から与えられた知識にあった魔法。
別空間を作り出し、生物以外のものをそこに移動させる事が出来る魔法。
「準備は出来たようね……それじゃあ、行きましょうか? 先ずは、この町から出ようとしている奴等の始末かしら?」
そして俺達は、今度こそ路地裏を出た。
復讐を始める為に――――
恋愛には決して発展しません……今回、一応キスしてたけど。
2人は手を組むことにしましたが、ドライな関係です。
私の好みで、復讐もので途中で恋愛に走るのは好きじゃないので……本編は、若干匂わせつつ未満な感じですが、此方はサバサバ……邪魔になったら切り捨てるノリです。